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メタバース
Web3.0

佐々木俊尚が考える「Web3とAIの未来」

村上 弘樹
2023/03/29

「Web3」でビッグ・テックの支配から脱却に到るとは限らない—

スマートフォンを中心とした検索やSNSが1つの完成へと近づき、あらたなビジネスモデルが求められている時代。

フリージャーナリストとして活躍し、「Web3とメタバースは人間を自由にするか」等、数々の著書を手がける佐々木俊尚氏に、Web3.0に対する考え、そして今後の展望について話を聞いた。


——佐々木さんの考えるWeb3・Web3.0の概念とは?

佐々木:去年の暮に出した『Web3とメタバースは人間を自由にするか』でも書いたのですが、『中央集権』と『非中央集権』という話があります。

もともと、インターネットが始まったのが1995年くらいからですよね。それでもはや30年近くが経過しているんですけど、途中で大きなパラダイム・シフト、転換点が2006、7年頃にありました。この頃に『Web2.0』という言葉が出てきたんです。

では、それまでの『Web1.0』とは何だったのか。結局、インターネットが出現したといっても、その双方向性が突然生まれたわけではなかったんです。要するに古い、初期のインターネットにおいては、個人が誰でも自由に発信できるという状況でもなかった。

自分でホームページを作ることはできましたが、それはそれなりのスキルが必要で、そういう状況にSNSやブログサービスが登場し、誰でも発信が簡単に、自由にできるようになった。そういう意味で『Web2.0』という言葉を使っていたと思います。

それまでのインターネットがなかった時代は、テレビや新聞が情報を独占していた、中央集権的な時代であったのに対し、『Web2.0』の時代は情報が自由かつオープンに使える、非中央集権的な時代になった。

良かったよね、と当時はいわれていたけれども、その自由な非中央集権的な時代が永遠に続くかと思ったらそんなことはなかった。

2010年代後半ぐらいから、そのSNSやブログなどのプラットフォーム、いわゆる『ビッグ・テック』日本では『GAFAM』などといわれる企業の力が強くなって、再び中央集権化が進んでしまった。

そしてその背景にはもう1つ、AIの普及があるわけです。AI がすごい勢いで進化して『深層学習』という能力を身に着けたことで、『最適化』という名の大企業のコントロール力をさらに強める形になった。

あまりに中央集権化が進みすぎたせいで、今のビッグ・テックに対しては『監視資本主義』だという批判も起きています。

そうした状況のなかで、ちょうど『ブロックチェーン』という技術があらわれました。このブロックチェーンというのは、誰も情報を独占するわけではなく、あらゆる所に情報が点在し、それをみんなで共有する、そういう仕組みなわけです。

このブロックチェーンを使えば、ビッグ・テックの完全な支配のようなものから脱却できるのではないか、あらたな非中央集権的な世界が作れるのではないか、という所で盛り上がってきたのが『Web3』なのだと思います。

これが一般的な理解だと思いますが、個人的にはブロックチェーンで完全に非中央集権的な世界ができるか、という点に関しては疑問符をつけています。

ブロックチェーンといっても、誰もが平等になるわけではなく、たとえばビットコインにしても取引所となる巨大企業が必要なわけですよね。

そうするとその取引所の企業がどんどん巨大化していくのは間違いないわけですから、その企業が次のビッグ・テックになる。結局、中央集権化はなくならないのではないか、というのが僕の個人的な認識です。


「AIと対話」で思考力や分析力を高め、人間の「知」はあらたな段階へ

——『ジェネレーティブAI』についてはどのように捉えていますか?

佐々木:ジェネレーティブAIは去年の後半ぐらいから急激な盛り上がりをみせていますね。最初は画像生成AI、そして年明けぐらいから『ChatGPT』を筆頭にした対話型AIも出てきました。

能力としては素晴らしいのですが、問題点を先にいっておくと、たとえば画像生成AIに関しては著作権の問題が浮上しています。一方の対話型AIに関しては、インターネットから大量の情報をクロールして集めてくるなかに、フェイクニュースやヘイト・差別系の情報も存在している。

ChatGPTを作っている米国のNPO『OpenAI』はとても慎重にやっていて、そうした情報を排除していますが、それでも怪しい情報は混ざり込んでしまう。

だから百科事典的に使うのはいろいろと危険であり、実際に問題も起きています。

では、そういう話を一旦置いておき、今後どのような活用方法があるかというと、画像生成AIに関しては、未来はわかりませんが今のところ、テキストで文章を入れて指示を出し、絵を作らせるわけです。

