4月12日、自民党デジタル社会推進本部とweb3プロジェクトチーム(PT)が合同会議を開き、政策提言に当たる『ホワイトペーパー2024』を策定した。
同PTの事務局長である川崎ひでと衆議院議員のインタビューに続き、ホワイトペーパーの中身をみてみよう。
4月12日、自民党デジタル社会推進本部とweb3プロジェクトチーム(PT)が合同会議を開き、政策提言に当たる『web3ホワイトペーパー2024』を策定した。同PTの事務局長である川崎ひでと衆議院議員のインタビューに続き、ホワイトペーパーの中身をみてみよう。
なお、ホワイトペーパーとは一般的には、企業が解決すべき課題と要因を分析し、解決を実現するソリューションの紹介などをまとめた報告書を指すが、今回公開された『web3ホワイトペーパー2024』は、Web3.0に関連する幅広いテーマについて主に法制度の側面から日本の現状と課題、そして議論すべき事項や解決策を提言するものである。
Web3.0の世界では、トークンを発行するプロジェクトらが、自らの事業計画や展望を投資家に知らせるための資料をホワイトペーパーと称して公開することが通例となっていることから、それに倣ったものだろう。
今回策定されたホワイトペーパーは、2022年3月に公開された『NFTホワイトペーパー』、2023年4月に公開された『web3ホワイトペーパー2023』に続く第3弾となっている。
第1弾である『NFTホワイトペーパー』内で、web3PTは「Web3.0時代の到来は日本にとって大きなチャンス。しかし今のままでは必ず乗り遅れる」と危機感を真摯に訴えた。
国内では過去に暗号資産取引所のハッキング事件などが起きていたこともあり、当時から日本はWeb3.0に関する規制の明確性と厳格さが際立っていたからだ。投資家保護を始めとしたリスクマネジメントの面では優れていたものの、イノベーションの創出という観点からは、法制・税制など課題が山積みといえる状況だったのだ。
Web3.0というあらたな市場を日本のチャンスと捉え、適切なレギュレーションによってイノベーションを促進するような事業環境を整える。これが、一連のホワイトペーパーでの提言によってweb3PTが成し遂げようとしていることといえるだろう。
そして実際に、これまで公開されてきたホワイトペーパーをもとに、多くの論点に関する議論が進み、法律や政省令の改正も行われている。また、解釈があいまいだった論点に関するガイドラインなどが制定され、国内におけるWeb3.0事業の推進を後押ししてきた。
Web3.0業界は自由を重視する気風が強いからか、「規制」に対するアレルギーともいえる抵抗感を示すことがあるものの、少なくともweb3PTの活動はWeb3.0事業を日本社会において現実的に推し進めるための追い風となっている面が大きいと考えるべきだろう。
今回策定された『web3ホワイトペーパー2024』でも、まず「Nippon Nexus: Weaving the web3 Era~日本がweb3時代の中心へ」というメッセージを掲げている。
また、「本ペーパーは、web3エコシステムを我が国の発展に取り込むことに加え、社会基盤となりうるブロックチェーンテクノロジーの発展を強力に後押しするための提言である」というポジティブな意思表示をしていることからも、web3PTの強固な意思がみてとれる。
そして本ペーパーでは、Web3.0に関連する幅広いテーマの課題と提言を「web3の推進に向けてただちに対処すべき論点」・「web3のさらなる発展を見据え議論を開始・深化すべき論点」としてまとめている。
本記事の下部にて紹介しているが、これらはほんの一部。『web3ホワイトペーパー2024』を閲覧すれば、Web3.0と呼ばれる領域に、いかに多くの論点が存在するかがわかるはずだ。
たとえば、ただちに対処すべき論点としてあげられている「決済・投資手段のデジタル化」というテーマでは、「パーミッションレス型ステーブルコインの流通促進のための措置」について言及している。
パーミッションレス型とは、管理者の許可を必要としない、または管理者が存在せず、誰でも自由にネットワークにアクセスして取引ができることを意味する。現在、暗号資産取引において主流となっている多くの米ドル連動型ステーブルコインがこれにあたる。
Web3.0エコシステムか拡大するにつれて、このようなステーブルコインの需要は拡大し続けており、国内においても日本円連動型ステーブルコインの開発が進められている。今後“多くの人が使うお金”としてステーブルコインが当たり前のように利用されていく未来を見据え、国内で銀行や各事業者がステーブルコインを発行する際の障害となる点、法的な論点の整理に着手すべきであるといった提言が行われているのだ。
