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実用化が進む「空中ディスプレイ」にみる想定される活躍シーンと今後の可能性

2024/07/29Iolite 編集部
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実用化が進む「空中ディスプレイ」にみる想定される活躍シーンと今後の可能性

空中ディスプレイはすでに実用例があり近未来の話ではない

未来型ディスプレイとして今注目されている「空中ディスプレイ」。空中ディスプレイとは、その名の通り、光の反射を利用することで空中に映像をディスプレイさせる技術のことで、空中結像技術とも呼ばれ、特殊なメガネなどを用いず肉眼で目の前に映像を浮かび上げることができる。センサーや触覚を加えることで、空中タッチパネルとしても利用できるため、一般的なディスプレイの進化系として期待されている。

空中ディスプレイのアイデア自体は1997年よりあったもので、研究者の大坪誠氏が光学結像装置に関する「特開平09-005503」を世界で初めて公開。この時は結像光学素子としての機能は不十分であったが、2011年に新技術開発に意欲的だった株式会社アスカネットの協力のもと、空中ディスプレイの実用化に成功した。

2020年にはパリティ・イノベーションズが300mm角のパリティミラー300を発売開始している。当時はコロナ禍の真っ只中で、感染症のリスク低減にもつながる新技術として非接触のタッチディスプレイに期待が寄せられ、多くの展示会で空中ディスプレイが展示されていた。空中ディスプレイの導入メリットとして、当時からあげられていたのが「非接触で操作できる」というものだ。

空中ディスプレイは現物のディスプレイに触れることなく、非接触で操作できるため、衛生面を重視する医療現場において活躍できるだろうとされた。さらに非接触のため、接触部分の除菌などの必要もないというのも医療現場においてはメリットだ。

また、スクリーンがなくても映像が投影されるので、特殊なガジェットなどの設備や準備も必要なく、目の前に実物が存在しているかのように映し出すことができるので、たとえば、新製品の発表会などの現場での活躍も期待できるだろう。

セキュリティ面においても、空中ディスプレイは隣や後ろからみえにくいという特徴を持っているため、暗証番号や部屋番号の入力などのセキュリティが重視されるシーンでも活躍できる可能性を秘めている。このような空中ディスプレイだが、現段階においても実用化している例がいくつかあるので紹介していこう。

まずは国内コンビニチェーン最大手のセブンイレブンだ。セブンイレブンは株式会社アスカネット、神田工業株式会社、東芝テック株式会社、三井化学株式会社、三井物産プラスチック株式会社との協働で2022年2月より都内のセブンイレブンの6店舗において「デジPOS」の実証実験を行っている。

「デジPOS」とは空中ディスプレイを導入したレジのことで、レジ画面が空中に浮かび上がって表示されるというものだ。キャッシュレスセルフレジで、顧客がタッチパネルのように使って会計操作をするため、完全非接触の会計が可能になる。

また、既存のレジと比べて約70%のサイズになり、レジカウンターのスペースを省くことにつながるとした。株式会社アスカネットの調査によると、POSレジに空中ディスプレイを採用するこの実証実験は世界初の試みであるようだ。

▶セブンイレブンが導入した「デジPOS」など、こういった日常シーンが今後はあたりまえになる時代がすぐそこまでやってきている。

西武池袋本店では、2022年にバレンタイン催事「チョコレートパラダイス2022第2会場」において空中に映し出された3Dアバターが商品案内を行うサービスを実施している。これは商品紹介の監修を行っているチョコレート探検家の「チョコレートくん」というキャラクターが3Dアバターで登場して商品案内を実施するというものだ。

アバター接客によるVR店員や裸眼VRソリューションを展開する株式会社kiwamiが、VR店員ソリューション「xR Cast」、独自ホログラムデバイス「HoloVase M」を活用した裸眼VRソリューション「Holo Masterpiece」を組み合わせ、ホログラムに投影された3Dアバターが商品案内をする技術を提供した。株式会社kiwamiの調査によると、空中ディスプレイを活用したホログラムのアバターによる商品案内を流通業界で実現したのは世界初だとしている。

広島県庁では、株式会社UsideUとNTTドコモ中国支社の協力のもと、完全非接触・非対面による受付案内が導入された。これはUsideUの手掛けるアバター遠隔接客システム「TimeRep」をアスカネット提供の空中ディスプレイである「ASKA3D」で表示するというもので、広島県庁に来庁した人は受付で空中に浮かび上がる映像をタッチ操作して、県職員の呼び出しなどを行う。完全非接触・非対面による受付案内は自治体として全国で初めての事例となった。

▶空中ディスプレイ開発の第一人者「ASKA3Dプレート」(株式会社アスカネット)

空中ディスプレイ開発者である大坪誠氏が株式会社アスカネットと共同で開発したのが「ASKA3Dプレート」だ。ASKA3Dプレートはガラスや樹脂などでできた特殊なパネルを通過させることで、実像の反対側の等距離の空中に実像を結像させる特別なプレート。広島県庁に導入された完全非接触型空中リモート接客システムを始め、秋田県由利本荘市役所の庁内フロア案内システム、茨城県境町役場の窓口発券機、熊本県八代市役所新庁舎の受付用発券機など、全国の自治体でも導入が進んでいる。

ここまで空中ディスプレイの実例を紹介してきたが、今後空中ディスプレイの導入が期待されているのはどのような業界だろうか。まず先述した医療業界があげられる。たとえば、高い衛生管理が求められる手術室や無菌病室などの操作端末を空中ディスプレイにすることで、衛生レベルの維持に役立つほか、待合室や受付などに導入すれば、感染予防の効果も期待できる。

衛生管理の面でのメリットでいえば、飲食業界もそうだろう。席の注文パネルや調理場のキッチンディスプレイを空中ディスプレイにすれば、パネル表面の汚さずに扱えて清掃や消毒の手間がなくなる。同じく食品・医薬品・医療機器の製造現場への導入などもオペレーターに対する衛生面の安全を担保できる。

製造現場への導入でいうと、操作端末を汚損するリスクのある製造現場や操作端末の設置が難しい製造現場への導入も空中ディスプレイのメリットが活かせる。

一般企業においても銀行ATMやセルフレジ、オフィスの受付端末など、不特定多数が触れる操作端末に導入することで感染防止や汚染防止になるメリットがある。実際に、大和ハウス工業株式会社が神奈川県川崎市高津区にある分譲マンション「プレミスト津田山」のエントランスで「空中タッチインターホン」の実証実験を実施しているほか、凸版印刷株式会社の開発した空中ディスプレイが複合施設「東京ミッドタウン八重洲」に採用され、オフィスフロアの各階のエレベーターホールに設置されている。

また、これまで空中ディスプレイのデメリットとして解像度と明瞭度の低さがあげられていたが、凸版印刷独自の新方式光学設計技術により、解像度と明瞭度も改善し、快適な操作が可能となっている。

一昔前ではSF映画の世界や近未来の話のようだった空中ディスプレイだが、実用化が進み身近な存在になりつつある。今後はさらに日常生活においても活用されていくことだろう。

▶従来の解像度と明瞭度の低さが改善された「La(+)touch(TM)」(凸版印刷株式会社)

「La(+)touch(TM)」は大手印刷会社の凸版印刷株式会社が開発した空中ディスプレイだ。凸版印刷独自の光学設計技術により、従来の空中ディスプレイの弱点だった解像度と明瞭度の低さを改善し、視認性が高く鮮明な表示が可能になっている。

また、パネルに対して平行に空中映像を表示させ流ことが可能だ。今後、医療や製造などさまざまな現場での活躍が期待される世界初のデバイスだ。


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