米国でビットコイン現物ETFの取引が活発化している現状を「極めて画期的な事象だ」と語るのは、国内老舗暗号資産取引所であるDMM Bitcoinを率いる田口仁氏。
今後の展望や重要視すべき指標などを暗号資産取引所の代表として徹底解説する。
——現在、暗号資産市場はビットコインを筆頭に盛り上がりをみせていますが、今後どのような推移をたどっていくとお考えでしょうか?
田口仁(以下、田口):ビットコインの過去の半減期前後をみると、半減期到来の直前や直後は価格が下落し、その後12ヵ月以内に高値の記録を更新して価格上昇するという傾向があります。
具体的には9ヵ月後から12ヵ月後に現行価格の2倍近い値を付ける傾向にありますので、半減期前に過去最高値を更新して73,000ドルを付けたことを踏まえると、2025年中に155,000ドルほどまで上昇する可能性もあるとみています。日本円に換算しますと、2,400万円を超えたあたりですね(取材時点)。
ビットコインの価格推移の重要な節目として、80,000ドル、100,000ドル、120,000ドル、150,000ドルあたりがターゲットとしてみられていますので、この水準に近付いていくことでボラティリティも高まっていくのではないでしょうか。
一方で、暗号資産交換業者という立場からいうと、暗号資産価格の高騰に伴い取引所自身の充実した自己資本、法定通貨の手元流動性などが、より一層に重要となってきます。
簡単にいいますと、自己資金をしっかり確保できない取引所では、身の丈を超えた形で市場が過熱した場合、不測の事態が起きる可能性があることに注意を払うべきだと思います。
具体的には、販売所サービスなどでは、自己資本と法定通貨の手元流動性をしっかりと持っておかなければ、お客様の買付や売付の注文に適切に対応できない可能性があるということが考えられます。
たとえば、多様な暗号資産の販売所を提供していて、手元の法定通貨の流動性を大きく超える形で、お客様からの暗号資産の売却を受けた場合、お客様の口座の法定通貨を速やかに信託保全する必要がありますが、売却された暗号資産を市場で売却して法定通貨を得るまでのオペレーションが速やかに実施できない場合には、取引所自身の手元流動性を用いて、お客様の信託保全に対応する必要があります。
当社では、価格上昇に対する期待リスクに対して、必要となる自己資本と手元流動性を、あらかじめしっかりと準備するという裏方の備えを重要視しています。
現在、国内では暗号資産のレバレッジ取引における倍率を引き上げる議論が行われていますが、その際に懸念として上がるのも、やはりこの自己資本の問題です。
レバレッジを引き上げれば事業者の売り上げは伸びるでしょう。しかし、はたしてお客様の評価益に対する分別資金をしっかり用意できるのかという点では、その対応力について各事業者の間で差異が生じる可能性があるという気がいたします。
当社では暗号資産の販売所サービスやレバレッジ取引サービスを提供していますが、たとえビットコインがすぐに150,000ドルに達したとしても財務体質に問題が出ないよう、あらかじめ対応方法の計画を完備し問題が生じないように態勢を整えています。
ですので、暗号資産取引を行うユーザーの皆様には、市場が過熱した場合であっても万全の状態を維持できる財務力という面も考慮しながら、取引する場所を選んでいただければと思いますね。
ビットコイン現物ETFのパフォマンスは今後もカギとなる
——相場動向をみていく上で今後ポジティブに働く可能性のある要素があれば教えてください。
田口:ポジティブな面でいえば、やはり米国で取引が行われているビットコイン現物ETFの存在があげられます。
アセットクラスの部分からみますと、法定通貨は「Cash is King(キャッシュ・イズ・キング)」。つまり王様としてみられています。
これはいざという時は現金が最も強いという意味ですが、通貨に対して価格変動していくアセットクラスの代表例となる有価証券のなかに暗号資産が組み込まれつつあります。そのなかでも、最大の金融市場である米国においてビットコイン現物ETFが取り扱われるようになったことは非常に大きなことです。
