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グリーグループが満を辞してリリースした「クリプトキャッチ!釣り★スタ」 開発秘話や今後の展望を村田卓優氏・本間貴之氏に迫る

2024/07/29Iolite 編集部
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グリーグループが満を辞してリリースした「クリプトキャッチ!釣り★スタ」 開発秘話や今後の展望を村田卓優氏・本間貴之氏に迫る

グリーの看板コンテンツをBCG化した「クリプトキャッチ!釣り★スタ」に迫る

グリーグループが満を辞してブロックチェーンゲームをリリース。同社Web3.0領域の事業開発責任者・村田氏と、「クリプトキャッチ!釣り★スタ」のプロデューサー・本間氏が開発秘話とその意義、そして今後を語る。

——はじめに「クリプトキャッチ!釣り★スタ」の特徴とこだわった点を教えてください。

本間貴之(以下、本間):「クリプトキャッチ!釣り★スタ」のプロジェクトが始まった時に、ゲーム内アイテム等の販売はしないことを決め、ブロックチェーンゲームに初めて触れる人をターゲットに定めました。ブロックチェーンゲームの初心者でもプレイしやすいように、ゲーム内容もシンプルに設計しています。

とはいえ、これまでのソーシャルゲームのように遊べてしまっても、ユーザーはブロックチェーンゲームならではの体験を味わうことができません。そこでブロックチェーンゲームの特性を盛り込みました。初心者でもプレイできるシンプルさ、そのなかでもブロックチェーンゲームを体験できる要素を入れるという2点がこだわりのポイントです。

既存のブロックチェーンゲームは最初にNFTを買う必要がありますが、そこが参入障壁になっているともいえます。ですので、最初は無料で始めることができるように、ゲームプレイで必要なガスフィー(手数料)のサポートも決めました。

村田卓優(以下、村田):まずこのゲームは非常にシンプルで、一言でいえば魚釣りゲームです。魚を釣るたびに釣り竿が成長していき、釣り竿を5本集めるとNFTにすることができます。

そのなかでも特に気にしたポイントが、「ブロックチェーンゲームがこれから来る」と期待しているのがごく一部の暗号資産投資家と、ゲーム業界の方々という現状です。

その結果として、現時点ではユーザーが少なく、ビジネスにつながらないという状況が続いていると感じましたので、我々は“ブロックチェーンのトランザクションを増やすこと”に焦点を当てました。

——本ゲームにはスイ(Sui)ブロックチェーンが採用されていますが、もともとバリデータであったというのも関係しているのでしょうか?

村田:そうですね。もともとスイなどさまざまなブロックチェーンのバリデータとして参加した理由は、ブロックチェーンを理解することにあります。いざブロックチェーンゲームを始めるぞといっても、知識がなければなかなか難しいですので。

スイのバリデーションをしようと思ったのは、当時その技術が優れているという記事をいくつも読んだことがきっかけです。その後、バリデータとして参加させてもらえないかと何度も相談し、実現しました。

実際にスイで開発を行ったエンジニアたちは、「こんなに効率的なコンセンサスアルゴリズムで構築されているブロックチェーンはなかなかない」と口を揃えて話していました。

本間:スイの開発会社であるミステンラボ(Mysten Labs)からも厚いサポートをしていただき、非常に助かりました。海外のプロジェクトですとなかなかコミュニケーションをとることが難しいというイメージがありましたが、ミステンラボについてはそんなことはありませんでしたね。

日本とグローバルに通じるゲームとして「釣り★スタ」を採用

——「クリプトキャッチ!釣り★スタ」を開発するに至った背景や経緯についてお聞かせください。

村田:ミステンラボと、一緒にスイのトランザクションを増やしていこうという話をしたことがきっかけです。そのために日本とグローバルに通じるゲームを作れないかという話になった時に、グリーグループが昔リリースした「釣り★スタ」をブロックチェーンゲーム化するのはどうだろうかと相談しました。

釣り自体はグローバル的にも人気のアクティビティですし、ミステンラボ側からも好評だったということもあり、「釣り★スタ」を活用した魚釣りゲームを進めることとなりました。

あとは、現在のソーシャルゲーム業界におけるゲーム作りの難しさも背景にはあります。もちろん事業ですので利益をあげることを考えないといけませんが、さまざまなゲームがありふれているなかで、売上の高いゲームを作るにはかなりの時間とコストがかかります。そこにブロックチェーンを足すとしたら難しさはさらに増します。

