世界中の企業が次々と「メタバース」と名乗るプロジェクトを立ち上げているが、その実態はほぼプレイヤーがいない閑散としたデジタル空間になっている。そんなものを作るよりも、すでに多くのプレイヤーを抱えているオンラインゲームを”メタバース化”した方が流行るのでは?
というわけで、ゲーム・Web3.0に詳しいライターA氏と、ゲーム開発者B氏に、「MMORPGをメタバース化するとしたら」というテーマで語り合ってもらった。
現在メタバースだといわれている多くのプロジェクトは、実際にログインしてみるとまったく人がいない
A氏:今回はオンラインゲームの開発に携わっている方をお呼びして、メタバースを実際に作るとしたらどうする?というテーマで話し合おうという企画です。
B氏:よろしくお願いします。
A氏:『メタバース』という言葉は本当にいろいろな意味で使われていますが、共通項としては『たくさんの人がオンラインの3Dデジタル空間上で何かをする場所』といえます。
ただ、そもそも何をやるのか、なぜ集まるのかという目的がなければ、メタバースに人は集まらないしその空間にも意味がないというのが現実です。現在メタバースだといわれている多くのプロジェクトは、実際にログインしてみるとまったく人がいないんですよ。
最先端技術だとか、Facebookが本気で取り組んでるとかいわれても、それは人が集まる理由にはならないんですよね。
過疎るメタバースはもういらない
ゲームをメタバース化したほうが早い!
B氏:何をやるのかわからない閑散としたデジタル空間に、人々が集まる理由を与えられるとしたらやはりゲームでしょうね。実際、メタバースとは名乗っていなくても、Aさんがあげたような特徴を備えているオンラインゲームは大量にあります。
これからあたらしいメタバースを作るのであれば、まずはゲームで集客するのが手段として有効だと思います。
A氏:多くの人がプレイしているMMORPGといえば『ファイナルファンタジー14』や『どうぶつの森』などがあります。また、最近ではスマートフォンゲームでもメタバース的なMMORPGがいくつも売上ランキング上位に名を連ねてますね。
もちろんこれらのゲームには暗号資産やNFTといった要素はありませんが、今回はこういったゲームに暗号資産やNFTという要素を追加するとしたら、どういうことができるかについて話してみましょう。つまり、『オンラインゲームをWeb3.0的メタバースにするとしたら』という企画になります。
B氏:わかりました。ゲームの企画をする時には、既存のヒットタイトルをベースにして考えることがあります。なので、今回はPCとスマートフォンのどちらでもプレイできる『アルビオン・オンライン』というゲームにWeb3.0っぽい要素を追加するという形で考えてみましょう。
A氏:アルビオン・オンラインはどういうゲームなんですか?
B氏:武器やアイテム、PvP(プレイヤーが1対1で対戦する要素)やPvE(多人数のプレイヤーがコンピュータの敵と対戦する要素)などがあるオーソドックスなタイプのMMORPGです。いわゆるクエストと呼ばれるような仕組みがほとんど存在せず、すべての行動をユーザーが選べる自由度の高さがウリです。
このゲームは、ゲーム内で市場経済が成り立っているという特徴があるのでメタバー ス化しやすいように思えます。
A氏:ゲーム内の市場経済というのはどういうことですか?
B氏:アルビオン・オンラインのゲーム内には市場があって、そこでほかのプレイヤーとアイテムを売買できるようになっているんです。
普通のRPGだと、たとえば『鉄の剣』を武器屋に売却した場合の価格は固定で、売却相手はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)ですよね? ところが、このゲームではそれぞれのアイテムをほかのプレイヤーに売却できて、価格は需要によって変化します。
また、すでに誰かが出品しているアイテムを購入するだけではなく、『このアイテムが〇〇ゴールド以下で出品されたら購入する』なんてこともできます。
A氏:板取引みたいなことができるんですね。
B氏:ちなみに装備品やアイテムも、ほとんどすべてがユーザーによって製造されています。プレイヤーはモンスターを倒したり木を切ったりして資源を集めてアイテムを作り、それを売却してシルバーというゲーム内通貨を獲得するんです。
NFT化することでアイテムの希少性を演出し、ユーザーからの需要を生み出す
A氏:NFTではないですが、アイテムの売買が当然のように行われているゲームなんですね。Web3.0的なメタバースにする場合はまず『何をNFT化するか』というのがポイントになりそうです。なので、NFT化できそうな要素について教えてください。
B氏:ではアルビオン・オンラインの世界に存在する要素を洗い出しておきましょう。まずはプレイヤーのアバターがあり、見た目を変えるための服という要素があります。また、武器や防具といった装備品、アイテムを持ち歩いたり保管するためのバッグもあります。
ほかには消耗品として体力回復などをするためのポーションや、料理も大量に用意されていますね。馬や牛など、移動する時に乗る騎獣という要素もあります。
A氏:結構いろんな要素がありますね。すべてをNFT化するのは、無駄にガス代がかかったりNFT化の手間がかかったりするので避けた方がいい気がします。ちなみに、それらのなかでいわゆる課金要素にあたるのはどれですか?