投資家が現物を保有することなく、ビットコインに投資を行うことができる機会が創出されたというのは画期的なことです。
暗号資産市場に投資家の資金が継続的に流入してくる経路として、米国市場の巨大な機関投資家からの資金流入が期待できる形で、ビットコイン現物ETFが登場したことで、資金流入のボリュームがさらに増える可能性があります。
ビットコイン現物ETFのパフォーマンスを占う上では、機関投資家の存在が最も重要となってきます。彼らは個別銘柄の日々の上がり下がりでの利益を考えているわけではありません。
株式や債券など、さまざまなアセットを、ポートフォリオのなかでアロケーションしながら投資を行っています。そこに暗号資産が徐々に組み込まれつつあるということになります。
ビットコイン現物ETFへの資金流入額は将来的に現在の30~40倍になり得る
機関投資家の動きをみていくなかで重要となるのはGDPの推移です。世界のアセットクラスの総和と、世界のGDPの総和は基本的に一致するという考え方があります。
現在の暗号資産市場の市場時価は500兆円ほどです。それに対して、世界のGDPの総和はコロナ禍における金融緩和の影響もあり1.8京円とされています。
これをもとに暗号資産市場の市場時価が占める比率を計算すると3〜4%ほどになります。機関投資家の考え方として、ポートフォリオを構成する際には、同等水準の比率となるようアセットを保有するという発想があります。
米国の主要なファンドが2,000兆円規模の運用資産があるとした場合、暗号資産ETFとして保有する資産規模が全体の3〜4%として計算すると約70兆円規模の資産を保有するのが適正な割合と計算されます。
この考え方をもとに、機関投資家がポートフォリオに3〜4%を暗号資産として組み入れる可能性を考慮した場合には、現在数兆円といわれているビットコイン現物ETFの流入額が今後30〜40倍ほどに拡大する可能性があるのではないかと見込んでいます。
結果として、暗号資産の市場時価もさらに大きくなり、世界のGDPとの比率でも暗号資産が占める割合が大きくなり、ポートフォリオに組み込まれる暗号資産も拡大再投資されていく循環ができる可能性があると捉えており、その可能性からすると2025年中に155,000ドルほどまで上昇することは十分にありうると捉えています。
——ネガティブに働く可能性のある要素についてはいかがでしょうか?
田口:現状を踏まえると金利動向ですね。米10年国債の利回りが足下で4〜5%ほどあるということを考えると、米ドルが強い状況も相まって投資家としてはわざわざ証券市場などに資金を投じる必要はないという心理が働くでしょう。
その一方で、もし米国経済が破綻した場合のことを考えると、金(ゴールド)をポートフォリオに組み入れる必要があるという発想もあります。ゴールドは金利こそ発生しないものの、財産の保全を図ることができますので。
その際に、ビットコインも「デジタルゴールド」として機能する可能性があります。しかし、ビットコインはまだ受け皿としての枠が小さいため、一斉に皆が購入すると価格が急騰してしまいます。
そのため、機関投資家としてもビットコインがどれほど資産保全につながるか見通せないため、ここが悩みのポイントになっていると思います。
ただし、この点についても、ビットコイン現物ETFというものが米国で取り扱われることになり、有価証券としてレンディング市場での貸し借りが行われるようになることで、金利に該当する機能をビットコインが保持する可能性もあります。
グローバルな金融市場において、一定の確立した地位を得るという意味では、ほかの本格的なアセットクラスと同じ目線で投資価値が評価されていくことになりますので、最終的には、ポジティブな面もネガティブな面も、投資家のリスク選好の動きと連動していくということになると思います。
——今後ビットコインを始め、暗号資産市場全体においてターニングポイントとなりそうな月、あるいは時期についてお聞かせください。
田口:私は時期というよりも、「イーサリアムの現物ETFがいつ承認されるか」が大きなターニングポイントになると思います。そして個人的には、早期の承認はおそらくないでしょうし、むしろ早く承認されない方がいいと考えています。
——それはなぜでしょうか?