『ゴッホが描いた渋谷駅前の絵』のようにテキストで指示を出す。

この文章入力を英語で『プロンプト』といいますが、これまでクリエイティブディレクターやデザイナーが、ラフスケッチや絵コンテなどでイラストレーターに指示を出すということが、文章に置き換わる。

そうすると『的確に良い文章を与えられる人』、プロンプトエンジニアのような人が能力を持つ人が求められます。これは対話型AIでも同様で、どういう質問形式、テキストにするかで答えの正確さや膨らみが大きく変わってくるわけです。

ChatGPTに関しては少し前に、米国のニューヨーク市が学校組織のオンライン端末及びインターネットでのChatGPTへのアクセスを禁止しました。

宿題でも小論文でもChatGPTが書いてくれるので禁止、という話なんですが、これは実は検索エンジンが出てきた時にも同じようなことをいわれていたわけです。

『何でも検索で答えをみつけてしまう』ということです。しかし検索エンジンが登場してから20数年経った現在だと、それは大した話ではないとわかります。

膨大な手間がなくなり、家のパソコンで下調べが済むことが多くなった。前段の知識を検索エンジンで調べておくことにより、空いた時間を深い分析や考察に使える、『知の階段』を1つのぼりやすくなったという点はすごく大きいわけです。

これはChatGPTにも同じことがいえて、聞いて答えてくれたことを材料にして、さらに1つ深いことを考える。AIと対話することで自分の考えを整理したり、または自分の気づかなかった視点を見出して思考力や分析力を高めていくことができます。

そのような使い方ができる人にとっては、対話型AIは人類の知を前に進める有効なツールになるし、より人間的な、AIに仕事を奪われない仕事につなげていけるのではと思います。


「生活に必要」にならなければ、メタバースの普及はない。


カギを握るのは「ARグラス」か

——『メタバース』の実用的な可能性をどのように考えていますか?

佐々木:メタバースに関しては10年程前に『セカンドライフ』というのが一瞬だけ流行ったことがありました。

今のところ、セカンドライフの時代から大きく進化したのはヘッドマウントディスプレイが普及したことですが、ではそれ以上の可能性は何なのか、という点はあまり議論されていませんね。

現在流行っているのは『VRチャット』で、メタバース空間内で、アバターをまとった人同士が喋り合うというようなものですが、これも所詮はエンタメに過ぎないわけです。

一方で技術としてはどんどん進化していて、おそらく1番大きなターニングポイントになるのは、今年中にAppleがVR(Virtual Reality)ではなくAR(Augmented Reality)のグラスを出すといわれていることですね。

いわゆるヘッドマウントディスプレイではなく、透過型で向こう側の現実の景色がみえるタイプの物です。どうしてその方向に進むかというと、ヘッドマウントディスプレイのVRだと生活ができないからです。

当たり前ですがヘッドマウントディスプレイを装着したままだと、飲食も難しいし生活シーンには入り難い。スマートフォンがこれだけ普及したのも、生活になくてはならない物になったからです。

地図を見る、メッセージを送る、のように生活に必要な物にならないと個人的にはメタバースもさらなる普及はしないと思っています。

そう考えると『ARグラス』が広まるというのが、その第1歩になるんじゃないか。FacebookのMeta社が出しているOculusシリーズも、次に出るのは完全透過型ではないかともいわれています。

実際、マーク・ザッカーバーグも『メタバースの本命はARだ』と言及しているんですよね。

ARは『HolyGrail(聖杯)』だと。要するにARで成功することがメタバースを支配することになるんだといっているわけです。

ではその時に何ができるかというと、もう1つの技術の方向性として、現在のようなアバターではなく、自分の顔や身体をそのままメタバース空間に投影する技術が段々とできあがっている。

たとえば自分自身をiPhoneで撮影すると、自分の実像に近い姿がメタバース空間にあらわれる。そしてなおかつ、ARグラスをかけたまま生活できるとなると、実際にどこかの会議室や応接室で人と会っているように、よりリアルにオンラインミーティングができるようにもなる。


「距離と移動」「都市と地方」の概念は今後大きく変わる

——Web3.0において注目している技術や分野は?

