——大木さんがWeb3.0領域に参入したきっかけ、経緯を教えてください。
大木悠(以下、大木) :この領域には2018年に参入しました。最初は暗号資産メディア・コインテレグラフ日本版の編集者としてキャリアをスタートさせ、その後、編集長に就任しました。コインテレグラフ日本版の編集長を務めた後は、暗号資産取引所クラーケンジャパンの広報責任者、dYdX FoundationのHead of Asiaを歴任し、そして現在、ソラナのSuperteam Japanを設立し代表を務めさせていただいています。
僕はもともとヨーロッパとオランダの大学院で経済と政治を学んでいました。博士課程を目指していたものの断念し、28歳の時にテレビ東京のニューヨーク支部のディレクターに就きました。そこで米国の政治や経済、思想、マーケットに触れていくにつれ、「これをすべて活かせるのはビットコインだ」と感じたんです。それで帰国してコインテレグラフ日本版に編集者として入りました。その後、半年ほどで編集長になった形です。
——大木さんがWeb3.0領域において現在注目しているプロダクトがあればお聞かせください。
大木 :注目しているのは、正しい知識や使われ方を広めるという意味でビットコインです。ソラナのSuperteam Japanを立ち上げて感じたことは、改めてビットコインとイーサリアムの存在が重要であり、偉大だということです。裏を返すと、日本においてはこの2つがポテンシャル通りの力を発揮できていないとみています。
僕自身、ソラナはビットコインとイーサリアムに次ぐブロックチェーンであると思っています。また、プロジェクトをつくっていくにはしっかりとエンタープライズやプロジェクト、コミュニティメンバーと長期的なお付き合いをしていくことが大事だと考えています。単にグラント(助成金)をもらうだけで終わりというのではなく、持続的な取り組みをしたいんです。
ビットコインはサトシナカモトというファウンダーはいますが、その正体はわかっていません。また、ビットコインはファウンデーションもありませんよね。つまり、オーガニックでここまでの規模に成長してきたわけです。
一方、イーサリアムはファウンデーションがあり、ヴィタリック・ブテリンという創設者がいますが、長期的な教育を見据えているチェーンであると思います。
それぞれに役割はあると思うのですが、いずまだ浸透していないのかなと感じています。だからこそ、日本に本格的なブロックチェーンの波が来ていないのだと思います。
僕はあくまでもビットコインとイーサリアムは王者であるべきという考え方を持っているのですが、現時点では基本的なブロックチェーンであるこの2つを飛ばして、最初からほかのプロジェクトを使おうとする動きがあるとみています。
もちろん、ほかのブロックチェーンを使うことが悪だというわけではありません。ただ、基本を飛ばしているがゆえに基礎が固まっていない感じは否めませんね。それこそ、アプリ開発などを行う事業者から利用するブロックチェーンに関して第一声でイーサリアムが出てこないのもおかしな話だと感じています。
——大木さんはdYdX FoundationのHead of Asiaを経て、なぜソラナのSuperteam Japanに参画されたのでしょうか?
