東北地方の南部に位置し、北海道、岩手県に次ぐ全国第3位の土地面積を誇る福島県。古くは戊辰戦争における白虎隊、近年では映画『フラガール』の舞台となったスパリゾートハワイアンズなど、歴史と文化、そして自然に恵まれた日本有数の県である。
2022年よりさまざまな形で増えてきている地方自治体・地域によるWeb3.0・NFTの技術を活用した地方創生町おこしだが、福島県も県の魅力や特色を活かしたWeb3.0事業を推進している。
そのなかでもとりわけユニークなのが福島県西会津町が展開している「石高プロジェクト」だ。
石高プロジェクトは稲作が基幹事業となっている西会津町がWeb3.0技術を駆使して、かつての日本のように米に重要な価値を持たせる方法を模索するプロジェクトで、西会津町の農業経営安定化、西会津米の知名度向上、関係人口や交流人口の拡大、西会津米の販路拡大などを目指している。
詳しくは本項の関係者インタビューを参照してもらいたいが、米の名産地ならではのアイデアと目的意識を持ったユニークな試みとなっている。
再エネ使用量のNFT化
福島県といえば2013年から9回連続で金賞受賞数日本一を達成するなど、日本酒が名産として知られている。
そんな福島では、KDDIのグループ会社の株式会社エナリスが、福島県の合資会社大和川酒造店と協働して日本酒にちなんだWeb3.0事業を推進している。
これは日本酒の製造工程で使用された再エネデータをもとにNFTを発行して有効な活用方法を検証するという2022年8月より開始された実証事業で、エナリスのブロックチェーンプラットフォームを使って記録した日本酒の製造工程の再エネ使用実績データと、大和川酒造店の画像データなどを組み合わせてNFT化することで、デジタルアートを制作するというものだ。
「どこ」で生まれた再エネが「いつ」「どれだけ」使用されたかなどの情報によってデジタルアートの仕上がりが変わるというユニークなプロジェクトで、NFTの仕組みと掛け合わせて「再エネ使用を証明する唯一無二のデジタルアート」が発行される。
プレスリリースによると、この実証では「再エネデジタルアート」の発行にとどまらず、「NFT取引市場でどれくらいの価値が付くのか」、あるいは「日本酒を購入した顧客への付加価値として有効か」など、その活用方法についても検証を行うものとしている。
また、脱炭素社会実現を目指した取り組みの1つである「カーボンフットプリント(CFP)」はみえる化や消費者への訴求が難しいことなどが課題となっているが、エナリスでは再エネ使用実績のNFT化を将来的に個別商品・サービスまで落とし込むことによって、CFPの課題解決にもつながるものと考えているという。
さらに「環境貢献価値の所有」を実現することによって、消費者側の環境貢献価値への意識を変え、これを軸としたあたらしいビジネス発展のきっかけにしたいとしている。
「パン工房陽だまり」のスポンサーNFT
福島県鏡石町の「パン工房陽だまり」は同県のWeb3.0事業としては比較的早い2022年5月にNFTマーケット「HEXA(ヘキサ)」にて、漫才師・関あつし氏制作による同工房のイメージキャラクター「こーぼー」を使った商品のスポンサーNFTを発売している。
スポンサーNFTとは保有するとスポンサーであることを公言・証明することができるものだ。
パン工房陽だまりのスポンサーNFTは、パン工房陽だまりの人気拡大によるスポンサー枠の購入需要が増加した際値上がりする可能性がある。
NFT発行後は、パン工房陽だまりの店内に設置される「NFTスポンサー様ご紹介チラシ」のQRコードとスポンサーNFTページが連動し、リアルタイムで所有者を確認したり、スポンサーNFTを売買したりすることが可能だ。
スポンサーNFTはいつでも転売できるほか、転売額の最大10%がロイヤリティとして発行元に還元されるため、転売=応援という図式が成り立つ。
消費者と一緒に商品の販売を拡大し、ともに利益が得られるWeb3.0の考え方をリアルで実現するNFTがスポンサーNFTといえる。
楽都郡山Dance Fes
