大手企業各社のCXOと強い接点を持ち、経営アジェンダを熟知している強みを活かして未来の形を創るアクセンチュア。
同社において、エンタメ・メディア・通信キャリア・ハイテクなどの分野で豊富な支援実績を持つ、ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクターの唐澤鵬翔氏にテクノロジーが普及したまだ見ぬ未来を語ってもらった。
サービスやデータをより人間中心、ユーザー中心に
——唐澤さんの現在のキャリアに至るまでのご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
唐澤鵬翔氏(以下、唐澤):ここ十数年はイマージングテクノロジーに注力し、戦略立案や新規事業立上に力を入れてきました。
古くはクラウドやIoT、5Gなど、最近は空間コンピューティングやAI、生成AIにも取り組んでいます。Web3.0やブロックチェーンに関しては2、3年前から取り組みを始めています。
——現在はWeb3.0にも注力されていますが、改めてアクセンチュア全体で考えると、事業分野のサービス内容というのはどういったところになるのでしょうか?
唐澤:私自身は、戦略コンサルティングがメインですので、まずは大企業のCXOの方々と会話して、「Web3.0とは何か」「業界にどのようなインパクトをもたらすのか」「自社としてどう向き合うべきか」「なぜ今やるべきか」といったような問いに答えるところから入っていくケースが多いです。
もう少し検討が進んでいる企業に対しては、事業構想や中期経営計画策定といった戦略レベルの支援をすることもあれば、戦略はあるけどサービスの仕様が決まっていない企業向けには、具体的なサービスデザインをすることもあります。
また、他グループと協力して実際にモノを作ったり、システムやオペレーションの運用を請け負ったりすることもあります。
このようにEnd-to-Endで支援する中で、さらに踏み込んでお客様と共同事業化を検討することもあります。
Web3.0というあたらしい概念の行き着く先とは
——Web3.0が登場した時には、これまでとは違うノウハウが必要だったと思うのですが、どのように対応したのでしょうか?
唐澤:まず企業にとっては、Web3.0だからと言って全てをゼロベースで新しく考える必要はないと思います。
たとえば、コミュニティマネジメントはWeb3.0で改めて重要性が認識されていますが、特段新しい概念ではないです。
消費者向けの事業ではコミュニティドリブンマーケティングは昔からあるテーマです。
たとえば、とある電子機器のグローバル企業ではカスタマーサポートをコミュニティに委ねている例があります。
サポートするごとにそのメンバーのコミュニティ内でのランクが上がっていき、一定のランクに達するとその企業の新規製品の企画開発にも関わることが出来ます。
これってすごくWeb3.0っぽいですよね。でも、これはもう10年以上前から始まっていることです。
Web3.0によって、今までにないニーズが生まれることは起こり得るとは思いますが、これまでもあったニーズや課題をよりうまく解決するケースが大多数だと思っています。
結局、私達はWeb3.0に内包されるテクノロジーをひとつの手段としてしか見ていないので、XRも生成AIも競合するものではなく組み合わせて使うものと捉えています。
ちょうど10年前にSMAC(ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウド)というのが流行り、第三のプラットフォームと呼ばれバズっていましたが、今となっては企業にとって当たり前に活用する手段となっていますので、Web3.0も数年後はそうなっていくと見ています。
——アクセンチュアとして、Web3.0及び、XR・AI・生成AI等、次世代のテクノロジーを取り扱う領域でのミッションはどのようなところに置かれていますか?
唐澤:アクセンチュアは、そのミッションとして「テクノロジーと人間の創意工夫で、まだ見ぬ未来を実現していく」を掲げていますが、Web3.0はこれをよりよく体現していると思います。
現在、企業中心に設計され、ユーザにとってサイロ化されたサービスやデータをより人間中心、ユーザ中心に戻していくことを私達も目指しています。これは究極的には民主主義の再発現やエンハンスメントであると私は考えています。
生成AIを1つとってもそうですが、テクノロジーは今後ますます指数関数的な速度で発展していきます。レイ・カーツワイルが過去に「収穫加速の法則」として提唱した通りです。
問題は人間とのバランスで、人間がどのようにテクノロジーに対する主権を維持するかが益々重要になります。
また、現実社会での格差も合わせて広がっていきますので、その中で我々は再度人民としての主権をどのように行使するかが問われていくと思います。Web3.0はその啓発としての役割も担っていると信じています。
——アクセンチュアのWeb3.0事業開発や支援における一気通貫でサポートできる以外の強みはありますか?
