Web3.0

Sports×Web3.0の可能性

2024/04/02Iolite 編集部
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Sports×Web3.0の可能性

なぜスポーツチームはNFT・トークンを発行するのか?

プロスポーツチームによるNFT・トークン(暗号資産)の発行が盛んに行われている昨今。なぜ「スポーツ×Web3.0」が今注目されているのか。その可能性と課題について考える。


A:
本日は、スポーツ業界によるWeb3.0の取り組みについてお話できればと思います。Web3.0というのは「ブロックチェーンをベースにしたさまざまな技術や仕組みのこと」をまとめて呼ぶ言葉として広く使われています。

具体的には、トークン(いわゆる暗号資産のこと。厳密にはファンジブルトークンと呼ぶのが正しい)やNFTといったデジタルアセットがそれにあたりますね。スポーツ業界でも、近年チームがトークンやNFTを発行することが増 えていますよね。

B:そうですね。たとえばサッカーチームのなかでは、J3リーグに所属するFC琉球がFCRコインを販売して総額10億円を調達したことが話題になりましたし、サガン鳥栖もファン向けのNFTを発行しています。そのほかにも、さまざまなプロスポーツで国内国外を問わず多くのチームがトークンやNFTを販売していますね。

ただ、私はWeb3.0のことはあまり詳しくないので、なぜこんな風にスポーツ業界でWeb3.0と呼ばれるものが盛り上がってきているのかがよくわかりません。すごく失礼ないい方かもしれませんが、トークンやNFTというなんとなく”お金の匂い”がするものに、スポーツが巻き込まれてしまっているのではないかとすら感じています。

A:そういう懸念が湧いてくる気持ちはよくわかりますし、お金、要するにマネタイズという意味でNFTやトークンが非常に便利であるというのも一面の事実です。ただ、スポーツとWeb3.0の組み合わせというのは、そういう面も含めてあらゆる意味で、非常に相性がいいと考えられているんです。

B:どういうことでしょうか?

A:スポーツは「コンテンツ」であり、「ファンの熱量」があり、「ファンとチームのコミュニティ」を持っているものですよね。しかもそれらは一過性のものではなく、長期間にわたって続くものです。この辺のキーワードとNFTやトークンというのは、親和性が非常に高いんです。

NFTとトークンの違いとは

B:今さらですが、NFTとトークンはどう違うんですか?

A:トークンは通貨のような特徴を持っているもので、Web3.0業界では「代替性トークン」と呼ばれます。要するに暗号資産のことで、通貨のように1枚1枚には違いがなく、すべて同じ価値をあらわすものです。たとえば1FCRコインは、ほかの1FCRコインといつでも等価値を持っていて、交換できます。

一方、NFTというのは「非代替性トークン」と呼ばれるもので、フィジカルなアート作品のように、1枚1枚が唯一無二であるという特徴を持っています。スポーツ業界で近しい例をあげるとすれば、「会員番号付きのファンクラブ会員証」や「選手のサイン入りユニフォーム」のように、ほかと替えがきかないモノというイメージでしょうか。

B:なるほど。それらをスポーツ業界に持ち込むと、どんな良いことがあるんですか?

A:まずNFTを例にしますね。NFTというのは、2021年頃から流行し始めた技術で、当初はNFTアート、つまりデジタル画像をNFTにしたものが大流行して広まっていきました。それ以前は、デジタル画像というのは誰もが無限に複製できるものだったので、「唯一の所有者」というのは存在しなかったんです。

ところがNFTという技術が生まれたことで、モネやゴッホの絵画を所有するかのように、デジタル画像を「自分だけのものにする」という価値観が広まりました。しかし、次々とNFTのデジタルアートが生まれていく一方で、徐々にブームは過ぎ去り、多くのNFTの価格が暴落してしまいました。

B:それはなぜですか?

A:すごくシンプルな理由なのですが、「そもそもそのデジタルアートを所有したいか?」という疑問が生まれたんですよね。モネやゴッホのような高名な画家の作品なら所有したい人は大量にいますが、何者かもわからない人が描いた画像に、価値を感じる人は少ないですよね。

そこで、NFT業界としては実用性という意味を持つ「ユーティリティ」という概念を重視するようになったんです。そのNFTを持っていたらどんな特典があるのか?どんな風に使えるのか?なぜ人々はそのNFTを買おうと思うのか?という疑問への回答を探しているということです。

その回答の1つになるのが、スポーツなのではないかと。

B:というと?