田口:今、機関投資家はビットコイン現物ETFを通じてビットコインをポートフォリオに組み入れる方法をさまざまに考案しながらPDCAを回している段階にあります。
そうしたなかで、まだ最終的な枠組みが定まっていないにもかかわらず、あらたしい暗号資産アセットクラスの商品が出たとしても、機関投資家としてはビットコインもイーサリアムも違いがなく、同類商品としてポートフォリオを組むことになってしまうでしょうし、何よりも現在好調なビットコイン現物ETFにも影響が及ぶ可能性があります。
ですので、機関投資家がしっかりと戦略を立てられるくらいの時間はあった方が良いと考えています。それを考慮すると、今年の年末、または2025年の4月前後くらいに承認される方が望ましいと思います。その方がイーサリアムの価格面でも長い目でみた時に上昇が見込めるのではないでしょうか。
その上で現在着目しているのは、グレースケールが提供するビットコイン現物ETF「GBTC」を売却した投資家の動向です。売却した資金が株に向かうのか、それとも別のビットコイン現物ETFに流れるのかといったところで、資金の循環が現在みられています。
これが落ち着くと、今度はあらたな投資家層が出現し、本格的にビットコインをポートフォリオに組み入れる動きが加速していくと思います。なかには年金基金のようなところが長い期間をかけて投資をしていくことも考えられるでしょう。
こうした投資家がポートフォリオを構築していくにはやはり時間がかかり、半年から1年程度の時間を要するとみています。
——初心者など幅広い投資家層が相場をみていく上で、田口さんが重要視した方がいいと考える指標などがあればお聞かせください。
田口:1つは、日本円ではなく米ドルベースの価格を参考にした方がいいでしょう。チャートなどを用いた分析も現時点では米ドルベースがいいと考えます。
これは世界で最大のGDPを保持し、投資運用市場に対する最大のエクスポージャーを持つ国は、間違いなく米国であるということを考慮したものです。
また、そのような米国でビットコイン現物ETFの取引が行われるようになったことで、ビットコインは実質的に「米ドルベースの資産」としてみるべきだと考えます。
事実、ビットコインは米ドルベースでの取引が最も多いですよね。米ドルベースの資産というのはほかにもあって、たとえばゴールドや原油も含まれます。米ドルが強い状況ですとこれらの価格も上がりますから。
あとは現在の円安も要因としてあげられます。4年前ですと1ドル=105円ほどでしたが、現在は156円ほどで、160円に到達するような推移となっています。
ビットコインは日本円では1,000万円を超えていますが、これを4年前の1ドル=105円で換算すると、700万円台なんですね。つまり、円安で1,000万円を超えてしまっているだけで、今もなお、米ドルベースでみるならば、ビットコインは前回記録した最高値から大きく乖離しない水準の価格なんです。こうして振り返ると改めて最高値という言葉の意味合いも変わってきますよね。
2つ目は、ビットコインが需給によって合理的な価格形成がされているという点で、テクニカル指標を参考にするということです。
現在の相場はテクニカル指標が機能している状態で、たとえばビットコイン価格が一時的に60,000ドルを割り、59,000ドル程度まで下落しましたが、75日移動平均線をみるとしっかりとサポートが働いていたことがわかります(取材時点)。
事実、59,000ドルで堅いサポートラインが働いていたこともあり、すぐに61,000ドルほどまで価格は戻っています。
機関投資家も当然テクニカル指標をしっかりと分析して投資判断を行っており、ビットコイン現物ETFが登場したことでこれが顕著にみられるようになってきました。
そうなると、チャートやテクニカル指標、単純移動平均から指数移動平均、一目均衡表までは使いこなせるようになるといいのではないかなと思います。
一方、短期間で売買を繰り返すスキャルピングのようなものは税制を加味すると暗号資産には向いていません。ですので、長期保有を前提として、資産保全として暗号資産をポートフォリオに組み込んだ方がいいと私は思います。
長期保有であれば、株式と同じようにチャートをみながら割安で買えるポイントを探り暗号資産を取引していくことをおすすめします。
たとえば1週間に1度でも構いませんので、1日のなかでチャート上の重要なところまで価格が落ちたら買っておくなど、全体としての保有単価を引き下げる努力をするといいでしょう。
これを長い期間繰り返し積み上げていくことで複利効果にもつながります。特に初心者の方にはこのあたりを意識してもらえるといいのではないかと思います。
——最後に、現状の暗号資産市場で投資をする上で注意すべきポイントなどがあればお聞かせください。
田口:現物銘柄に関しては中長期保有を見据えた取引を行うことがポイントです。また、中長期保有の場合はこの価格で買いたいという指値を入れて販売所で買うのが最も堅実です。取引所だと板が薄い場合、自分が望む価格で取引ができない場合がありますので。
ただ、相場のボラティリティが高くなるとスプレッドが広がってしまうので、そこはチャートをしっかりと分析しながら、自分が見定めた価格でその都度購入する方がいいでしょう。
取材実施日:2024年4月19日
Profile
◉田口 仁(Hitoshi Taguchi)
埼玉県越谷市出身。早稲田大学政治経済学部を1994年に卒業し、三菱商事株式会社に入社。その後は、ライブドア、DeNA、EMCOMなどでさまざまな事業立ち上げや運用に携わり、現在は「DMM Bitcoin」の代表取締役社長