このように地域の名産や企業に根付いたWeb3.0事業のほかに福島県のフェスやイベント形式でのWeb3.0事業も活発に行われている。
パン工房陽だまりのようにスポンサーNFTとイベントを組み合わせた事業も福島県ではすでに行われている。福島県郡山市で開催しているパフォーマンスイベント「楽都郡山Dance FES」では個人が協賛できるスポンサーNFTが発行された。
このイベントは2021年にスタートしたイベントで、よさこいやダンスを繰り広げているイベントだ。
パン工房陽だまりの事例と同じく、楽都郡山Dance FESのスポンサーNFT保有者は、楽都郡山Dance FESのパンフレットのQRコード、楽都郡山Dance FES公式ページの協賛社ページ、楽都郡山公式XのLit link、YouTubeまた、アフタームービーの概要欄に掲載されるリンクからアクセスできるページに保有者名が表示され、いつでもスポンサーNFTページから売買することができる。
ルーラNFT祭りin飯坂
また、観光特化型デジタル通貨「ルーラコイン」と「ルーラNFT」を提供している株式会社ルーラは、2022年9月に福島県飯坂温泉にて「ルーラNFT祭りin飯坂」を開催した。
ルーラNFTは日本全国にある温泉地や酒蔵、城郭などの観光資源をNFT化した観光特化型のNFTで、ユーザーの位置情報を活用することで現地でしか購入できない仕様となり、地方に最適化されたNFTとなっている。
このイベントではアニメや漫画などのサブカルチャー好きに人気の地域活性化プロジェクト「温泉むすめ」と飯坂温泉観光協会を含む現地事業者9社がコラボレーションした新作NFT17種類が販売された。
さらに、販売されたルーラNFTのうち、10種類以上を購入すると温泉むすめのキャラクターボイス担当の声優をゲストに招いたオンラインファンミーティングへの無料参加権が付与されるなど、ルーラNFT購入者向けのキャンペーンも開始された。
イベントに関連し、2024年3月には福島県矢吹町で地域発・Web3.0・スマートシティに関するトークセッション&デジタルアーティストとのクリエイティブ体験イベント「わくわく!クリエイティブデジタルアートフェスin YABUKI」が開催された。
このイベントを運営したフューチャリズム株式会社によれば、その目的として、デジタル田園都市国家構想の成果をもとに、Web3.0・スマートシティに関するトークセッションと、デジタルアート及び参加型プロジェクトマッピングを通じて、地方発の自律分散・共助社会形成の可能性を探るとしている。
このように福島県では地域の名産にちなんだ事業のほかにも、イベントなどを通じて積極的にWeb3.0事業への取り組みを行っている。
また、元来、福島県は自然と歴史に囲まれた観光資源も豊富な土地ゆえ、県の特産品や歴史にちなんだ取り組みが今後増えていくことも予想される。
たとえば、福島県会津若松で有名な白虎隊などは「白虎隊×NFT・Web3.0」という形で何らかの事業が進んでいくかもしれない。
戊辰戦争の悲劇の1つで知られる白虎隊だが、文献史料などをNFT活用して後世に伝えていくことや、白虎隊の足跡を辿るメタバース空間を構築するなど、このような事業が今後福島県で展開される可能性もある。
そのほかにも、福島県にはテレビ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」で企画されたDASH村があるほか、前述の映画『フラガール』の舞台となったスパリゾートハワイアンズもある。
テレビ番組や映画などで有名になった舞台や施設が何らかの形でWeb3.0事業に取り組んでいくことも考えられるだろう。
さらに、福島県には三春滝桜や花見山など花の名所も多数あり、鶴ヶ城や大内宿にはかつての江戸文化を感じることができる。
また、国の重要無形民俗文化財である相馬野馬追や会津田島祗園祭では昔ながらの伝統が脈々と受け継がれている。Web3.0事業との相性が良さそうな観光資源が豊富にある福島県は今後も注目しておきたい県であるといえるだろう。
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