2022年11月29日ポルシェは仮想世界に参入を表明、NFTコレクションを販売することを発表する。
ポルシェのNFTコレクションを手がけるデザイナーは3DアーティストのPatrick Vogel氏で、伝説の名車「ポルシェ911」にインスパイアされた7,500個のNFTコレクションを発行するとしたプロジェクトは多くのユーザーに注目され、2023年1月23日にNFTコレクションが展開された。
ところが、多くのユーザーの注目を集めたのにも関わらず、発売当時の相場で1,490ドルと高額で売り出されたコレクションの売上自体は伸びず、準備していた7,500枚のNFTのうち、翌日の時点で発行されたのは1,600枚程度。オープンシー(OpenSea)などの流通市場(二次市場)では、発行価格よりも安く転売されている状態だった。
人気のなさに気付いたポルシェは発行停止を発表。最終的に発行されたのは2023年2月の時点で2,363枚。この間にポルシェは売れ行き低調という理由で当初予定していたNFT供給量を減らし、さらに特典(ユーティリティ=NFTの使用価値)が追加されたことを受けて二次流通(転売)の価格上昇につながっている。
転売目当てのNFTホルダーを喜ばせた施策だったが、このポルシェの場当たり的な対応が本来のNFTホルダーの不信を買って炎上してしまう。こうしてポルシェ初のNFTプロジェクトは失敗事例の代表として記憶されることとなった。
ではなぜポルシェのNFTプロジェクトは失敗に終わったのだろうか。まず考えられるのは高額な値段設定だ。
NFTの性質上、高額な値段設定は必ずしもプラスに働くわけではない。NFTホルダーというのはすでに確立しているブランドに対価を払うのではなく、あらたな価値に対して対価を払うからだ。NFTプロジェクトの多くが無料配布されるのはこのためだ。
しかし、ポルシェはこうたNFTホルダーの本質をまったく踏まえずに高額な価格設定をしてしまった。これはつまり、外見だけがNFTで実質はポルシェというブランドを売っているに過ぎない。
ポルシェが抱いたNFTの認識と実際に売り買いするNFTホルダーの間の認識のズレ、このズレがポルシェ初のNFTプロジェクトということで高い注目を集めたのにも関わらず、売り上げに結びつかなかった理由の1つになっているのではないだろうか。
もう1つの理由として考えられるのは一方的な供給停止と特典の後出しだろう。
NFTは需給で価格が決まるものだ。先の購入者を差し置いて、発行者が供給量を変える、もしくは停止するといったことを行うと価格の前提が崩れるほか、本質的に先の購入者に対して不誠実な対応といわれても仕方がない。
特典を後付けしたのも同様である。どちらかだけでもNFTホルダーの不信を買うには十分な行為だったが、ポルシェは両方やってしまった。
NFTホルダーの批判を浴びることとなったのは当然である。これもポルシェが抱いたNFTの認識と実際に売り買いするNFTホルダーの間の認識のズレがあったことの証左ではないか。世界的なブランドなだけに今後こうしたズレを認識して調整しなければ同じことを繰り返すことになるだろう。
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