B氏:課金して直接購入できるものは、経験値上昇率アップなどの恩恵がある『定期プレミアム』といわゆる課金通貨にあたる『ゴールド』ですね。さらに、ゴールドで購入できるのは今いった定期プレミアムと見た目を変更するためのスキンだけです。ただし、ゴールドはゲーム内通貨であるシルバーに交換できます。
先程紹介した市場での取引はすべてシルバーで行われているので、実質的にはすべてのアイテムを課金によって購入できるということになっています。何をNFT化するのかという点は難しいですが、よりレアなアイテムに『NFT化できる』とか『NFTである』といった付加価値をつけるような使い方がいいと思います。
オンラインゲームではレアな武器を持っている人をみて、『羨ましい』とか『自分も欲しい』と思ってもらうことがプレイヤーへの動機付けになります。そのための『羨ましがられる要素』としてNFTの仕組みを使うんです。
A氏:なるほど。NFTアイテムは最上位レアリティみたいな扱いになるんですね。ちなみに、Web3.0のメタバースプロジェクトでは土地をNFTとして販売することがあります。アルビオン・オンラインには土地という概念はありますか?
B氏:個人やギルドで固有の島を購入して、好きなものを建てたり農業をしたりできます。もちろん島はゲーム内通貨で購入できますが、たとえば特殊な物質が算出される島をNFTとして販売すれば、多くのユーザーが買おうと思うでしょうね。
リアルなお金を稼げる要素は、ゲーム的な楽しさを損なうものではないか?
A氏:基本的には、希少なモノをNFT化するという方向で考えていくのが良さそうですね。では、暗号資産をゲームに取り入れるとしたらどういう方法があるでしょうか?
B氏:課金通貨であるゴールドを暗号資産にするのが自然でしょうね。アルビオン・オンラインではゴールドとゲーム内通貨シルバーの換算レートが決まっているのですが、これも需要と供給に応じて変動する仕組みになっています。
暗号資産であるゴールドの価格にあわせてシルバーとの換金レートを変えるような仕組みを導入できれば、ゲーム内経済を壊さずに済みそうです。
面白い点としては、ゴールドを払ってシルバーを獲得するだけではなく、シルバーをゴールドにも変換できるという点です。なので我慢強い方なら無課金でもシルバーをためてゴールドに変換し、定期プレミアムを購入できます。まあ、ものすごく時間がかかるので非常に非効率ではありますが。
A氏:なるほど。たとえばゴールドを暗号資産にすれば、それを外部の取引所で売買できるようにして、無課金でも最終的にはお金を稼げるという仕組みが作れますね。メタバースというよりもブロックチェーンゲーム的な発想ではありますが、『Play to Earn』と呼ばれる仕組みがそれにあたります。
B氏:ええ。ただし、お金を稼げる仕組みについては、ゲーム開発者としてはかなり疑問があります。ブロックチェーンゲームに関しては『ゲームをプレイしてお金を稼げるなんてすばらしい』みたいな声をよく聞きますが、それって本当にすばらしいことなんですかね?
A氏:どういうことですか?