大木 :ご縁があったことと、僕自身が感じていた課題感が背景にあります。
そもそも、Superteamはファウンデーションの限界を受け止めてできた組織です。ソラナも含め、ファウンデーションは大事な組織なのですが、全能ではなく弱点もあります。その1つとして「Go to Markets(GTM)」、各国のマーケットへの展開にはあまり適していない点があげられます。
たとえば、日本でイベントを開催したいから5,000ドルの予算がほしいと希望しても、ファウンデーションに所属する数名の承認を得る必要があります。そして、だいたいどこのファウンデーションの上長も海外にいるので、「日本のことはわからないでしょ?」と感じることが多々あります。
そうなると、何を根拠に判断されているのかもわからない上に、なんのために予算の申請をしているのだろうかという話になります。意思決定が非効率で、なおかつ正しい判断もされず曖昧だったりするのが実情です。
また、ファウンデーションという組織は各国の規制遵守を目的として設立されることが多いです。そのため、組織のなかでもリーガルチームが強い立場にあり、非常に保守的です。ミスをすることなく、インフラ維持に努めますので、だからこそGTMを行う上でファウンデーションは構造的に向いていないですし、限界があるんです。
Superteamはそうしたファウンデーションの課題を解決するために生まれました。実際にさまざまなプロジェクトのファウンデーションに所属していたメンバーもいますし、同じようなことを感じ、同じような考えを持っている人が多いです。
Superteamはさまざまなスキルを持った“タレント集団” ——Superteamの役割と現在の活動についてお聞かせください。
大木 :一言でいうと、Superteamは“タレント集団”です。いろいろなスキルを持った人が集まっています。それこそ開発者であったり記事作成に長けた人、リーガル面で強い人など、さまざまなメンバーが所属しています。
Superteamはタレントを発掘し続けて、育てることを目的としています。そして、そのタレントたちを企業やプロジェクトに活用してほしいんです。たとえばソラナで開発を行いたいとなった時に、Superteamに相談してそのタレントに案件として仕事を依頼するといったイメージです。
実際にリスティングに詳しい人がいるとしたら、海外のプロジェクトが日本の暗号資産取引所に上場させたいけど日本に適した資料をつくることができない場合など、その人に仕事を依頼します。そこで発生した報酬は、仕事を請負った人が全額受け取る構造になっています。Superteamとしてはこのタレントをどんどん増やしたいですし、当然タレント自身もスキルアップし続ける必要があります。
——Superteamに入るにはどうしたらいいのでしょうか?
大木 :実際にSuperteamに入ったAJさんという方がロールモデルになると思っています。
AJさんは最初、ソラナのDiscordのコミュニティに入り普通にコミュニケーションをとっていました。その後、企業からの案件をリストアップする「Earn」というプラットフォームでAJさんが応募し、それがうまくいくと今度は貢献者を意味する「Contributor」にステップアップしたんです。Contributorは3段階あるうちのレベル2に位置する役職です。
その後も活発に活動し、コミュニティに貢献しようとする姿が非常に印象的でした。そうした活動がほかのメンバーからも認められ、レベル3に該当する「Member」になった形です。
とはいえ規定があるわけではないですし、既存メンバーの同意が必ず必要というわけではありません。一部地域では2人以上の推薦が必要などの条件がありますが、少なくとも日本のSuperteamには現在規定を設けていません。共通項として重要視するのは、いかにソラナにコミットしてくれて、どれだけソラナのことが好きでいてくれるかという部分ですね。
まずは挑戦しよう。失敗しても前進につながる。改善していこう ——ソラナの魅力や強みを教えてください。
大木 :コミュニティでいうと、リテラシーが高いことに加え、一人一人のメンバーが独立しているけれども、団結できる点です。ソラナのために、みんながまとまることができます。
また、ソラナは米国発のプロジェクトで、実践主義的なカルチャーがあります。「まずは挑戦しよう。失敗しても前進につながる。改善していこう」という考え方があり、とにかく前に進んでいくという姿勢が全面に押し出されています。
ほかのプロジェクトでは設計からしっかりと固め、どちらかといえばミスをしないことを重視する側面があります。そこには良し悪しがありますが、ソラナはシリコンバレーに影響を受けていることもあり、あまり深く籠もって考え過ぎずに手を動かしていこうという米国ならではのマインドが強いです。
マインドというと日本も面白くて、二面性がはっきりとしていると思います。具体的には、保守的な人と、ほかにはない考え方を持った革新的・クレイジーな人の2種類にわけられると思っています。特に僕は革新的・クレイジーな方々のエネルギーは重要で、日本のためになると感じていますね。
——ソラナの機能的な部分ではいかがでしょうか?
