人間に関して最も驚いたことを問われた際、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマは答えた。
「人間は、お金を稼ぐために健康を犠牲にする。そして、そのお金を使って健康になろうとする……」
卵が先か、ニワトリが先か。そんな押し問答のような名言に多くのことを考えさせられた。
原始時代、人間が消費したとされる熱量は1人1日2,000kcal前後であったのではないかといわれている。それが現代では1人1日240,000kcal以上にもなるようだ。工業・農業・商業・輸送等、確かに私たちは豊かになっていると思う。
一方、私たちが原子時代よりも120倍幸せであるかといえば疑問が残る。120倍良いものが着れて、120倍良い食事ができて、120倍質の良い睡眠が取れているのか。数字というのはつくづく乱暴な物差しだと思う。
AIが加速度的に発展する昨今、人々の仕事が代替されていった未来には人と関わって仕事をすることすらなくなっていくかもしれない。生産性だけを考えたら、人と仕事をすることすら非効率なことになるかもしれない。ではなぜ私たちは関わり合いながら仕事をするのか。私は仕事が最高の贅沢であり、最大の娯楽であると腹落ちさせている。人と仕事をする理由は楽しいから。それ以上でもそれ以下でもない。それで良いと心底思っている。
ならば、楽しくない仕事はやるべきではない、と偏屈になる方もいるかもしれない。確かに自身が身を置くレイヤーによってはそれもまた是とされるが、“楽”という漢字の成り立ちを知るとまた思考の幅は広がる。もともとはお祈りに使われる道具のにぎやかな音で神さまを楽しませることから派生したといわれているのだ。この漢字(道具)を使って感情を動かそうとする対象は、この漢字の成り立ちから考えれば自分ではなく第三者(神さま)となる。“楽”のベクトルが自分ではなくそもそも外側に向いている。少し柔軟に考えれば、仕事は他者を楽しませるためにするものと捉えることもできるのが面白いところではないだろうか。
仕事を通して誰かの役に立ちたい、誰かを楽しませたいという願望は最高に贅沢なことであり、最大の娯楽だと感じる。
7月15日の海の日に、とあるアイドルのスタジオ撮影があった。半年ほど前にデビュー間もない彼女達と仕事をさせてもらったが、当時には感じなかった確かな芯を感じた。多くの経験を通して人としてさらに魅力的になり、覇気を帯びた彼女たちに感動を覚えた。
インタビューをする過程で、「Idol(アイドル)」は直訳すれば「偶像」となることを教えてもらった。崇拝される人やモノを指した「偶像」という言葉は、彼女達にとって良いプレッシャーになっていることだろう。
インタビューのなかに散りばめられた「ファンの方々に楽しんでもらって、勇気を与えられるような存在になりたい」という信念にも似た強い想いは、まさにEntertainm entを生業とする彼女達の“仕事”を象徴する。仕事はEntertainment(娯楽)であるという感覚の解像度が上がった1日だった。
冒頭に戻る。人はお金のために健康を犠牲にしていないかもしれない。人は人を楽しませるために時に自己犠牲をするのではないだろうか。Entertainmentは送る側にも受け取る側にも、強烈な快楽を与える。この快楽の虜になった人々は、誰かのために仕事をする。
あなたは誰かにとって最高の仕事人でいられていますか——
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