
バイナンスの新CEOにはリチャード・テン氏が就いた。テン氏はこれまでバイナンスにおける地域市場部門グローバル責任者として指揮をとってきた人物で、アブダビ・グローバル・マーケット (ADGM) の金融サービス規制当局におけるCEOを務めるなど、30年以上にわたる金融業界でのキャリアを有する。
テン氏を抜擢した背景には、米国以外でも課題を抱える規制面でのコミュニケーションを円滑に進める狙いが透ける。また、そうした規制当局に対し規制を遵守する姿勢を打ち出す目的もあるだろう。
一方で、実務者としての実績はあるかもしれないが、CZ氏が築き上げてきた「業界の顔」としてのポジションも担うには役者不足感が否めないのも事実。まだ就任から間もなく、ここから露出の機会が増えれば見方にも変化が生じるかもしれないが、現時点ではバイナンスのブランドイメージを背負って立つほどのビジョンはみえてこない。
そうなると関心が高まるのは、CZ氏が退いたことにより空いた業界の玉座に座る次なる人物だ。
CZ氏という絶対的支柱がなくなった今、今後バイナンス内での権力争い、勢力図にも変化が訪れる可能性はある。しかし、CZ氏の存在感があまりにも大きすぎたゆえ、バイナンスには「ポストCZ」を育てる時間はそう多くなかったはず。そう考えると、席を確保する人物を探すにはまず外部に目を向けるべきだろう。
客観的な視点に私見も交えれば、現時点でコインベースのCEOであるアームストロング氏は最も業界の顔として存在感を放っていく可能性が高い人物の一人であるといえる。
CZ氏を中心に築いた時代が、暗号資産の存在を世に広め、イノベーションの構築段階であったとするならば、次に訪れるのは「規制に完全準拠した時代」だと考える。
これまでもそうだったかもしれないが、明確に顧客保護へ焦点が当てられ、規制遵守を求められるようになったのはたった数年前からの話だ。そうなると、すでに規制に準拠したサービスを手がけ、規制の明確性を強く求めているアームストロング氏は、これから訪れる時代にマッチし、これまで以上に重要な旗振り役となる可能性が高い。
ただ、業界の移り変わりは非常に早い。もしかしたら、現在議論しているポストCZは、とっくに過去の人物となっている可能性もある。あるいは、これから新進気鋭の起業家があらわれ、すぐさま玉座を手中に収めるかもしれない。これも動きが非常に早い暗号資産業界だからこそ起こりうると考えられる事象だろう。