A:実は、デジタルアートを中心にしたNFTブームの先駆けになったのは、『NBA Top Shot』というNBA(米プロバスケットボールリーグ)のデジタルカードゲームだったんです。「Moment」と呼ばれる選手のハイライト動画をNFTのデジタルカードとし て販売したプロジェクトで、リリースから3ヵ月で2億ドル以上もの取引が行われました。

先ほど、「なぜ人々はそのNFTを買おうと思うのか?」という疑問を提示しましたが、NBA選手の動画であれば、その理由は明白ですよね。ファンにとっては、大好きな選手の最高のプレイを「自分のモノ」として所有できることは大きな喜びのはずです。

何か用途があるわけでもないデジタル画像に比べれば、お金を払ってでも手に入れる理由があります。それに、「選手のサイン入り限定ユニフォーム」のような限定品を持っている人は、ファンや選手からも一目置かれる存在になりますよね?

B:選手にとっては「あれを買ってくれた人」ですし、ファン仲間にとっては敬意の対象になりますね。

A:それと同じようなことをデジタルコンテンツで実現するのがNFTだと思えばわかりやすいのではないでしょうか。今までフィジカルなモノでしか実現できなかったことを、デジタルでも可能にしたのがNFTだと。

フィジカルなモノと違って、NFTなら移送などの物理的制限を受けないし、簡単に販売したり、ほかの人と取引できるというメリットもあります。

トークンはスポーツとなぜ親和性が高いのか?

B:なるほど。では、トークンはスポーツとなぜ親和性が高いのでしょうか?

A:トークンというのは誰もが発行できるもので、それによって独自の経済圏を作れるという発明です。今までは日本とか米国とか、国ごとの大きな範囲でしか経済圏というものはありませんでしたが、トークンによって誰もがそれを作れるようになったんです。

トークンを発行して販売することで、発行者と共通の目的を持つ人たちや応援してくれる人たちから、直接的に資金調達をできるようになったというのも重要です。

B:FC琉球の取り組みはまさにそれですね。

A:地元のチームを応援する手段として、もちろん試合をみに行ったり、グッズを購入したりというやり方は、チームにとって大きな力になります。それに加えて、トークンを購入することで直接的に支援することもできるようになったんです。

B:あたらしい応援の形ということでしょうか?

A:それだけではありません。トークンというのは金銭的価値を持っているので、それが値上がりすれば、購入した人たちも最終的にはトクすることになります。トークンの価格が上がるメカニズムは非常に複雑なので簡単な説明にしますが、要するにそのトークンを買いたい人が増えれば価格は上がります。

たいていのファントークンには、試合への招待や特別な体験の提供、グッズのプレゼントなどの特典が付いているので、チームが強くなって人気クラブになれば、買いたいという人が増えますよね。「チームに強くなってほしい、活躍してほしい」というのはスポーツを応援する人の根本にあるものだと思います。

トークンがなくても、そもそもスポーツというのは「1つの目的に向かって協力するコミュニティ」がすでに存在する業界なんです。そこに、持っている資産の価値まで上がるというプラスアルファを付けられるのが、トークンであるといえるかもしれません。

B:きれいないい方をすれば、NFTやトークンを活用することで、チームや選手を応援する手段が増えて、応援する喜びも増えるということでしょうか。

A:そうですね。それに加えて「お金の匂い」がするというのも事実です。トークンやNFTといういわば「流行している仕組み」に乗せることで、ファンだけではなく投資家のような人たちも巻き込めますから。

単純に「チームを強化したいのでクラウドファンディングします」とするよりも、「トークン発行します」とした方が、より多くの人から支援を集められるはずです。

しかも、トークン発行自体が注目度の高いトピックなので、実はチームの認知度を高めることにもつながります。実際、ファントークンを購入した投資家が、気付いたらそのチームのファンになっているということもあります。

また、選手にとっても活動費などのためのマネタイズ手段としてトークンやNFTが活用できるというのも魅力です。実際、選手が自身のNFTを販売するなどして、ファンから直接支援を募る事例も生まれていますね。

