米上院銀行委員会のシンシア・ルミス(Cynthia Lummis)米上院議員と下院金融委員会デジタル資産小委員会委員長のフレンチ・ヒル(French Hill)下院議員は26日、米司法長官と司法省、そして米軍のガーランド将軍に対して、暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)とテザー(Tether)社を調査するよう要請する書簡を提出した。
背景にはイスラエルとガザ地区を拠点とする過激組織ハマスとの紛争がある。議員らはバイナンスとテザーが、ハマスの資金集めを手助けしたとして、両社を調査することを強く求めている。
上院議員の書簡によると、10月7日に紛争が勃発して以来、イスラエルの法執行当局がハマスの暗号資産ウォレットを閉鎖することを命じたが、そのほとんどがバイナンスの口座だったという。また、イスラエルの法執行機関は2021年から2023年の間にイスラムテロに関する190以上の口座を凍結したが、すべてバイナンスの口座であったとしている。
議員らはハマスやほかのテロ組織がバイナンスの口座を利用しているという事実は、同取引所がテロ組織を物質的に支持しているという可能性が高く、これは刑事罰に匹敵するものだと主張している。
また、ステーブルコイン・USDTを発行するテザーに対しても同様の懸念があるという。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、テザー社の32の口座が凍結されたが、それはイスラエルとウクライナのハマスとロシア関連団体が管理するものであったという。
こうした事柄を踏まえ、バイナンスとテザーはテロ組織に利用されていることを認識しているのにも関わらず、顧客デューデリジェンスと審査を実施しないことで、適用すべき米制裁法と銀行法違反を故意に行っているとして、これらの行為により両社は罰金を受けるべきだとしている。
議員らの主張に対し、ブロックチェーン分析企業エリプティック(Elliptic)社は、資金の一部を追跡したところ10月7日以降に寄付された暗号資産は僅か2万1,000ドル(約315万円)に過ぎず、暗号資産企業や研究者の努力により多くの口座が凍結され、ガザ地区のテロ組織が使用することができなくなっていると指摘した。
また、ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)も、8,200万ドル(約123億円)相当の暗号資産のうち、ごく一部がテロ活動に使われているが大部分は無関係であると指摘。クリプト・エイド・イスラエルが暗号資産で18万5,000ドル(約28億円)を集めたり、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が暗号資産で寄付を集めたりするなど、暗号資産は人道的目的のための募金活動に使われていると主張している。
なお議員らは、今回の要請は暗号資産そのものに反対するものではないとして、暗号資産と分散型台帳のテクノロジーは米国の金融市場においてイノベーションをもたらす可能性があるものの、少数の悪意ある暗号資産業者が悪用していると述べている。
また、チェイナリシスの意見も参照しつつ、「それでもバイナンスらが違法行為を助長した行為が判明した場合には、司法省がその責任を追及することが不可欠だ」と強調した。
参考:書簡
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