新時代の到来にあわせてさまざまな領域が注目を集めるなか、暗号資産やセキュリティトークン(ST)を中心に現在の動向や未来予測、そして今注目すべきキーワードなどを紹介していく。
次世代技術の登場により、金融の世界にも変化が訪れている。Finance(金融)とTechnology(技術)を掛け合わせたFintech(フィンテック)という言葉も随分と世の中に浸透してきた。
特にブロックチェーンを活用した暗号資産の市場規模拡大や、国内におけるセキュリティトークン(ST)取引の本格始動などはその代表的な例といえる。記録的なインフレや混沌を極める社会情勢などを踏まえ、金融領域もあらたなフェーズへと突入している。
暗号資産の金融資産としての次なるステージ
フィンテックと聞いてすぐさま暗号資産を想起する人は少なくないだろう。サトシ・ナカモトと名乗る正体不明の人物の手によって2009年に誕生したビットコイン(BTC)は、金融領域に変革をもたらしたと同時に、あらたなイノベーションを創り出すきっかけにもなった。
ビットコインが金融領域にもたらした革命ともいうべき出来事としては、まだ記憶にあたらしい米国における現物ETFの承認・取引開始だ。これまでビットコインのボラティリティの高さや管理上のリスクなど、さまざまな理由からビットコイン現物ETFの実現は遠のいていたが、各企業らのたゆまぬ努力の結果誕生した。これにより、暗号資産と既存金融との交わりがより強固なものとなった。
一方、ビットコイン現物ETFが承認され、個人投資家や機関投資家の資金がこれまで以上に流入するようになったことで、「ビットコインが既存金融に取り込まれた」と表現する声も度々聞こえるようになった。
しかし、誕生からわずか15年ほどしか経っていないインターネット上の資産が、米国という世界一の経済大国で1つの金融資産として認められた事実は歴史的にみても大いなる価値を持つものだ。
たしかに、当初サトシ・ナカモトが思い描いていたビジョンとは異なる可能性があるが、人々の暮らしをより良くするというイノベーションの核、根本ともいえる部分でビットコインは確実に世界に革命をもたらしたといえるのではないだろうか。そしてビットコイン現物ETFの記録的な資金流入をみてもわかるように、むしろビットコイン、暗号資産が今まさに既存金融を飲み込もうとしているという見方もできるだろう。
暗号資産の金融資産としての次なるステージは「大衆化の加速」。日々の生活を彩る1つのツールとして、まずは多くの人々が触れられる環境整備が世界的に求められる。
▶︎時価総額トップ10銘柄(5月16日時点):CoinMarketCapより引用
ブームを生む存在として注目の「第3世代」
では具体的にどのような暗号資産が今後求められていくかといえば、技術的に従来のブロックチェーンが持つ課題を解決し、分散性の高いプロダクトを生み出すことに長けた「第3世代」のプロジェクトといえるだろう。
ここでいう第1世代は暗号資産の祖であるビットコイン、そして第2世代はブロックチェーンの活用という面で多くの影響を与えたイーサリアム(ETH)とする。そのため、第3世代というのはビットコインやイーサリアムの良さを改良したり、異なるアプローチから独自性を持ったものと定義する。
ブロックチェーンが持つ課題としてよく指摘されるのが「スケーラビリティ問題」だ。ブロックチェーンのスケーラビリティとは、簡単にいえば取引を処理する能力である。ビットコインを例にすると、取引記録は一定量ブロックにまとめられる。そして10分に1度、1つのブロックが生成される。
しかし、1つのブロックに記録できるデータ量には限りがあり、大量の取引が発生した際には処理に時間を要するという課題がある。
近年はこうしたブロックチェーンのスケーラビリティに焦点を当てたプロジェクトが増えてきており、それに伴い取引の高速化が進みつつある。このようなブロックチェーンを活用し、近年台頭しつつあるのがDeFiだ。
DeFiは「Decentralized Finance」、日本語で「分散型金融」と呼ばれ、特定の管理者を置くことなくブロックチェーン上で構築された金融サービスの総称である。なかでも、「分散型取引所」と称されるDEXの取引量はビットコインが最高値を付けた2024年3月と同時期にドル建てで過去最高水準の取引高を記録している。
暗号資産市場が活況となっている時期にはDEXの取引高も上昇する傾向にあり、特に「ミームコイン」が取引の対象となりやすい。ミームコインとはいわゆる「インターネット上のジョーク」をモチーフとして発行されるものだ。
最も著名なミームコインとしてはドージコイン(DOGE)があげられ、最近では米国のトランプ前大統領をモチーフとして発行されたミームコインもある。
これらのミームコインはビットコインやイーサリアムなどの暗号資産と比べて価格が乱高下しやすく、一過性のものとしてすぐさま取引すらされない有り様となることも少なくない。
だが、ミームコインは暗号資産の市況とあわせて価格や取引量が飛躍的に上昇するため、いわば暗号資産の春の訪れを知らせる“花の便り”とも呼べる存在だ。
そんなミームコインは記事執筆時点で暗号資産におけるブームの象徴ともいえる存在だが、中長期的にみれば持続性は限りなく低い。将来性という観点では、むしろこうしたミームコインが発行されるブロックチェーンに焦点を当てるべきだろう。
現在、ミームコインの発行が盛んなブロックチェーンといえば、ソラナ(SOL)やアバランチ(AVAX)などがあげられる。これらの特徴としては、取引の処理能力に長けており、1つのブロックに多くの取引を記録できる点だ。
