今や当たり前の存在となったサブスクリプション。デジタルコンテンツから家電や家具まで、実にさまざまな業界で多くの企業がサブスクリプション事業に参入している。その市場価値も年々右肩上がりで上昇しており、2018年度に約5,627億円だった国内市場規模は2023年の時点で約9,430億円まで拡大している。
今後もこの趨勢は変わらないと見込まれ、1兆円を超える市場規模になるのも時間の問題だといわれている。この莫大な市場規模の背景にはスマートフォンやWi-Fiの普及、消費者のニーズが所有から利用へと変化していることがあげられるが、その一方でサブスク市場に参入した企業のなかにはサブスク事業に失敗した企業も出てきている。
自動車業界では、ビュイックやキャデラックで有名な米国大手のGM(ゼネラルモーターズ)社とドイツ大手のBMW社が業界でいち早くサブスク事業に参入してサービスを展開した。
特にGMはキャデラックを年間18モデルまで自由に選択できて、月額1,800ドルで使い放題という画期的なサービスを開始したが、一時的に利用者を確保することはできたものの、当初の想定以上のコストがかかり、採算が取れなかったのが原因だ。
これはGMだけに限らず、同じく米国大手のフォード社はGM社と同様の理由により、サブスク事業から撤退。車サブスク事業「Canvas」ごと他社へ売却してしまった。
BMW社の場合も月額料金を当初の設定価格3,700ドルから2,699ドル、2,000ドルから1,399ドルに大幅に値下げ、より低価格で利用できるようにしたが、結局はサブスク事業から撤退している。ドイツではBMW社のほかに、メルセデスベンツ社やアウディ社もサブスク事業から撤退している。
ドイツの各社はコストの面のほかに集客にも苦戦していたものと考えられている。自動車業界では2018年頃から徐々にサブスク事業に参入したが、2021年頃までにサブスク事業から撤退する結果に終わった企業が多くいた。
日本国内に目を向けるとアパレルメーカーのAOKIが月額7,800円から好みやサイズにあわせてスタイリストが選定したスーツやシャツ、ネクタイのセットを提供するサービスを展開したが、サービス開始後わずか半年で撤退した。撤退理由は倉庫やクリーニングなどの運用コストが想定以上にかさんだこと、豊富なデザインやバリエーションを用意できず、顧客満足度が低かったことなどがあげられている。
アパレルメーカーではほかにはZOZOも「おまかせ定期便」というサブスクを展開していたが、セールで買った方が安いなど金銭的メリットが少なかったり、会員のニーズには応えられなかったことで売上が上がらず、サブスク事業から撤退している。
このように各業界で実に多数の企業がサブスク事業に参入したものの早々に撤退してしまった事例が多くある。
その多くの要因はコスト面の採算があわないというものだが、BMWの場合のように単に価格を低く設定すればいいというものではなく、そのサービスに見合った価格設定が重要であり、さらに安さだけではない以下にそのサービスの「価値」を提供するというのが必要なのかもしれない。
POINT
車サブスクは減ったが、車の「機能」サブスクが増えた?
2018年~2021年頃までにサブスク事業から撤退する車メーカーが多くいたが、その一方で車本体ではなく車の機能の一部を提供するサブスクが増えている。
たとえば、GM社やBMW社ではドライブアシスタント機能といったセキュリティや運転補助に関する機能を月額で利用できるサービスを展開しているほか、テスラ社では自動運転ソフトのサブスクを展開している。
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