本間が話していたことに付随しますが、現時点ではまず遊んでもらうことがブロックチェーンゲームにおいて大事なことだと思います。

「クリプトキャッチ!釣り★スタ」に関していえば、ありがたいことにスイのバリデーションを行っていたことで収益もある程度あがっています。その収益をユーザーに充てれば、ユーザーがガスフィーを極度に気にすることなく、ブロックチェーンゲームをプレイすることができると考えたんです。

ですので、現在「クリプトキャッチ!釣り★スタ」において早期ログインユーザー向けにサポートしているガスフィーは、この収益分を使用しているということです。また、サポート及び「クリプトキャッチ!釣り★スタ」の提供は、グリーグループの100%子会社かつシンガポール法人で、実際にスイのバリデーションを行っているブラード(BLRD)が担当しています。

本間:「クリプトキャッチ!釣り★スタ」でもガスフィーがかかること、また一定量はサポートしていることをメッセージとして出してはいるのですが、初心者の方は特になかなか気にしないかもしれません。とはいえこれもブロックチェーンゲームの要素の1つですので、少しでも意識をしてもらえるような工夫をする必要があると考えています。

私もこのプロジェクトに入るまではブロックチェーンゲームにそこまで触れてこなかったのですが、始めるまでにトークンやNFTを用意する必要があるなど、やはり敷居の高さを感じました。だからこそ、なおさら「釣り★スタ」というグリーグループの代表コンテンツの1つを使う以上は複雑にしてはならないという想いもありました。

——トークンのお話もありましたが、独自トークンの発行やゲームに盛り込むという構想はあったのでしょうか?

村田:最初はゲーム開発と同時にトークンを発行していこうという考えもあったのですが、結局複雑になりすぎて開発に至らなかったんです。また新規IPの創出なども検討しましたが、やはりそこでも難しさを感じました。そうした試行錯誤がしばらく続き、現状のブロックチェーンゲームに関する課題などを考慮して今の形に落ち着きました。

あとは、トークンを発行するとどうしても投機的な動きが強まり、ゲームの面白さとの両立が難しくなるという考えもありました。もちろんトークンを出せばより高い利益をあげられる可能性もあるでしょうが、それを持続させていくのはこのビジネスならではの難しさだと思うんです。

そこで我々は持続性のあるビジネスにしたいと思い、スイのバリデータという立場も踏まえて今回のゲームモデルを採用しました。スイ上で発行されたNFTのトランザクションが増えるということは、我々のバリデーション収益が増えることにもつながります。持続性を意識した運営を行っていくという壮大な構想を持ってこのプロジェクトを運営しています。

また、「クリプトキャッチ!釣り★スタ」ではアイテム販売を行なっていませんが、これも既存のやり方ではユーザー側と運営側の利害が一致しないことがあるとの考えが根本にあります。

現状のブロックチェーンゲームですとユーザーが少ないためどうしてもアイテム価格が高くなりがちですし、それは健全じゃないと思ったんですよね。なので「アイテムは全部無料! その代わり遊んでください!」という打ち出し方をしています。ある意味ブロックチェーンゲームとしては挑戦的なプロジェクトともいえるでしょうね。

“ブロックチェーンゲームである意味”を見出す大変さ

——2024年6月20日に全世界配信を開始しましたが、リリースに至るまでに苦労した点をお聞かせください。

本間:当初はPCのブラウザ向けのみを開発していました。その頃はまだスイのウォレットアプリがリリースされていなかったからです。

しかし、開発中にそれがリリースされたことで、モバイル対応もしなければならないだろうと舵を切りました。そうした状況もありながら、6月20日のリリースに間にあわせたというのは大きな転換点でしたし、1番苦労しました。

村田:会社的にも「ブロックチェーンゲームを本当にやるのか」「儲かるのか」「今このタイミングで出す必要があるのか」といった議論もあり、その都度説明をしていきました。

しかし何よりも大変だったのは、ソーシャルゲーム開発で経験豊富な我々ですら、当初ブロックチェーンゲームへの知識や理解を持った人材が少なかったので、そこへのアプローチと説明に苦労しましたね。実際、これまでのガイドラインで利用できるものとそうじゃないものを切り分ける作業や、保守的なプランが多くなるなかでブロックチェーンゲームである意味を見出すことも大変でした。

——今後も過去にグリーグループとしてリリースしたタイトルをもとにブロックチェーンゲームを提供していく計画はあるのでしょうか?

村田:現在はまったく計画していません。ただ実際にゲームをリリースしてみて、作りやすかったなという感覚があったので、それは今後に活かせるなと思いました。グローバルでゲームを展開すると権利関係などいろいろな問題が出てきますが、自社IPだったらその点を簡単にクリアし開発に集中できるので、既存タイトルでブロックチェーンゲーム化できるのならアリだなと捉えています。

——お二人がブロックチェーンゲームとの相性が良いと考えるジャンルや要素はありますか?