B:それこそマイナースポーツでは、選手の活動費すらままならないということが珍しくありません。応援したいけれども、どうすればいいかわからないという人にとってはNFTやトークンの購入というのが手軽な手段になるかもしれませんね。

多様化する応援のかたち

A:ここまでは主にマネタイズに関連する話でしたが、これらを通じてファンカルチャー、ファンコミュニティを盛り上げるという側面がNFTやトークンにはあります。

たとえば「自分が監督だったらこの選手を使うのに!」みたいなことを考えるファンの方は多いですよね。「もっと試合会場をこうしてくれればいいのに」とか、「地元開催の試合を盛りあげるためにイベントを開きたい」とか。

SNSなどで、ファン同士がチームの戦略について語り合うカルチャーもあります。これって、「スポーツをみて楽しむ」だけではなく、もっと深くチームを応援したい、参加したいという気持ちによるものだと思うんです。

B:たしかに、応援する方法も昔よりも多様化しているとは思います。

A:そういうファンの熱い気持ちを実現する手段として、チーム運営にかかわる重要な決定をトークン保有者に投票してもらうような動きも生まれています。NFTやトークン保有者への特典として、「もっとチームにかかわれる」という権利を与えているんです。

これはWeb3.0業界ではDAO(自律分散型組織) と呼ばれる仕組みの考え方に近いものです。DAOというのは、トークンを介することでステークホルダーたちが自律的に組織の発展に向けた活動を行うようにする仕組みを指します。

B:そうやって聞くと、チームの活動資金を集めたい、認知度を高めたいというチームの目的と、チームや選手を応援したい、もっと深くかかわりたいというファンの利害が一致するようになっているんですね。

A:そうですね。あとは、ファンカルチャーをさらに発展させたものとして、スポーツベッティングの世界でも、「スポーツ×Web3.0」が進んでいます。スポーツベッティングというのは、要するにスポーツ賭博のことです。

日本ではいわゆる公営ギャンブルとスポーツくじ以外は違法なのであまり普及していませんが、スポーツベッティングにトークンやNFTを組み合わせたサービスも海外では盛り上がっているんですよ。

その代表といえるのが、『SORARE』です。SORAREは分類としてはブロックチェーンゲーム(ブロックチェーン技術を活用したゲーム)と呼ばれているのですが、中身はプロサッカーへのベッティングになっています。

シミュレーションゲームのように、選手のNFTを保有してチームを編成すると、実際の試合での選手の活躍度合いに応 じて暗号資産がもらえるという仕組みです。実はこういう遊びはファンタジースポーツと呼ばれるもので、昔からファンの間では親しまれてきたカルチャーの1つです。

そこにNFTと暗号資産を使うことで、世界中の人が、どこにいても参加しやすいようにしたものが、SORAREのようなプロジェクトですね。

日本ではまだスポーツベッティングが解禁されるのは遠い未来の話になりそうですが、ヨーロッパを中心に解禁している国も多いので、これもスポー ツ×Web3.0の1つとして今後広まっていくとみられます。

実は成功例はそれほど多くはない?

B:実際のところ、スポーツ×Web3というのは成功しているんですか?たまに話題になっているのは目にしますが、まだスポーツ業界やファンに完全に受け入れられているという感じはしないのですが。

A:客観的にみれば、成功例はそれほど多くはないというところでしょうか。先ほど名前をあげたFC琉球のように、一クラブチームによる資金調達として異例ともいえるほどの金額を集めるケースはありますし、NBA Top Shot やSORAREは現在も盛りあがっています。

しかし、今のところ失敗したとみる方が妥当なものも少なくありません。

日本でも『パ・リーグ Exciting Moments』というNBA Top Shot のパ・リー グ版のようなサービスがあったのですが、残念ながら2023年にサービスが終了しています。また、選手やチームが販売したNFTのなかには、あまり売れていないものや、購入希望者がいないため価格が付かないような状態にあるものも多いです。

FCRコインについても、チーム側にとっては大成功といえるものですが、購入者にとってはそうではありません。今のところ、販売時の価格よりも大きく下落してしまっていますから。

B:私もスポーツファンなので想像がつくのですが、「ファントークンです」、「NFTです」といわれても、そもそもどういうものなのかよくわからないし、価値を感じられないという人が多いのではないでしょうか。