また、『web3ホワイトペーパー2024』では、過去のホワイトペーパーにおいて提言として取り上げた論点に関する進捗についてもまとめられており、多くの点において確かな前進があることがみてとれる。
川崎議員が本誌へのインタビューで語った通り、暗号資産保有時の法人税に関する税制改正が2年続けて行われているほか、国内暗号資産取引所における暗号資産(トークン)上場審査の効率化が行われ、実際に直近2年間で取り扱われる暗号資産数は激増している。
また、NFTのようなデジタル資産の法的性質の検討が始まり、ブロックチェーンエンジニアの育成活動、権利者が存在するコンテンツを無断で利用する無許諾NFTへの対処などにも進捗がある。
以上を踏まえれば、web3PTによるホワイトペーパーは、急速に発展したWeb3.0市場とWeb3.0事業を、その勢いを削ぐことなく現状の社会システムのなかに組み込み、さらに日本をより良くするための起爆剤にしようする野心に満ちたものといえるだろう。この歓迎すべきチャレンジがこれからも続き、多くの進展があることを期待したいところだ。
『web3ホワイトペーパー2024』で「web3の推進に向けてただちに対処すべき論点」としてあげられているテーマを一部抜粋
「暗号資産取引から生じた所得に係る税制度」のような身近なものから、未来のデジタル社会「Society 5.0」を見据えた提言まで、その論点は幅広い。ここでは『web3ホワイトペーパー2024』において論点としてあげられているテーマ一部紹介していく。
Society 5.0
問題
「Society 5.0」とは「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」という世界観のこと。サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合された「Society 5.0」を実現するにあたっては、AI、IoT、メタバースといった他分野との共働が欠かせないが、分野横断的な検討が不十分である。
提言
「Society 5.0」実現のため、Web3.0政策は、ブロックチェーン領域に閉じたものとしてではなく、たとえば、フィジカル空間との連動性を意識したメタバースや、あらたなデジタル経済圏のエンジンとなり得るAIとの連動性を意識して推進される必要がある。
まずは、Web3.0、メタバース、AIといった複数のテーマが連動・共働する領域が生み出す価値や、あらたな課題を整理するための検討を、省庁横断的な形で開始すべきである。
VC/DID
問題
社会のさらなるデジタル化・データ利活用の推進と、プライバシーリスクの軽減を両立しうるVCやDID、DIWといった広く社会のデジタル化に資する有望な技術の利活用が求められている。
※VC:Verifiable Credentials=個人情報を含む証明書をデジタル化するための技術、もしくはデジタル化した証明書/DID:Decentralized Identifier=分散型ID/DIW:Digital Identity Wallet=個人・法人の属性や資格情報を保存し、提示できるウォレット
提言
VCやDID、DIW等のあらたな技術を活用した、本人を介する情報連携をビジネスインセンティブの起爆剤とするため、政府・自治体が率先してVCのIssuer、Verifierとなることを視野に入れた制度的・技術的課題の整理を、デジタル庁が中心となり推進する必要がある。加えて、先行的な行政のユースケースについても、所管省庁を中心に関係省庁が連携して実装を進めるべきである。
税制
問題
日本では暗号資産取引から生じた所得は最高税率55%で課税されるなど、諸外国に比べて厳しい扱いがされる。
また、ほかの暗号資産と交換した場合にも、暗号資産の譲渡に係る損益に対して所得税が課されることになる。加えて暗号資産による寄附が特定寄附金に該当するかが明確でなく、含み益に対するみなし所得を非課税とする特例が存在しないことによって、暗号資産による寄附が阻害されている。
提言
・暗号資産の取引に係る損益を申告分離課税の対象とすること、暗号資産に係る損失の所得金額からの繰越控除(翌年以降3年間)を認めること、暗号資産デリバティブ取引も同様に申告分離課税の対象にすることが検討されるべきである。
・暗号資産取引に関する損益は、保有する暗号資産を法定通貨に交換した時点でまとめて課税対象とすることが検討されるべき。
・暗号資産によって寄附が行われた場合、特定寄附金に該当しうることを明確化すべきである。
DAO
問題
・合同会社型DAOを設立・運用する際の実務的な課題(社員の勧誘等を非業務執行組合員が行うことに制限があること等)を解決する必要がある。
・合同会社以外の既存の法形式(NPO法人、社団法人、権利能力なき社団等)をDAOに適用する際の取り扱いについて不明確な点が存在する。
