ビットコインの価格は需給のバランスと法定通貨不安で左右される——
これまでにビットコインの価格予想を幾度となく的中させてきた“ビットコイン相場のプロ”が本誌独占インタビューで2025年までの暗号資産市場の動向と価格予想を語った。
——現在、暗号資産市場はビットコインを筆頭に盛り上がりをみせていますが、今後どのような推移をたどっていくとお考えでしょうか?
松田康生(以下、松田):今年に入りビットコイン現物ETFのローンチによってビットコインの価格も大きく上昇してきましたが、今後さらに機関投資家らの参入、そして地域的にも取り扱いが広がっていくのではないかとみています。
今のところ、今年のマーケットというのはビットコイン現物ETFの動きに左右されています。この3ヵ月ほどでETFを通じて購入されたビットコインは約220,000BTC(取材時点)。
それに対して発行されたビットコインは80,000BTCです。この差140,000BTC、およそ1.4兆円分、需要が供給を上回ったことからビットコインは大きく値上がりをしているわけです。
そして注目すべきは、このビットコイン現物ETFを誰が購入していたのかということです。ETFの登場で機関投資家の参入が増えると予想されていたのですが、ふたを開けてみると当初3ヵ月の買いは主に個人投資家だったわけですね。
この個人投資家というのも、いわゆる“ベビーブーマー世代”と呼ばれる層が中心とされています。法定通貨の価値が不安定な時代に突入したことで、あたらしい技術に寛容な若い層だけでなく、これまで懐疑的であった層にもビットコインがデジタルゴールドとして認識され始めているのです。
機関投資家もこれまでの伝統的な資産で形成されていたポートフォリオの一部をアロケートし始めていますが、彼らの動きはこれからが本番だと考えています。機関投資家というのは、資産を購入するのと同じくらい、いかにスムーズに売り抜けるかという出口戦略もよく考えた上で投資を判断します。
ですので、ビットコイン現物ETFのようなあたらしい商品が出た際には、すぐに飛びつかずトラックレコードをよく確認してから参入する傾向があります。
その期間を経て、ビットコイン現物ETFの登場からおよそ半年となる今年後半にかけて、機関投資家の参入が増えてくるのではないかといわれています。
米国でのビットコイン現物ETFのヒットをみて、各国もただ黙っているわけではありません。4月には香港でも暗号資産の現物ETFが承認されましたが、今後この動きは広がっていきます。
このように若者からベビーブーマーへと、世代間でも、個人から法人へと投資主体の面でも、米国からアジア・欧州など地域間でもビットコイン投資家のすそ野が広がりをみせていくことでしょう。
——このタイミングでビットコイン現物ETFが需要を集める要因としてはどのようなことが考えられるでしょうか?
松田:ビットコインの半減期に伴う需給のバランスもあるでしょうが、足元の法定通貨不信に伴うドル離れが要因になっていると考えています。
振り返ってみると、日経平均やビットコイン、そして金(ゴールド)が史上最高値を記録したタイミングはほぼ同じだったんですね。不動産価格の上昇をみてもわかるように、法定通貨の価値が相対的に下がることを懸念して多くの人がリスクヘッジに動いた結果だと思います。
2020年から2021年にかけて世界的な金融緩和をきっかけとしてビットコインが最高値を記録したのもまだ記憶にあたらしいですね。金融緩和に伴い法定通貨の価値が不安定になったあの頃と実質的に状況は似ているといえます。
——相場動向をみていく上で今後ポジティブに働く可能性のある要因があれば教えてください。
松田:まずポジティブに働く可能性があるのは、米国の景気後退と利下げですね。これらはビットコインの購入動機の1つでもある法定通貨の減価との関係にもつながります。
利下げをすることで米ドルを持っているインセンティブが下がりますから、大きな買い材料になるのではないかとみています。ただ一点、利下げを巡る思惑では多くの人が勘違いをしていますので、そこは注意が必要です。
——勘違いというのはどのようなことでしょうか?
