スタートアップ支援の強化 本カンファレンスの冒頭、開会の挨拶では長谷部健渋谷区長が、「今後、拠点を渋谷に置くスタートアップ支援に力を入れていく。
これは国内外の事業者問わず行い、ビザの発行、住居住まいの提供、投資家に対するビザも発行するなど、積極的に取り組んでいく」と力強く語った。
もし自分が今25歳だったら、何をするか—— 最初のセッションでは、本カンファレンスを主催するX&KSKのGeneral Partner・本田圭佑氏とサイバーエージェント代表執行役員の藤田晋氏が「もし自分が今25歳だったら、何をするか?」をテーマにセッションを行った。
サッカー元日本代表で、実業家としても知られる本田氏は、事業投資においても特出した成果をあげている。
2016年に「KSKエンジェルファンド」を立ち上げ、マーケティング支援のエニーマインドグループ、クラウドファンディング企業のマクアケ、人気飲食チェーンのゴーゴーカレーなど多くの事業に投資。
うち3社はIPOを行なった。KSKファンドの利益は50億円以上にのぼっているとされる。
その後も2018年にハリウッドスターのウィル・スミス氏らと共に国内外から100億円規模の資金を集めて「ドリーマーズ・ファンド」を立ち上げ、2022年には学生起業家に投資するファンド「KSK Mafia」を創設。
そして2024年、150億円規模のファンド「X&KSK」の創設に至っている。
本田氏はセッションのなかで、「アスリートは体が資本であるため、お金のことまで考えていない人が多いのも事実である」として、アスリートのセカンドキャリアの課題について述べた。
また、「海外での生活が長くなればなるほど日本が好きになっていったが、その一方で日本は平和ボケしているなという危機感があった」とも指摘する。
「当時、南アフリカのサッカーW杯に出場したことをきっかけに世界の貧困を目の当たりにして、世界の不平等をなくそうと思った。たとえば、誰もが子供の頃からサッカーができる機会を得られるようにすべきだと。子供達に夢を与えたい、そこでお金を稼いで貢献できたら、と思うようになっていた」と続けた。
対する藤田氏は、26年前に24歳でサイバーエージェントを創業。
当時はインターネットバブルの始まりでもあり、起業するタイミングが良かったとした上で、「現在のようにスタートアップが食い込める産業があまり多くない状況では、海外での起業を視野に入れる」と語った。
また、アニメや音楽などの可能性について言及したことも印象的であった。
投資家としてどのようなスタートアップに投資をするかとの問いに本田氏は「創業者(ファウンダー)」をみるとした。
これを受けて藤田氏は、基本的に伸びている領域で起業する会社に投資していればまず間違いないと経験則から語っている。
ファウンダーを見極める際に重要なこととは? 本セッション終了後、本田圭佑氏はメディアに対して会見を行った。事業投資を行う際に、創業者のどのような点を重視するかという問いには、「ファウンダーを見極める際に重要なことは、事業を通して問題を解決する上で、本人が提供するサービスやプロダクトが、課題解決とマッチしているかどうかということだと思う。
さらに、どれだけ自分の起こした事業にのめり込むことができるか。情熱と行動力が何よりもファウンダーには必要」と答えた。
続けて「僕はサッカーを少年達に教えていますが、そこでプロ選手になりたいかと聞くと誰もがなりたいといいます。そこからさらに踏み込んで週に何度練習しているかと聞くと、『2、3回』と答える子が多い。それでプロの選手になれるはずがない。毎日毎日練習しないとプロにはなれない。スタートアップにも同じことがいえると思っています。すべての時間を自分の事業に使うほどでないと成功しないと思う」と自身の見解を述べた。
豪華な登壇者 「CREATE」ではメディア非公開のセッションも行われ、登壇者にはNTTグループやKDDI、ソニーグループも出資する注目のAIスタートアップ「Sakana AI」のDavid Ha氏とPaidy創業者のRussel Cummer氏のほか、AIシステム「ULMFiT(Universal Language Model Fine-tuning)」の開発者として名高いデータサイエンティスト・Jeremy Howard氏、ハリウッドスターのSimu Liu氏、人気YouTuberのはじめしゃちょー氏などVIPが名を連ねた。
本カンファレンスのスポンサーであり、本田氏のファンドにも出資している東急不動産の都市事業ユニット渋谷開発本部執行役員本部長の黒川泰宏氏は、東急不動産の渋谷におけるまちづくりとスタートアップ支援について説明を行い、「渋谷駅を中心とした半径2.5%を広域渋谷圏とし、国内外のキープレイヤーが集まる日本最大級のスタートアップコミュニティを構築する」と述べ、スタートアップ支援に大きく寄与していくと意気込みを語った。
また、MIT産業大学と連携したプログラム協業で、「Shibuya Deep-tech Accelerator」を2024年秋に開設するとも明かしている。
「スタートアップ飛躍元年」と題した後半のセッションでは、本田氏と衆議院議員の小林史明氏が登壇した。
小林議員は「スタートアップ育成5か年計画」の詳細を述べ、スタートアップに対する過去最大規模の予算措置として約1兆円の確保を閣議決定したことを明かした。
なかでも、ストックオプション制度に関する改革を行い、再投資に対する税制改革も実施。20億円の再投資については非課税にすることを強調した。
本カンファレンスの最後には、特別ゲストとして岸田文雄首相が登壇。
「CREATE」開催の祝辞を述べた後、政権下で閣議決定されたスタートアップ支援5か年計画について「こうした取り組みで大事なことはスピード感だ。1兆円以上にのぼるスタートアップ支援の予算を取り組み、ストックオプションに関する税制についても取り組む。世界に挑戦するスタートアップを応援するべく、研究段階からエコシステムを構築するためのキャンパスを創設する」と表明した。
さらに、「かつて日本は技術立国と呼ばれていた。ホンダやソニーも最初はスタートアップだったが世界に羽ばたいた。現在も世界に羽ばたくポテンシャルのある起業家がいる。過去最高となる株価、設備投資、賃上げが話題となっている今、バブル崩壊後の流れが変わりつつある。その流れを確実なものにするためにはスタートアップの活躍が必須だ」と語気を強めた。
本カンファレンスを通して、国内スタートアップ事業の成長を後押しするサポート体制の整備に、国をあげて取り組んでいることが随所に伝わってきた。整いつつある環境と視座の高い実業家が相乗効果を生み、日本が再び世界へと挑戦することに期待が膨らむイベントであった。