村田:ブロックチェーンゲームの場合、アイテムがインターオペラビリティを持つという点が面白いと思っています。

今までのソーシャルゲームでしたらアイテムを買ったとしても運営がクローズした場合、そのアイテムは実質取り上げられてしまいアクセスすることができませんでした。これはユーザーフレンドリーではないですよね。アイテムをNFTにできるという点はブロックチェーンならではの可能性が込められた部分だと思いますので、今後トレンドや軸になると感じています。

また、トークンを上場させる上でゲーム自体がアローリスト(優先購入券)になっていることもあります。たとえば「ハムスターコンバット(Hamster Kombat)」はその一例で、私もプレイしていますが、これは雛形の1つになると感じましたね。

本間:ハムスターコンバットもそうですが、ペットシュミレーターのような、プレイしてコインを貯めていって、ガチャを回してペットを強くしていくみたいなゲームがシンプルかつずっと遊んでもらいやすいですし、トークンにも絡めやすいなと思います。ハードなゲームよりもカジュアル寄りのブロックチェーンゲームが今後増えていくのかなと感じています。

——ソーシャルゲームを手がける大手企業グリーグループとして、ブロックチェーンゲームに取り組む意義についてお聞かせください。

村田:グリーグループが会社として大きく飛躍したのは、モバイルが普及しテクノロジーがあたらしくなったタイミングでソーシャルゲームの世界に飛び込むことができたからです。ブロックチェーンが今後どのように普及していくのかはわかりませんが、同様に飛び込んで評価することには意義があることだと思います。

ブロックチェーン自体はまだ黎明期にあると思いますが、急に伸びていくタイミングで何か事業をスタートしても絶対に間に合いません。

また、現状のソーシャルゲーム業界は長い期間開発してもすぐクローズするといったことを繰り返していますし、斬新さがなくなってきていますよね。ですので、ブロックチェーン領域の市場動向を探りつつ、長い期間ユーザーが楽しめるゲームを作るというのは意義があると思います。

本間:ソーシャルゲームはキャリア決済と結びついて伸びてきた領域です。しかし、ブロックチェーンゲームはキャリア決済、ストア決済とは違う、あらたなカテゴリのプラットフォームとして、トークンと紐付いた決済方法を提供することが可能となります。

村田も話したように、ブロックチェーンが本当に普及したタイミングで始めても遅いので、グリーグループとしても少しずつ対応できるようにしておかなければならないという意識があります。

——今後の展望をお聞かせください。

本間:まずは「クリプトキャッチ!釣り★スタ」を多くの人に遊んでいただきたいですね。ある程度の規模になった時にはブロックチェーンゲームの開発にさらに舵を切っていく可能性もあります。これまでブロックチェーンゲームに触れてこなかった方々にも、ぜひ体験していただけたらうれしいです。

村田:私はゲーム領域だけでなくバリデーションを含むWeb3.0領域もみていますので、これらすべてを事業的に拡大させていきたいと考えています。

当初は売上の安定化という面で懐疑的な部分もあったバリデーションも順調です。このノウハウを活かして今後もさらにバリデータとして参加するブロックチェーンを増やしていければいいですね。そうなれば、またあたらしいゲームを作る機会も増えるでしょう。

幸いなことに、我々にはゲームの開発リソースがたくさんあります。社内にも使えるIPがまだたくさんありますから、あらたなゲームを作る機会をコンスタントに探っていきたいですね。


Profile

◉村田卓優(Takasugu Murata)

グリー株式会社 Head of web3 business development

セキュリティソフトウェアメーカーでの営業職を経て、2010年にグリーに入社。

事業開発職としてGREE Platformへ3rd partyのゲームのオンボーディングを担当。その後WFS事業開発部長として、パートナー事業を担当。ゲームアプリの海外展開及び海外ゲームのライセンスイン、事業売却、キャリアとの協業、JV設立等を担当。2017年にファンプレックス(現グリーエンターテインメント)の事業開発担当執行役員に就任。ゲーム事業、ゲーム会社のDD、M&Aを担当。2022年よりWeb3事業の事業開発責任者を務め、ブロックチェーンのバリデーション事業、投資事業、ゲーム事業を担当。

◉本間貴之(Takayuki Honma)

REALITY株式会社 Game事業グループ

2012年にグリー株式会社に入社。GREE Platform、WFS、Pokelabo等での開発・運営に携わり、豊富な経験を積む。2022年からは、メタバース事業におけるゲーム開発を担当。最先端技術を駆使し、あたらしいエンターテインメントの可能性を切り拓くことに情熱を注いでいる。

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