松田:よく雇用統計や景気の動向を利下げの判断材料として議論する方々がいますが、FRB(米連邦準備制度理事会)はそれらを今年利下げする理由にはしていません。
たとえばGDPの話をする際、多くの人は名目GDPではなく、物価変動の影響を取り除いた実質GDPの話をしますよね。
それは政策金利に置き換えても本来同じ話になるはずなのですが、なぜか多くの人は名目金利にだけ注目するのです。FRBが現在みているのは実質金利です。
インフレ率が下がると実質金利が上がってしまい景気や雇用にマイナスになるので、FRBはそういった状況にならないようにタイミングをみつつ利下げを行うことを考えているのです。
——利下げの開始時期を巡っては、6月頃であったり、米国の大統領選挙後だと予想する声もあるなど意見がさまざまですが、松田さんの見解ではいつ頃になりそうでしょうか?
松田:政治的背景を踏まえると大統領選後という可能性は低そうです。
トランプ大統領はパウエル議長の解任を公言していますから、議長の立場を考えれば大統領選前には利下げを開始するインセンティブが働きます。
政治的な側面だけに着目するならば、遅くとも9月に行われている可能性が高いでしょう。
——逆にネガティブに働く可能性のある要因はありますか?
松田:現時点ですと中東情勢ですね。ビットコインとゴールドは似ているとよくいわれますが、その性質は若干異なります。
ゴールドは有事の際のヘッジとしてみられますが、ビットコインはあくまでもリスク資産です。近年、ビットコインはポートフォリオに組み込まれるようになってきましたが、これをきっかけとしてリスク資産としての性格が強くなりました。
そのため、特に戦争・紛争に弱いという特徴が強まりつつあります。
投資家は、戦争などの武力衝突が起きた時、自らの資産を守ろうとします。その時に何をするかというと、リスク量を減らそうとするわけです。
そうした時に手っ取り早いのはボラティリティの高い資産を売ることですので、ビットコインは真っ先にその対象となるわけです。
ですので、現在の最悪なシナリオは現在局地的に起きている紛争が世界的に広がることで、その可能性が高まると「少しリスクを減らしておこう」という心理が働き、ビットコインが売られるという動きが出がちです。
重要となる米大統領選の動向
——2024年に最も注目しておくべきイベントとしては何がありますか?
松田:やはり米国の大統領選ですね。私の見解では、『共和党が勝ったらビットコインは買い。民主党が勝ったらビットコインは売り』です。大統領がどちらの政党から選出されるかということもありますが、議会をどちらが多数派を占めるのかは暗号資産に関する法的位置付けが180度変わってしまう可能性があり極めて重要となります。
——2024年末及び2025年中のビットコイン価格についてどれくらいの価格水準を見据えていますか?
松田:複数のシナリオがありますが、本格的な価格上昇は2025年に起き、「125,000ドル〜175,000ドルほどまで上昇」するのではないかと見据えています。日本円換算だと、約1,800万円〜2,500万円ですね。
2024年に注目すべきビットコイン固有のトピックとしては、やはり半減期があげられます。ビットコインに限らずですが、モノの価値というのは需給で決まります。
半減期により需給バランスが変化することは皆がわかっていることですので、先んじて買っておこうという動きが強まったことも現在のビットコイン価格につながっているといえます。
本誌が発売されている頃には半減期も完了し、ある程度状況もみえているかもしれませんが、半減期後の事実売りは今回もある程度あるものと想定されます。
しかし、今回は少し性質が異なることも事実です。米国のマイニング大手であるMarathon Digital社は、自社の損益分岐点を46,000ドルだと明かしました。
現時点でビットコインは64,000ドル程度ですから、損益分岐点を大きく超えています。こうした点を考慮すると、ビットコイン現物ETFにより半減期前に価格が大きく上がりましたので、過去の半減期と比べれば売りが落ち着く可能性も考えられます。
とはいえ、投げ売りがまったくないというわけではないでしょう。あらゆる影響も加味し、今後半年から1年ほど、市場が低迷、あるいは膠着状態に陥るのではないでしょうか。
このサイクルから抜け出すとビットコインの価格は大きく上がり始めると思いますね。