佐々木:この技術が、というよりは、自動運転とメタバースの両方が、『距離と移動』の概念を変えるのではないか、という点には注目してます。

メタバースで人と人がオンラインで会うということが、よりリアルに近づく、そして同時に、自動運転が普及することでリアルに会うための移動がずっと楽になる。

たとえば今のタクシーは高額ですが、イーロン・マスクはしばらく前から、自動運転が普及していけば、無人タクシーはバスや電車と同じ値段になるといっています。

今は我々が苦労してさまざまな場所を転々と移動してるけれど、今後はテクノロジーの変化が移動そのものを民主化して楽にしてくれる可能性は、とても大きいのではないかと思います。

そうすれば距離と移動の概念が大きく変わり、『都市と地方』の関係も必然的に変わってくる。メタバースでリアルに近い会議や雑談ができ、自動運転で寝ていればどこにでも行けるとなれば、地方にいるデメリットはよりなくなっていくのではないかと思います。

——今後Web3.0の世界で日本初のプラットフォームが登場、浸透することはありえますか?

佐々木:今現在もそうですし、今後もプラットフォームビジネスというのは、AIとデータの話なんですね。DXがまさにそうで、AIとデータによってビジネスモデルを作りましょう、という話になっている。

ところが日本企業はこれまでデータをしっかり集めてこなかったし、AIにも向き合ってこなかったという現状があります。AIに関しては今の世界の最先端はOpenAIやGoogleの米国ですが、次は中国だといわれていて、AIに関する論文数も中国が突出して多いんです。

この数年、米国はFacebookの情報漏えい事件などがあったせいでプライバシーに厳しくなっています。EUはもっと厳しく、日本も厳しい。

プライバシーに厳しい国ではAIは進化し難いんです。それは当然のことです。データが取れないから。一方で中国は政府から率先してプライバシーを気にしない国なので、データをいくらでも使える。そう考えると中国のポテンシャルは非常に大きく、日本はそれもできないので厳しいかな、という話になります。

ただ、AIのテクノロジーに関しては『どこかの1企業が完全に独占するのは良くない』と世界中でいわれているんです。

たとえばどこかの巨大ヘッジファンドが、自分だけが持っている超優秀なAIを駆使して投資や金融ビジネスをやり始めたら、完全な1人勝ちになってしまう。

だからAI研究者の間では、なるべくAIに関するさまざまなテクノロジーは公開していきましょう、という方向性になっています。そうしたテクノロジーを活用して、日本のスタートアップ企業などが、あたらしいAIを活用したプラットフォームビジネスを起こせる可能性もある。

実際に自動運転の分野などでは、将棋のAIを作った山本一成さんが振興スタートアップ自動車メーカーを作ったりしています。ですからそういう可能性はゼロではない。

特に今は、ちょうどパラダイム・シフトというかチェンジの時代ではあるわけなんです。従来のスマートフォン中心だったGoogle検索やSNSが一旦完成に近づいていて、次のあたらしいビジネスモデルを作らなければいけない時代になってきている。

さまざまな変化のなかで、あたらしいビジネスモデルを作れる会社が勝つ。そういう時代が今後、数年内にやってくると予測されているので、チャンスではあるんです。

でもそれが多分できるのは、おそらく若い人のスタートアップです。今さらそれを、旧来の日本の大企業ができるということはないんじゃないかと思います。



Book Review


書籍からネットニュース、SNSなど、現代に散らばる「断片的な知識・情報」を「本物の思考力」「新しい発想力」につなげるためのメソッドに溢れた一冊。
スマホ時代の「気が散る」世の中に必要な、「読む力」そして「考える力」「書く力」「アイディアの技術」などの最新スキルが身に付くあらたな時代の座右の書。
巻頭カラー20Pでは「2000冊の仕事場の書棚」「iPhoneアプリ全一覧」までも写真で公開。



Web2.0の時代にインターネットは「集権化」から「非集権化」へと変化を遂げたかに思えた。
しかしながら、その後にあらわれた「ビッグ・テック」「GAFAM」の台頭により、時代は再び集権化への道へと進む。
ブロックチェーンを始めとする「Web3」は、ビッグテックへの隷従から脱するカギとなるのか。
NFTやトークンエコノミー、メタバースは時代をどう変えるのかを問いかける現代の必読書。



Profile

佐々木俊尚
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。



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