大木 :ネットワークが早くて手数料が安いというのはもちろんですが、これが開発にも活きています。なぜかというと、開発時に本番環境でいきなり実装しやすくなるんです。
どういうことかというと、仮に失敗したとしてもソラナではコストが安く収まります。ほかのチェーンだと、手数料などの兼ね合いもありテスト環境で試してからメインネットで実装というフローだと思うのですが、それだと時間がかかってしまいます。この機能的な優位性がソラナの「まずはやってみる」というマインドにもつながっているのだと感じますね。
また、ソラナはプロダクトを重視します。暗号資産はまだアーリーアダプターの段階で、プロダクトが普及していないとの指摘もありますが、そんなことをいっている状況をいつまで続けるんだという想いを僕自身も抱いています。今すぐ使えるものを作ろう、とにかくやってみないことには始まらないよ、ということを多くの人に伝えたいですね。
——ソラナの技術を活用した日本だからこそマッチすると考えるユースケースについてお考えをお聞かせください。
大木 :まずはきちんとリサーチをしたいと思います。日本のエンタープライズ、プロジェクトからヒアリングをして、どういう課題をブロックチェーンで解決したいのかを聞くところから始めます。その過程で見極めていきたいと考えています。
直感的にいえば、日本はFX文化も影響しトレード分野が強いと感じています。あとは最近、ブロックチェーンを活用して現実世界のインフラを効率化・改善する「DePIN」に関する問い合わせが非常に多いです。
たとえば、専用車載カメラを使用して最新のマッピングデータを収集し提供することで報酬をもらう「Hivemapper(ハイブマッパー)」というソラナのDePINプロジェクトがありますが、これは日本人にマッチしそうな気がしています。きちんと仕事をして、対価をもらう要素が日本人好みだと思いますね。
——ソラナを日本で普及させる上で障壁になっていると現時点で感じる部分があれば教えてください。
大木 :障壁は正直たくさんあります。それは税制を含む規制もそうですし、ブロックチェーンの長期的価値を見出してプロジェクトを作れていないという部分もそうでしょう。現状、やはり短期目的でリリースされているプロダクトが多い気がします。
あとは、2018年に日本で発生した暗号資産の不正流出による影響は非常に大きいと思います。それにより暗号資産に対する印象が悪くなり、時が止まってしまっていると感じています。不正流出が起きる前、いわゆるバブル時代には社会全体がブロックチェーンや暗号資産を推そうとしていた雰囲気はあったのですが、今ではあまりそれが感じにくいですよね。
また、言語の壁は非常に高く、とても厚いです。僕個人の考えとしては、日本でいきなり起業するのではなく、まずは海外のプロジェクトに入るのが良いと思います。そこでしっかりとコミュニケーションをとって信頼を得ていくことが重要です。コミュニケーションをとったことで得た人脈は、日本での起業にも大いに役立つことでしょう。
コミュニケーションをとれないと、いくら日本で良いプロダクトを作ってもそのすばらしさを世界に伝えられません。Web3.0領域に限った話ではありませんが、世界とのコミュニケーションが図れないことに対して日本人は危機感を抱く必要があるでしょう。
逆にいえば、暗号資産の税制とコミュニケーション能力を除くと、日本はWeb3.0発展の場として最高の地であるという認識を世界中のプレイヤーが感じていると思います。
暗号資産のマスアダプションに向け真摯に取り組む ——最後にソラナというプロジェクトがどのような未来をゴールとして見据えているのか、またSuperteam Japanとしての今後の目標について教えてください。
大木 :ソラナは暗号資産のマスアダプションに真摯に取り組んでいます。ジャンルにとらわれることなく、まずは良いものを作って動いていこうという想いがあります。そのため、ソラナでは「クリプトを日常に」というスローガンを掲げています。
Superteam Japanとしては、グローバルハッカソンが9月にあるので、そこで日本チームの存在感を高めたいと思います。そのために、8月17日から27日の10日間で「Super Tokyo」というイベントを開催します。
内1日はカンファレンスを行い、その後は「スタートアップビレッジ」という名称でワークショップを開催する予定です。それをもってして優秀なタレントを集めてチーム・ジャパンを構成し、グローバルハッカソンに臨みたいと思います。
チームの存在感が高まればもっと世界で日本の認知も高まりますし、活動の幅も広がると思いますので、注力して取り組んでいきます。
Profile ◉大木 悠(Hisashi Oki)
Superteam Japan Lead
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務。日本へ帰国後、コインテレグラフ・ジャパンの編集長を務めたほか、2022年12月に取引所クラーケンの日本法人の広報責任者に就任。dYdX FoundationのHead of Asiaを経て、2024年5月よりソラナの日本コミュニティ「Superteam Japan」のLeadに就任。