B氏:リアルなお金を稼げるという要素は、ゲーム的な楽しさを損なうものだと思うんです。一般的なゲームの場合、たとえば強力なボスを仲間と力を合わせて倒した時に大きな達成感を得られます。そしてボスを倒した報酬としてレアな武器が手に入ったりしますよね。
本来、ゲームの面白さというのはこの達成感なんですよ。ところが、ゲーム内資産を換金できる場合は『ボスを倒して手に入れたこのアイテムはいくらで売れるのか』という面が重視されてしまうと思うんですよね。
クリアしたという達成感よりも、とにかく金額の多寡が喜びに直結してしまう気がします。ゲーム開発者としては、暗号資産やNFTという要素があるのは構いませんが、その存在理由が『お金に換えられるから』だけではプレイヤーを集められないと思います。
A氏:たしかに、『お金を稼げる』ことばかりをアピールしているようなブロックチェーンゲームは、 すべて短命で終わっています。継続的にプレイヤーを集めるようなメタバースであるためには、むしろ『稼げる』要素はないほうがいいのかもしれませんね。
B氏:たとえば長年プレイ してくれたユーザーが引退する時に、自分が集めた貴重なNFTアイテムをほかの人に譲って、ほんの少しだけお金を手に入れられるという程度のものでしたら、問題ないと思います。少なくとも『10日プレイすれば時給千円くらい稼げる』というような、ブロックチェーンゲームでありがちな収益計算のようなものが成り立たないようにしたいですね。
お金に換えられる ことは副次的な要素であって、基本的には『お金を払ってでも欲しいモノ・手に入れたいモノ』がゲーム内にあり、 そのためにプレイヤーは喜んでお金を払うというくらいのモチベーションがないと、長期的運営は厳しいと感じます。
ゲームの中だけで考えるのではなくて、ゲーム外までを含めたビジネスとして、NFTや暗号資産を活用する
A氏:ここまで聞いていて、もしかするとMMORPGにNFT や暗号資産という要素を追加することに、あまり大きな意味はないのではないかと思えてきました。NFTや暗号資産がなくてもゲーム内の市場経済は成り立っていますし。
B氏:人によって意見がわかれるところだと思いますが、今のところゲーム内だけをみれば導入するメリットはそれほど多くはないと感じます。
MMORPGというジャンル はすでに成熟していて、システムとしては完成形に近いからです。ただし、ゲーム外の部分ではNFTや暗号資産を 導入することでメリットが生まれる可能性は十分にありそうです。
A氏:ゲーム外というと?
B氏:少し生々しい話になってしまいますが、『メタバース』 や『暗号資産』、『NFT』といったキーワードは、それだけでも大きなプロモーション効果があります。
ゲームは次から次へと生まれていますから、少しでもほかのタイトルと差別化するという意味で、これらの要素を導入することは無駄ではありません。また、暗号資産やNFTは開発資金の調達に使えるという側面がありますよね。
近年ではゲーム開発のためのクラウドファンディングもよく行われていますが、暗号資産やNFTのセールがクラウドファンディングに代わるものとして普及する可能性は十分にありそうです。この点は、特に潤沢な資金を用意することが難しい企業にとっては魅力でしょう。
A氏:Web3.0の発明の1つは、誰もが自由にトークン(暗号資産・NFT)を発行して資金調達できるという点であるともいわれています。それを活かして、ゲーム開発のための資金調達をするということですね」
B氏:そのほかにも、複数のゲーム間でNFTを移動するといった使い方も想定できます。たとえばある大手ゲーム企業が、自社サービスすべてで共通して使えるアイテムをNFT化することで、プレイヤーを囲い込むような施策ができるようになるかもしれません。
暗号資産やNFTを導入するメリットは
これから発明しないといけない
A氏:ゲームのなかだけで考えるのではなくて、ゲーム外までを含めたビジネスとして、NFTや暗号資産を活用するということですね。
B氏:今のところはそれが現実的かなと思います。ただし、 これはあくまで現在のMMORPGをベースに考えた場合なので、今後NFTを活用したあたらしい発明が生まれる可能性は大いにあるでしょうね。
たとえばユーザーが独自にNFTアイテムを作って、その流通量をコントロールするといったように、NFTを使っているからこそできるあらたな遊びが生まれるかもしれません。
Profile
◉A氏
元ゲーム会社勤務のゲームライター。Web3.0業界やブロックチェーンゲーム・メタバースに関心をもって動向を追っているが、従来のゲームと比べて魅力的ではないと感じている。
◉B氏
某大手ゲーム企業のディレクター・プランナー。MMORPGの開発・運営に長期間携わっている。
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