唐澤:まず、一気通貫の価値について少し補足させてください。ここで重要なのはマルチベンダーの利害調整や管理コストの低減です。
複数社に分割して依頼していると、まずは各社が責任分界点を詳細に決める必要があり、そのための作業や合意形成に時間を要します。
また、レベルの異なる複数社間の連携にはコストもかさむだけでなく、管理する側も労力を要します。さらに、利益相反が起きた際には、その調停など管理する側にとって厄介な状況を引き起こしかねません。
スピードやアジリティが重要なこの領域で、テクノロジーや市場の潮流が変わったのにまだ利害調整をしているようでは致命的です。
したがって、一気通貫は「スピード」、「アジリティ」と「コスト効率」の面で有効なのです。
それ以外の強みとしては、我々はテクノロジーにずっと向き合ってきたことです。企業のITについて熟知しており、多くのテック人材を有しています。
比較的に早期からグローバル横断でブロックチェーンやAIのエンジニア人材プールを作り、ケイパビリティ強化してきました。Web3.0は黎明期であることから、絵に描いた餅とならないようにテクノロジーの特性や限界を理解した企画・設計が重要です。
一方で、大企業が取り組む場合は既存ITとの連携や統合も避けて通れません。よって、新旧両方のテクノロジーをバランスよく理解していることは、アクセンチュアの優位性の一つです。
人間がどのようにテクノロジーに対する主権を維持するかが益々重要になる
——唐澤さんの立場から見てWeb3.0のスタートアップが直面している課題はどのようなところにあると思いますか?
唐澤:いくつかあると思うのですが、マーケットが黎明期なので、開発に必要なツール群や、組み込むためのソリューションがまだまだ揃っていないこと、プロジェクトマネジャーやアーキテクト含め、バランスの取れたエンジニアリソース確保が困難なことなどはよく言われます。
それ以上にチャレンジングなのは、トークン発行・上場する誘惑にどう耐えるかです。元々ある価値が顕在化し流動性が高まることで、本来の価値が実現されるのがトークン化の良いところですが、逆に発行のしやすさや高い流動性によって、プロダクトマーケットフィットする前に資金調達が出来てしまい、その後トークンの暴落につながってしまうこともよくあります。
Web3.0かどうかにかかわらず、マーケットを見つける、ユーザに向き合う、プロダクトを磨きこむことは事業の成功に欠かせないので、そこにリソースや時間を使うことを怠らないということが重要かと思います。
——中国やシンガポールなどにも在住されていたとのことですが、Web3.0領域の事業開発に海外の経験っていうのはどのような形で役立っていますか?
唐澤:web3では多くの中国企業や個人が活躍しているので、中国コネクションが役立つ時は多くあります。
私自身もマンダリンが話せることに加え、同じコンテキストや思考様式でコミュニケーションできることは大きなアドバンテージです。
次にシンガポールですが、資源が乏しい国でありながら、国際都市として成功しています。これは古くからローマ帝国、今でいうとドバイなんかも同じですが、いかに外部リソースをうまく取り込みながら、グローバルスケールで勝負していくかの観点で非常に参考になります。
Web3.0時代において企業がおかれる環境は、これと非常に類似性が高いです。国境や企業などの境界線が溶けていくオープンな環境の中で、囲い込みではなくグローバルのリソースを継続的に引きつけながら勝負していくことがますます求められると思います。
大手企業各社のCXOと強い接点を持ち、経営アジェンダを熟知している強みを活かして未来を形作る
——最後に今後の展望をお聞かせください。
唐澤:歴史は繰り返さないが、韻を踏むと言われますが、Web3.0もテクノロジーのハイプサイクルをたどると思います。
今が幻滅期に差し掛かったところだと思いますので、今後啓発期を通して、テクノロジー自体がよりスケーラブルになり、最後はインビジブルになると思います。
つまり大企業のサービスにも入り込んでいき、最後は我々の生活の一部になり当たり前になっていくと信じています。
そのためには、企業が持つ経営アジェンダや課題とテクノロジーを繋ぐこと、価値あるユースケースを増やすこと、そして何よりも企業や業界横断のコラボレーションを増やすことが非常に重要だと考えています。
既存ITがSoR(System of Records)やSoE(System of Engagement)であるのに対して、Web3.0は「SoC = System of Collaboration」であると私は考えています。
ユーザ中心、人間中心を取り戻すためには一社で取り組むには限界があり、複数社が連携してあらたな価値を提供していくことが求められます。
日本企業にとっては、再度グローバルの舞台で勝負できる千載一遇のチャンスだと本気で信じています。
政策面やコンテンツ面でのアドバンテージがよく語られるのですが、それ以上に他社とコラボレーションしながらシェアードサクセスすることは思想レベルで日本企業が得意とするところだと思います。
その対象をグローバルに広げたときには、デジタル赤字国の汚名も返上できると信じています。
そして、このようなコラボレーションを促進することが我々の使命でもあると信じています。グローバルFORTUNE 500社における大部分の企業が我々のクライアントです。
各社のCXOと強い接点を持ち、経営アジェンダを熟知している我々だからこそ企業間を繋げられます。未来を予測して待つのではなく、今後1-2年でどのような変化が引き起こせるのかを考えながら、未来を形作っていくためのアクションを取っていきたいと思います。
Profile
唐澤 鵬翔 | Hosho Karasawa
ビジネスコンサルティング本部
ストラテジーグループマネジング・ディレクター
新規事業開発を専門領域として、エンタメ、メディア、通信 キャリア、ハイテクなどの分野で豊富な支援実績を持つ。複数の事業立ち上げ経験があり、直近はWeb3.0やメタバース関連の事業開発・立ち上げに注力。中国に11年在住、シンガポールに3年の駐在経験を持つ。