先述した2025年中までの予想価格は、半減期時の価格が50,000ドルで、そこから2.5〜3.5倍になるとの見立てから算出した数字です。
ですが、ビットコイン現物ETFの影響もあり半減期到達時には64,000ドルほどでしたから、機関投資家によるETFの購入が今後活発化するようであれば、上方修正も必要と考えています。
ちなみに、2024年末の価格は先述した米大統領選の状況で大きく変わると見込んでいます。
具体的には、民主党の勝利で「2024年末に50,000ドル(約700万円)、2025年中に125,000ドル(約1,800万円)」、反対に共和党の勝利で「2024年末に90,000ドル(約1,300万円)、2025年中に175,000ドル(約2,500万円)」と予想しています。
ただ、ビットコイン現物ETFを考慮するといずれのパターンでももう少し上方修正する必要がありますね。
——ビットコイン相場において今後重要視すべき時期についてお聞かせください。
松田:最も大きいのは米大統領選ですが、ビットコインのラリーは半減期から半年後、ないしは1年後に始まっているという傾向は重要視すべき点です。米国の政策次第といったところもありますが、個人的には大統領選が行われる今年11月から2025年4月頃が注目すべき時期になるかと考えています。
アルトコインを追うなら現状イーサリアム一択か
——イーサリアムの動向についてはどのようにお考えでしょうか?
松田:私個人としては、投資対象として今後も動向を追うべきアルトコインは現状イーサリアム一択だと考えています。
というのも、ビットコイン現物ETFによってあたらしい投資家層が参入し、ビットコインそのものは金融市場全体の動向にも影響を受けるようになりました。
そうした投資家の動き及び状況を加味すると、ビットコインのプラスワンとしてギリギリ、イーサリアムが対象として入ってくるというのが現状です。
——イーサリアムを除くアルトコイン全体の動向についてはどのようにお考えでしょうか?
松田:金融市場の投資家の視点では、ビットコイン及びイーサリアムと、ほかのアルトコインは別モノであるという見方がされている気がします。
時価総額でトップ2だからですが、そうなったのには理由があると思っています。それは「オリジナルをリスペクトする」という性質が働いているからです。
どういうことかというと、ほとんどのアルトコインはビットコインを改良したもので性能的に上回っていますが、その改良の度合いが劇的なものでなければ、結局は“ビットコインの模倣品”というシビアな見方をされがちです。
ですので、今後注目を集めるであろうアルトコインに求められる要素としては、ほかにはない“オリジナリティ”だと考えています。そういう面では、イーサリアムはアルトコインのなかでも圧倒的なオリジナリティを有しています。
また、いわゆる“次世代のイーサリアム”を一生懸命探すというのももちろん良いことだとは思いますが、投資として成り立つかというとそれは違うと思います。
そうした草コインにベットするのは宝探しのようなもので、あくまでも無理のない範囲で資金を投じることをオススメします。
——最後に、現状の暗号資産市場で投資をする上で注意すべきポイントなどがあれば教えてください。
松田:これはいつも話していることなのですが、まず「明日使うようなお金を使わないように」ということですね。これは暗号資産投資に限らずではあります。
その一方で、最も重要なのは「今、自分が何にベットをしているのかしっかりと考えること」です。
ビットコインであれば、その先進性に期待しているのか、それともデジタルゴールドのような視点から法定通貨に対するアンチテーゼとして購入しているのかなど、自分のスタンスを明確にしておくべきです。
これにより、売買のタイミングを考えやすくなると思います。また、自分の投資スタンスを今一度考えることで、その後の資産運用などにも活きてくると思いますね。
取材実施日:2024年4月16日
Profile
◉松田 康生(Yasuo Matsuda)
楽天ウォレット株式会社 シニアアナリスト
東京大学経済学部で国際通貨体制を専攻。三菱UFJ銀行・ドイツ銀行グループで為替・債券のセールス・トレーディング業務に従事。2018年より暗号資産交換業者で暗号資産市場の分析・予想に従事、2021年のピーク800万円、年末500万円と予想、ほぼ的中させる。2022年1月より現職。