・海外におけるDAO法制(スイス、マーシャル諸島等)やDAOに関する実務との相互運用性を確保する必要がある。
提言
・合同会社型DAOを設立・運用する際の実務的な課題を洗い出し、さらなる解釈の明確化や実務運用の見直しによって対応できる点に関しては、速やかに対応を行うべきである。
・合同会社以外の既存の法形式をDAOに適用する際の実務的な課題を洗い出し、解釈の明確化や実務運用の見直しによって対応できる点に関しては、速やかに対応を行うべきである。
・海外の法制度やグローバルに活動するDAOの調査・研究も踏まえて、具体的な検討に着手すべき。
Web3.0コンテンツの海外展開
問題
日本が誇るコンテンツには、世界中に多数のファン・ユーザーが存在する。これらのファン・ユーザーをWeb3.0エコシステムに取り込むことができれば、わが国のコンテンツ産業は、Web3.0を切り口としてコンテンツの価値をグローバルな適正価格に引き直し、海外における新市場創出を図る大きなポテンシャルを秘めているといえる。
しかしコンテンツ業界において、NFT活用方法や法的リスクへの認識が不足しておりWeb3.0を活用したコンテンツ海外展開に政府支援が必要とされている。
提言
司令塔となる省庁を明確にした上で、当該関係省庁において、Web3.0を活用した海外展開に関心のあるコンテンツホルダー・クリエイター等に対する相談窓口を設置する必要がある。
また、関係省庁として海外展開を具体的に支援するための方策として、信頼できる海外のWeb3.0関連企業とのマッチング、海外の税制優遇措置の官民一体となった活用検討等を行うべきである。
利用環境の整備
問題
ブロックチェーン技術はWeb3.0エコシステムを超えて社会の基盤技術になる可能性がある。しかし、ITリテラシーが特に高くはない一般的な事業者や消費者にとって、自己責任の原則が強調されるWeb3.0エコシステムに参加し、多額の資産を投入することには、高い心理的なハードルが存在する。
提言
Web3.0に参加する際の心理的なハードルを下げるために、事業者による安心・安全な取引環境の提供や、消費者向けの情報提供や啓発活動、サイバー犯罪の取り締まりを強化すべき。
同時に、一般消費者にとってより安全で使いやすいウォレットの開発についても、利用者保護施策の一環として政府として注視し、必要に応じて支援していくべきである。
自治体支援
問題
デジタル空間でコミュニティを形成し、参加メンバーがプロジェクトの活性化に貢献するWeb3.0の特徴は地方創生と相性が良い。そのため地方創生においても、Web3.0プロジェクトが増加しているが、自治体職員のノウハウ向上や会計処理など関連制度の整備が課題となっている。また、各自治体が個別に知見の獲得に向けた努力を重ねている状況はわが国全体でみれば非効率である。
提言
自治体と関係府省庁との対話の場として、「Web3.0情報共有プラットフォーム」が開設され、自治体からの質問等に一定程度活用されているが、当該プラットフォームが政府への相談窓口としての機能を有することは十分に認知されていない。
自治体においては、Web3.0プロジェクトの構想段階から積極的に当該プラットフォームを通じてデジタル庁を始め関係省庁に相談することが期待される。また、関係府省庁は地方の高付加価値資源をグローバルに流通させる取り組みを支援すべきである。
暗号資産ビジネス
問題
・現在の暗号資産デリバティブ取引のレバレッジ倍率上限2倍については、より高い倍率を提供する海外事業者に多くの日本の個人顧客の取引が流出しており、かえって顧客保護に反するとの指摘もある。
・米国等では、ビットコイン現物ETFがSEC(証券取引委員会)によって承認され、複数の証券取引所に上場されている。我が国では、暗号資産ETFは認められていないが、暗号資産を投資対象とするETFを許容しないことが果たして適切な金融政策であるのかが問題となる。
提言
・現行の暗号資産デリバティブ取引のレバレッジ倍率上限の適切性について、業界や専門家の協力を得ながら、調査と検討を行うことが望ましい。
・我が国において、暗号資産を投資信託(ETFを含む)の投資対象とすることの妥当性や是非を投信法の目的に照らして検討することが求められる。
その際には、今後、個人投資家のみならず、機関投資家の運用資産等についても、すでにビットコインETFが存在している米国等に流出する可能性がないか等についても考慮に入れることが望ましい。
まとめ
・『web3ホワイトペーパー2024』は、イノベーションを促進するために、Web3.0に関する事業環境や投資環境の整備を目指すもの。
・過去に策定されたペーパーの提言によって、多くのポジティブな変化が起きている。