デジタル技術を活用して不動産やインフラなどの実物資産をトークン化し、その流通と管理を容易にすることを目的とした事業を展開する三井物産デジタル・アセットマネジメント。
このプラットフォームを通じて、投資家は小口化された資産への投資が可能になり、資産の流動性向上と幅広い投資機会の提供が図られている。
三井物産デジタル・アセットマネジメントでデジタル証券の社会実装に向けてBizDevを担当するデジタル投資銀行部田本氏にST・デジタル証券(セキュリティトークン)の未来を語ってもらった。
セキュリティトークンで世界のリアルアセットや知財に活力を
——改めて田本さんのご経歴をお聞かせください。
田本英輔氏(以下、田本):学生時代、インターンシップとしてフィンテックやAIを手掛ける「株式会社LayerX」に入社しました。そこでフィンテック分野に従事し、後に三井物産からセキュリティトークンに基づく新事業の提案を受けました。
それが三井物産がLayerXと共同で三井物産デジタル・アセットマネジメントを立ち上げるきっかけです。そして大学卒業後、2020年の4月より同社に出向し現在に至ります。
——三井物産デジタル・アセットマネジメント(以下、MDM)では昨年5月に個人向け資産運用サービスとして「ALTERNA(オルタナ)」を提供開始しましたが、リリースから現在に至るまでの所感をお聞かせください。
田本:スタートまでに時間がかかったなというのが正直な感想です。会社を立ち上げたのが2020年の4月でサービスを始めたのが2023年の5月。個人投資家様への新サービスを開始するまで3年あまりかかりました。
サービスリリースから10カ月ですが、所感としては幅広い年齢層の投資家の方に登録していただいているなと思っています。デシタル証券を取り扱っているほかの大手証券会社様と比較すると特に若年層(20~40代)の投資家の利用が多いことをうれしく思います。
——ALTERNA及び外部の証券会社経由でのセキュリティトークン発行額は、今年2月20日の発表で累計250億円を超えたとのことですが、これらの数字について田本さんは率直にどのような感想を持ちましたか?
田本:デジタル証券というあたらしい投資形態の認知度が広まっていると思います。
実際、弊社のサービスにおいては、想定していたよりも多くの投資家の方に投資をいただいており、また複数のデジタル証券に投資いただく投資家様も当初想定より多くいらっしゃって、投資商品として認められつつあるという感覚です。
ALTERNAというサービスの強みの1つとして、UI/UXの面で、「実際にやってみるとわかりやすく簡単」、「投資プロセスの簡潔さと安心感が魅力」、「情報開示が豊富で安心感がある」といった声をいただきます。
これらの体験を通して、投資家の皆様には1口10万円投資をしても、余力があるからもう1口投資しようかという感覚を持っていただけているのかなと思います。また、弊社は投資家の皆様に対して、ALTERNAについての月次のレポートを出しています。
たとえばこの物件のこの部屋が空きました、という詳細の情報等です。具体的な情報を出していますので、オーナーからすればより安心感があると思っています。
——MDMとしてセキュリティトークンの発行額等、目標としている数字や、達成しなければならないと考えるミッション等がありましたらお聞かせください。
田本:経営理念として、“「眠れる銭を」、Activateせよ。”ということを掲げていています。眠れる銭というのは預金・タンス貯金などです。それらを少しでも呼び起こして、日本ないし世界のリアルアセットや知財に活力を与えていこうというのが理念です。
日本全体で預貯金が1,000兆円くらいあるといわれているので、それをどこまで活性化することができるのかを目標にやっています。仮にそれの0.1%でも呼び起こすことができたら、1兆円規模になります。どこまで大きなマーケットに成長させることができるかがミッションとしてありますね。
——田本さんが思うセキュリティトークンの最大のメリット、そして期待することはなんでしょうか?
