機関投資家の本格参入で状況が大きく変わる可能性も——
金利とビットコインの関係性のほか、暗号資産市場の「ある法則」を指摘。
——現在、暗号資産市場はビットコインを筆頭に盛り上がりをみせていますが、今後どのような動きをみせていくとお考えでしょうか?
仮想NISHI:まず現状を整理すると、ビットコインはビットコイン現物ETFが承認されたことで盛り上がりをみせ、資金が流入したことで3月に史上最高値を付け、日本円でも1,000万円を超えました。
ただ、今回のビットコイン現物ETFにおける資金の流入元をたどると、そのほとんどが機関投資家ではなく個人の投資家によるものです。
さらに、これまでビットコインは半減期後に最高値を付けてきましたが、今回は半減期前に最高値を更新しました。
これは2021年に最高値を更新した際と比べても特異なケースですし、米ドルベースでみれば2021年時点の史上最高値の69,000ドルとほぼ同じ価格帯ですので、ETFという強烈な好材料を考えれば、まだ上昇するポテンシャルがあるとみています。
今後、機関投資家がビットコイン現物ETFに本格参入すると状況も変わってくるのではないでしょうか。
利下げ、大統領選などの影響で年末頃に市場は盛り上がる?
伝統的な機関投資家の動きとして、あらたな金融商品が出た時には6ヵ月間のトラックレコード、いわゆる投資実績をみます。
ビットコイン現物ETFは2024年1月11日に承認されましたから、7月10日頃に調査が終わり、8月頃に分析がまとめ終わるでしょう。そのデータをもとに、機関投資家は9月初頭頃から投資の意思決定を行うものとみられます。
また、例年の半減期をみてみると半減期が年末に訪れた年を除き、次の年の年末に高値を更新しています。
今年はどうかというと、先ほど話したように9月から機関投資家が入ってくる可能性があり、さらには2024年10月から12月に利下げを開始することが予想されています。
これらのことが同時に起こるとすると、例年通り年末頃に市場が盛り上がり、最高値を更新する可能性があると考えています。
金利とビットコインの関係については、過去の半減期前から半減期後にかけて、大規模な金融緩和政策が打たれていたという共通項もあります。
たとえば、1回目の半減期前後にはリーマン・ショックによる大規模な金融緩和政策。2回目の半減期の時期には日本が世界の暗号資産市場をリードする存在でしたが、その際にも日銀が異次元の金融緩和政策を行っています。
そして、3回目はまだ記憶に新しい新型コロナウイルスのパンデミックも重なり、世界的な金融緩和が訪れました。このように、まだ施行回数は少ないですが金融緩和とビットコインの価格には密接な関係があることは覚えておくべきでしょう。
——ビットコインは先日の半減期により供給量が減少しましたが、これによる影響はどのようにお考えでしょうか?
仮想NISHI:秘密鍵をなくしたりだとか、何らかの理由で引き出すことができなくなってしまったビットコインは毎年増え続けています。Web3.0領域でいわゆる「GOX(ゴックス)」などと呼ばれるものですね。
別図のブルーのラインは7年間動いていないビットコインを除いた市場流通枚数をあらわしたものです。多くの方はビットコインの市場流通量が右肩上がりに上昇していくものだと想像するでしょうが、この図をみてわかるように、実際の市場流通量は高止まり、むしろ下がりつつあります。
ここに先ほどお話した法定通貨の量的緩和が重なることで、ビットコインの価格が上がる、というのがこれまでのメカニズムです。
▶︎ビットコインの実質市場流通枚数:Glassnodeより仮想NISHI作成
中東情勢の悪化など外的要因には注意
——そのほか、暗号資産市場に影響を与える可能性のある要因などはありますか?
仮想NISHI:ビットコインもそうですが、過去の暗号資産市場の上昇に『クリプト3条件』が重要だと考えています。まずその1つが、先ほどもお話した「主要中央銀行が金融緩和傾向であること」です。
2つ目は「株式市場のボラティリティ指数が低水準であること」です。これはどういうことかというと、まずファンドは過去の値動きなどからみた変動率を「リスク量」と呼んでいます。
たとえばある金融商品の値動きが横ばいだった場合、「リスク量に空きが生じた」と呼んだりします。
このリスク量に空きが生じた時に、ビットコインなどの暗号資産に資金が流入する可能性があるわけです。特に価格差で利益を得るヘッジファンドなどはボラティリティの高いビットコインなどに資金を投じる傾向がみられます。
ただ、株式市場のボラティリティが高い時に、わざわざもっと荒いビットコインなどに資金を入れるファンドは少ないともいえます。
また、このリスク量を一般市場参加者でも見定めることができる指標として「VIX指数」があります。VIX指数とは「Volatility Index」の略で、日本語では「恐怖指数」とも呼ばれます。
この指数が20を超えると、市場のボラティリティが高くリスク量が多いとみなされます。逆に、この指数が20以下であればリスク量が低く、適温相場などと呼ばれたりします。
ビットコインが過去3回、過去最高値を更新した際には、いずれも恐怖指数が10程度でしたので、リスク量が低かったといえます。
一方で、2018年2月上旬にビットコインが大暴落した際には、恐怖指数が50以上と、非常に高い水準にありました。当時は「VIXショック」などとも呼ばれましたね。
ちなみに、現在の恐怖指数は20以下で、適温相場の水準にあるといえます。
最後、3つ目の条件として「金利が低下傾向であること」があります。米国で今年中に2回の利下げが行われると予想されていますので、まさに年末頃、この条件を満たす可能性があります。
ただし、現在インフレに振れる可能性のある要因として中東の地政学リスクによる原油の高騰などがあげられますので、年内の利下げは1回にとどまる可能性も指摘されています。そこは注意深く動向をみる必要があるでしょう。
——仮想NISHIさんが相場をみていく上で重要視した方がいいと考える指標などがあればお聞かせください。
仮想NISHI:これは短期的にみるか長期的にみるかで異なります。まず中長期的にみるのであれば、先ほど触れた『クリプト3条件』とファンダメンタルズが重要となります。
そして短期的な目線では、あげれば多くの指標がありますが、なかでも3つの指標を私は重要視しています。
1つ目は海外の大手暗号資産取引所における先物市場の価格です。たとえば、現在価格が100円の暗号資産があったとして、3ヵ月先物の取引価格が6%高い106円になったとしましょう。
この場合は買われ過ぎの傾向となり、後に売りが重なる可能性があります。一方で、この場合において3ヵ月先物の取引価格が100円を切ったとしたら、それは売られ過ぎとなりますので、後に買いのチャンスが来る可能性があります。
そして、現在価格と比べて3ヵ月先物の取引価格が3%高い103円だったとしたら、これはニュートラルとなり、売りと買いのバランスが取れた状態となります。
——3ヵ月先物の取引価格が3%高いとバランスがとれた状態となるのはなぜでしょうか?