A:おっしゃる通りです。たとえば同じ3,000円を支払うなら、NFTよりもフィジカルなグッズを購入して手元に置いておきたいという人の方がはるかに多いでしょうね。

そもそも「唯一無二のデジタルデータ」というあたしい概念が、まだあまり広まっていないし、はたしてそういうモノに人々が価値を感じるかも定かではないというのが正直なところです。この点については、スポーツ×Web3.0だけの話ではなくて、NFTというモノ自体が今よりもっと普及するための時間が必要になるかもしれません。

また、「そのNFTを持っていたらどんな特典があるのか」という問題もあります。なかには「試合の特別席に招待」であったり、「選手とコミュニケーションがとれる」などの魅力的な特典が用意されているケースもあるのですが。

B:その特典なら、別にNFTにしなくても実現できますよね?

A:おっしゃる通りです。トークンについても、実際のところ投機的な魅力以外は今のところその有用性があまりハッキリとしていないと、私も感じています。

B:NFTやトークンだからこそできること、出せる価値のようなものがないと広まらないように思えます。

A:先ほど話しに出た選手への応援にNFTを活用することは1つの解だと思ってます。トークンやNFTのメリットの1つは、いつ誰でも発行できて、物理的な距離や移送のことを気にせずに誰でも購入できるという点です。

選手のマネタイズ手段の1つとして、そして選手を直接的に応援する手段としては、もっともわかりやすいし効果的なものだと思います。

B:ただ、それだけならクラウドファンディングとほぼ同じでは?

A:クラウドファンディングの仲介プラットフォーマーよりも、差し引かれる手数料が少なくなるというのは1つのメリットかなと思います。また、選手が自主的に発行して支援を募りやすいという面も大きいはずです。

B:なるほど。それ以外に、NFTやトークンだからこそできることはないのでしょうか?

NFTやトークンだからこそできること

A:重要なのは、NFTやトークンを用いることで今まで以上にファンカルチャー、ファンコミュニティを盛りあげることだと思います。そういう意味で、DAOのようにファンがより深くスポーツとかかわれるようにする仕組みが、より盛りあがっていくことに期待しています。

「チームの運営に関与できる」とか、「チームを盛りあげるための施策をファン発信で行う」とか。NFTやトークンを使うことで、今までとは異なるチームとファンの関係性を構築できるようになっていくことが重要ですね。

そうやってチームを盛り上げることができれば、購入したトークンのNFTの価値が上がり、さらに多くの人を呼び込むきっかけになるはずです。

これは、単純に価格が上がるというだけの話ではなく、「今や日本代表となったあの選手が、まだJ3でがんばっていた頃のNFT」を持っていることや、「オリンピックで金メダルをとったあの選手の活動を、トーク ンを買って応援していた」という事実が、ファンにとっては何にも代えがたい栄誉になるはずです。

チームにとっても、そういうモチベーションを持った人たちが、チームのために頑張ってくれること自体が大きな財産になります。チームや選手がスポーツを頑張る姿をみせてそれをファンが応援するという関係よりも、もっと濃密な関係性を築いていくために、Web3.0が役に立つというのが理想的な姿といえるかもしれません。

NFT・トークンは選手を応援するあらたな手段に

スポーツ×Web3.0のポイント

  1. Web3.0の技術、特にトークンとNFTがスポーツ業界で用いられ始めている。海外ではスポーツベッティングにNFTを組み合わせたプロジェクトも人気。
  2. トークンとNFTを介することで、チーム運営者とファンの利害が今まで以上に一致する。チームが強くなり、有名になることへのモチベーションがより強くなる。
  3. スポーツとWeb3.0のコラボがより広まるためには、トークンやNFTという技術が今よりも普及していく必要がある。また、単なる資金調達手段として活用するだけではなく、コミュニティを強固にしていく必要がある。




Profile

中川 賢(A)
38歳、フリーライター。最新テクノロジーを中心にIT専門記者として活動。Web3.0やNFTに詳しく、NFTアートプロジェクトに参画した経験を持つ。元卓球部で、学生時代に神奈川県ベスト16に入ったことがある。

松原 正康(B)
42歳、スポーツジャーナリスト。サッカー・野球・バスケットボールを中心に幅広くスポーツを取材。特にサッカーは年間100試合以上観戦している。最近は息子の少年サッカーチームの応援に行くことが1番の楽しみ。

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