また、先述したスケーラビリティ問題に対処したブロックチェーンの筆頭格として知られ、同時に現時点で第3世代を代表するプロジェクトであるともいえるだろう。
実際、ソラナ基盤のDEXは徐々にシェアを拡大しつつあり、アバランチ上で構築されたdAppsやゲームプロジェクトなども増加傾向にある。つまり、このような実用性が高く、さまざまな場面で活用されているブロックチェーンや、そこで発行される暗号資産は市況の推移とあわせて次なるムーブメントの中心となり得る可能性があるといえる。
主要「第3世代」プロジェクト
●ソラナ(SOL):取引承認速度が非常に速く、手数料が安価。1秒間に処理できる取引件数は最大65,000件にのぼる。
●アバランチ(AVAX):高速性と分散性のバランスが取れたブロックチェーン。dAppsやゲーム開発等での採用が増加。
●BNBチェーン:大手暗号資産取引所バイナンスが開発したもので、「MetaFi」などさまざまな領域での活用に期待。
●ヘデラハッシュグラフ(HBAR):独自の分散型台帳技術を採用するプロジェクトで、Googleなど大手企業も運営に参加している。
政府・東京都も注視するセキュリティトークンの存在
ここまでは暗号資産について触れてきたが、このほかにもフィンテックを代表する存在としてセキュリティトークン(ST)があげられる。
STはブロックチェーン上で発行される有価証券を指し、「デジタル証券」とも称される。日本では2020年頃から法整備などが行われ、昨年から二次流通市場として大阪デジタルエクスチェンジ社が手がける「START」が開業するなど、金融のデジタル化を象徴する存在になりつつある。
野村総合研究所によれば、2023年度に発行されたSTは976億円で、昨年度比5.8倍となっている。
▶︎国内のセキュリティ・トークン(公募)年度・ブロックチェーン基盤別発行額:野村総合研究所「日本のデジタル証券(RWA)市場の総括と展望」より引用
また、STの市場規模を世界全体でみた際には、2030年に16.1兆ドル、日本円にして約2,500兆円規模まで拡大すると試算されており、グローバル的にも大きな成長に期待感が高まっている状況だ。
▶︎RWAを含むSTの市場規模予測:Boston Consulting Group作成レポートより引用
現時点では不動産を裏付けとしたSTが多くを占めるが、今後は株や債券など多岐にわたって展開されることが予見される。さらに、STを用いた資金調達手段である「STO」の本格的な広がりも今後進む可能性がある。
STのメリットとしては、ブロックチェーン上で発行されることで原則24時間365日取引が可能である点だ。また、暗号資産のように1つのSTを細分化するなど、小口化することも可能であるため、幅広い層の投資家が参入しやすくなる点も魅力的である。
STを巡っては現在、さらなる普及に向け規制緩和を行う方向で調整が進められている。金融庁が率先して規制緩和に乗り出し、これまで以上に企業がSTの発行や販売を行いやすいようにする。
これにより、STそのものの数も増加することが見込まれるため、投資家の投資意欲も向上する可能性があるだろう。さらに、STの価格決定や投資家への公表項目を拡充するなど、透明性確保にも焦点を当て促進を図る予定だ。
また、東京都も2024年4月よりSTの市場拡大促進事業に対する補助金の申請受付を開始した。都内の企業は申請が認められることで、STの発行に関する経費が一部補助される。東京都は2023年も同様の支援を行なっており、ST市場の拡大に向けさらに取り組みを強化していく姿勢をみせている。
このように、政府や東京都など行政が普及に力を入れている現状も踏まえ、STには金融のスタンダードになる可能性が秘められているといえる。
次世代の金融を彩るキーワード
ここまで取り上げてきた暗号資産及びSTのほかにも、次世代の金融を彩るキーワードは点在する。たとえば、今夏より本格的に各所で発行されるものと見込まれるステーブルコインもその1つだ。ステーブルコインの登場により、国際決済の高速化や安価な取引手数料の実現が見込まれる。
また、国内暗号資産取引所においてもUSDコイン(USDC)などの法定通貨に価値を裏付けられたステーブルコインで取引が行えるようになる見込みとなるなど、幅広いユーザーの利便性向上につながる可能性がある。
さらに、STとニアリーイコールになるが、現実資産をトークン化する際に用いられる「RealWorld Assets(RWA)」や、注目度が高まりつつある「DePIN」などもその動向にアンテナを張っておくべきキーワードといえる。
特にDePINはAIの飛躍的な成長に伴い、Web3.0領域において2024年のトレンドになる可能性を秘めている。
「Decentralized Physical Infrastructure Networks」、日本語で、「分散型物理インフラネットワーク」と称されるDePINは、物理的なサーバや交通網など幅広いインフラを指すものの、その定義はまだ定まっていない。しかし、こうした新興領域に関連した暗号資産やブロックチェーンの需要は今後加速度的に高まっていく可能性があるため、今からでも情報収集をすべきだろう。
再三にはなるが、金融に限らずイノベーションの根幹には人々の生活をより良くするというビジョンが重要だ。このビジョンが明確である技術や分野は自ずと活用されていき、規模も拡大していく可能性がある。その上で、利便性や今後成長しそうな領域に注目して動向を追うなり、自らが活用してみることをおすすめする。
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