仮想NISHI:一部の海外暗号資産取引所では、ロング(買い)とショート(売り)のポジションの比率が50:50となった時、8時間ごとにロング側に0.01%の手数料がつきます。
この手数料を俗に「ファンディングレート」と呼びます。これをたとえば1日繰り返すと0.03%になり、90日続けたとしたら2.7%となります。実際には複利で増えますので実数値は異なる部分がありますが、おおよそ3%に近付きますよね。
なので、これを踏まえると3ヵ月先物の取引価格が現物価格に対して3%高いというのはバランスがとれたニュートラルな状態といえるのです。
ちなみに、一般的に現物の需給がひっ迫している時、先物価格は下がります。特に現物価格より先物価格の方が安い現象は「バックワーデーション」と呼びます。
これはリスクヘッジでショートのポジションが多くなるため起こる現象です。どういうことかというと、たとえば100円で暗号資産を現物で買ったとした時に、同時に先物取引でショートを入れます。
現物の買いが増加すると先物のショートポジションも増加して先物価格が下落します。仮に現物価格が1%上がったとしたら、ショートを入れている方の評価額はマイナス1%となりますが、この総和は0となり、損はしていませんよね。
つまり、自分の資産を保全する形となっているわけです。先物取引の清算期日には、ショートのポジションを決済する「ショートカバー」が入るので、価格は上がる傾向にあります。
こういう状況の時には相場が大きく上昇する傾向にありますので、買いのチャンスになりやすいということですね。
——残る2つ目、3つ目の指標も教えてください。
仮想NISHI:2つ目は、「アクティブOIの推移」です。アクティブOIというのは、成行注文でできた未決済の建玉、つまり先物取引において決済されず残ったままのポジションを意味します。
この成行でできた注文というのはすぐに閉じられやすいものなんですね。なぜかというと、成行注文は急いで取引をしようという時に使われるからです。
このアクティブOIが溜まった状態というのはボラティリティが高くなりやすいことを意味しますので、デリバティブ市場においていつ大規模な決済の連鎖が訪れても不思議ではありません。いわば、パンパンに膨らみいつ弾けるかわからない風船のような状態です。
このアクティブOIがほぼなくなり、空っぽの状態というのは、デリバティブ市場において買いの連鎖、売りの連鎖が起こりにくい状況となります。
イメージとしては、風船を膨らませるための燃料がない状態ですね。特に現物市場の買いが旺盛な上昇トレンドの時は、アクティブOIが空っぽになると、現物売りとなってしまうデリバティブ市場のアクティブなロングポジションOIもなくなっているということなので、大きく上昇する傾向があります。
最後に、3つ目は先ほども触れたファンディングレートです。これがマイナスの場合、ショートのポジションが多いという見方ができます。
反対に、ファンディングレートがプラスの場合にはロングが多いということになります。一般的に、ファンディングレートがマイナスの場合だと現物価格が上がりやすい傾向にあります。
以上が短期的な見方となります。とにかく、価格を形成しているポジションの内部動向、ひいては中身をしっかりとみることが重要です。
もちろん、暗号資産市場にとどまらず、実社会にも影響を及ぼすような外的要因があらわれた際にはこの限りではありません。
平常時かつ短期的には、このような論理的な取引方法が有効となるケースが多いと認識してもらえればと思います。
——現状の暗号資産市場で投資をする上で注意すべきポイントなどがあればお聞かせください。
仮想NISHI:各銘柄のファウンダーの理念やホワイトペーパーが、当初からの方針とずれて行っていないか等を常々確認しておくと良いかと思います。
ICOが流行していた頃のように詐欺師が跋扈する事も減り、暗号資産業界清浄化のための法整備等がグローバルで進んで行われているとはいえ、自分の資産を他人任せにではなく、当事者意識を持って管理していく気持ちを忘れないでください。
——最後に読者に向けて一言お願いします。
仮想NISHI:SBI VCトレードは社員の皆さんによる日々の努力を始め、最近も優秀なCTOなどが加わった事もあり黒字が続いていますが、現在事業拡大中につき人員を募集しています。勤める場としても、注目していただければ幸いです!
取材実施日:2024年4月25日
Profile
◉仮想NISHI(Nishi Kasou)
SBI VCトレード(クリプトアナリスト/新規事業戦略担当)
SBIホールディングス デジタルスペース室副室長(Web3推進)
ディーラー経験を活かし、オンチェーンデータを始め暗号資産市場を分析、Twitterでの情報発信のほか新聞・雑誌等で暗号資産市場の解説を行う。