田本:まだセキュリティトークンのメリットが100%活かしきれていないという大前提のなかで、事業を展開する過程でこういうメリットが出てくるな、と考えていることが2つあります。1つ目が、ユーティリティトークンとの組み合わせによって、投資商品としての選択肢を広げる可能性です。
具体的には、ユーティリティトークンとセキュリティトークンを組み合わせることで、セキュリティトークンの保持者にユーティリティ性を提供したり、そのユーティリティ性をほかの人に簡単に渡せるようになるかもしれません。
これにより、セキュリティトークンを介して金銭的な利益だけでなく、特典のような価値も提供できるようになります。これは、単に投資商品としてだけでなく、マーケティングツールとしても機能し得るということです。
現在は不動産に限定されていますが、実際、ホテル業界などからも、私たちのアプローチがマーケティングにつながると評価いただいています。ALTERNAブランドを通じて、投資家にとって魅力的なプロパティを宣伝することが、単なる投資の宣伝を超えたマーケティング戦略になっています。
将来的には航空機や鉄道などのインフラ資産も含めることができれば、あたらしい製品やサービスが生まれるでしょう。これは大きな潜在的なメリットです。さらにいえば投資家、事業者、運営者の三者すべてに利益をがもたらすことにつながると考えています。
もう1つのメリットとして、譲渡の簡易化があると考えています。大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)等のセカンダリー市場が活性化されると、流動化が容易になることで、長期的な商品の組成が実現する等、商品の多様化が進むことにつながると思います。
STを活用して、飛行機の利用など日常生活での経験を通じてメリットを享受できるあたらしい商品やサービスを創出できるようになると期待しています。
——現在リアルワールドアセット(RWA)のトークン化が話題になっていますが、今後、リアルワールドアセットはどれほどまでの規模まで拡大していきそうかお考えをお聞かせください。
田本:私たちは金融商品に携わっており、RWAをどのように金融商品として活用できるかに焦点を当てています。アセットの規模がどの程度になるかは現段階では不明です。しかし、その普及範囲については考えると、初期段階では国内外の不動産市場が主要な舞台になるとみています。
多様性の観点からは、まず地域の多様性が第1フェーズとなるでしょう。特に海外不動産は、今年から来年にかけての展開が期待されています。
これにより、不動産市場は急速に多様化すると思っています。続いて、インフラ分野のアセットも市場に導入される見込みです。これらの分野から始まり、次第に自動車などより身近なアセットへと範囲が広がっていくと予想しています。
理由としては、不動産やインフラは管理が比較的容易な一方で、動産は管理がより複雑になる傾向がありその難易度は高まるためです。大規模なアセットから始まり、徐々に日常生活に密接なアセットへと普及していく流れを予測しています。
また、著作権のST化も将来的には実現すると考えており、実際には小規模な動産よりも先に著作権が商品化されることを私個人は楽しみにしています。
ユーティリティ商品を掛け合わせ、アセットタイプの拡大、金融商品としての種類の多様化を通してセキュリティトークンはより多くの人々へ
——セキュリティトークンが今後さらに一般投資家へ浸透する、させていくために起爆剤となり得るものがあればお考えをお聞かせください。
田本:大枠的には3つあります。1つ目がユーティリティ商品を掛け合わせた商品、特典や優待が付いている商品です。2つ目がアセットタイプの拡大です。飛行機や鉄道を持つことができるようになる商品です。そして3つ目が金融商品としての種類の多様化です。
たとえば、エクイティ商品に加えて、債権性のあるより安定性を持たせた商品を出すことで、定期預金のような商品性を有した商品を組成することも計画しています。金融商品をいろいろと揃えることでさまざまな投資家様のニーズを取り込んでいきたいです。
法律の隙間をハックするような製品開発ではなく、長期的に使える商品を投資家の方々に
——金融商品を取り扱うプレッシャーがあると述べられたことがあると思いますが、規制があるなかでチャレンジする過程で心がけていることはありますか?
田本:投資家様に対し、透明性が高く理解しやすい、真摯な製品作りを心掛けるべきだと考えています。斬新な商品になるほど規制等の課題も多く付いてきますが法律の隙間をハックするような製品開発ではなく、長期的に使える商品を組成しそれを投資家様に伝えるということが大事になると考えています。
心から取り組みたいことを地道に、誠実に進めることが重要だと思っています。この分野で不正を行わず、誠実さを貫くことを目指しています。そのような企業文化を大切にし続けたいと願っています。
——MDMが目指すビジョン、またALTERNAの今後の展望を教えてください。
田本:“「眠れる銭」を、Activateせよ。”に則って、眠っているお金にALTERNAを通して活力を与えながら、いろいろなアセットを元気付けるということをやっていきたいと思います。
そして、投資家の皆様にはALTERNAのホームページに来れば多様な商品があるという認識を持っていただけるように事業展開していきたいと思っています。金融の総合商社になり、社会に還元できるよう、これからさまざまなチャレンジをしていきたいです。
Profile
田本 英輔|Eisuke Tamoto
三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社
東京大学法学部卒。2019年3月にインターンとしてLayerXに入社。三井物産デジタル・アセットマネジメントの設立準備から携わり、設立と同時に同社へ出向。デジタル投資銀行部を立ち上げ、デジタル証券の社会実装に向けてBizDevを担当。
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