日本の暗号資産規制はどうなる? 金融審議会WGまとめ

2025/12/01 16:52 (2025/12/01 16:54 更新)
Iolite 編集部
文:Noriaki Yagi
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日本の暗号資産規制はどうなる? 金融審議会WGまとめ

日本の暗号資産(仮想通貨)規制はあらたなフェーズへ

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金融庁は2025年11月、金融審議会「暗号資産制度ワーキング・グループ(WG)」において、国内市場の抜本的な制度再設計を視野に入れた報告書案を提示した。

今回示された方向性は、暗号資産交換業者を従来の資金決済法中心の枠組みから、資本市場レベルの規律、すなわち金商法ベースの監督体制へ段階的に移行する可能性を見据えたものであり、これまでの暗号資産(仮想通貨)に関連する制度議論の延長線を超えるインパクトを持つ。

業界3団体が示した“あたらしい規律モデル”と市場課題の顕在化

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この動きに呼応するように、業界団体であるJVCEA(日本暗号資産取引業協会)・JBA(日本ブロックチェーン協会)・JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)の3団体は連名で声明を発出し、WG案を踏まえた業界自身のガバナンス強化、審査プロセスの第三者化、不公正取引監視やセキュリティ基準の底上げに向けた明確なコミットメントを示した。

現在、国内の暗号資産口座数は1,300万口座を突破し、日本は依然として一定の取引人口を抱える市場である。一方で、価格変動リスクの高まり、SNSを中心とした誤情報の拡散、急増するサイバー攻撃、事業者間でばらつくリスク説明や顧客適合性の基準といった、制度面と運用面の両方で課題が累積してきた。

金融庁の報告書案は、こうした現場の課題を鑑みて、イノベーションを阻害しない範囲を維持しつつ、「利用者保護の強化」と「市場の健全性向上」を2本柱とする制度改革のロードマップを明示した点に特徴がある。

今回の制度改革は、単なる規制強化ではない。暗号資産市場を将来の金融インフラとして位置づけ、長期的に持続可能なエコシステムへ発展させるための再構築プロセスである。

業界団体の声明も「これまでの対応」から「これから求められる水準」へと意識を転換する姿勢を鮮明にしており、日本の暗号資産市場は制度・運用・技術の3方向から同時にアップグレードを迫られる局面に入ったといえるだろう。

背景・文脈

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日本の暗号資産規制の議論は、近年、国際動向と国内市場の成熟を背景に大きく変化してきた。とりわけ2021年以降、世界各国で市場成長と規制強化が同時進行するなか、日本は「利用者保護を軸とした早期の制度整備」という世界からも評価を集める独自ポジションを築いてきた。

しかし、市場規模の拡大とプレーヤーの多様化が進む現在、従来の枠組みでは十分に対応しきれない課題が顕在化している。

暗号資産(仮想通貨)市場は世界的に急成長し、2024-2025年にかけてはAI・ゲーム・金融インフラなど周辺領域との融合が進み、トークンの社会実装が広がった。

同時に、サイバー攻撃の高度化、インサイダー取引・相場操縦、架空の高利回りをうたうSNS詐欺など、不公正取引や誤情報による被害も国際的に増加した。金融庁のワーキング・グループ(以下、WG)が制度全体の再点検に踏み切った背景には、こうした「市場の外部環境の変化」がある。

急拡大する国内市場と制度の“乖離”が生んだ課題

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国内でも、暗号資産交換業者を取り巻く状況は様変わりした。2017年に資金決済法が改正され、暗号資産交換業者への登録制度が導入された際、日本は「世界で最も厳しい規制」と皮肉混じりの評価も散見された。

しかし、その後の複数の流出事件や新規参入の増加、投資家層の幅の拡大により、市場の実態は制度の想定を大きく上回る速度で拡大した。現在では、先述した通り国内口座数は1,300万超に達し、初心者から投資経験者まで幅広いユーザーが取引を行う環境が生まれている。

こうした市場拡大によって、制度側が対応すべき論点も増える。取引経験の浅い利用者へのリスク説明の不十分さ、余裕資金を超える投機的売買の増加、審査基準の不統一による上場プロセスの不透明さ、事業者間の運用格差による利用者保護水準のばらつきなど、課題は多岐にわたる。

金融庁WGでは、こうした「制度と現場のギャップ」を明確にし、金商法移行を含むより高度なガバナンス体制の必要性が議論された。

一方、業界側でも危機感が高まっていた。SNSでは「金商法移行で日本の業者が撤退する」「責任準備金が過剰負担になる」といった誤解が拡散し、制度議論が部分的に過熱化した経緯がある。

これに対し、JVCEA代表理事の小田玄紀氏は「責任準備金は証券会社にも求められる一般的な仕組みであり、むしろ制度化されることで業界への信頼が高まる」と述べた。誤情報の流布こそが、むしろ制度の適切な理解を妨げている課題もある。

金融庁が今回の報告書案で示したのは、こうした誤解を払拭しつつ、暗号資産市場を長期的に維持するための制度としての器を広げる方針である。

利用者保護・不公正取引監視・審査プロセスの厳格化・セキュリティ基準の重層化など、議論の射程は広く、単なる法改正ではなく、市場全体のガバナンス強化を目指す包括的な再設計に位置づけられる。

この背景を踏まえると、今回のWG報告書案は、制度論の節目であるだけでなく、日本の暗号資産(仮想通貨)市場が次のフェーズに進むための基盤作りとして重要な意味を持つ。

業界団体の連名声明も、従来の対応から一歩踏み出し、金商法水準のガバナンスを業界自らが引き受ける姿勢を示している。市場の成熟、国際競争、ユーザーの拡大という3つの要素が交差するなか、日本はあらたな暗号資産制度モデルを構築しようとしている。

取り組み・制度内容の詳細

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今回の金融庁ワーキング・グループ(WG)による報告書案は、日本の暗号資産制度を大幅にアップデートするための複数の重要な論点を提示している。制度刷新の中心には、①利用者保護の強化、②市場の健全性向上、③ガバナンス・セキュリティの高度化が据えられ、暗号資産交換業者を取り巻くルールが資本市場並みに整理されていく見通しである。

ここでは、報告書案で示された制度改革の全体像と、JVCEA・JBA・JCBAが連名で示した業界の対応方針を総合的にまとめる。

1. 金商法移行を見据えた制度再設計

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今回のWG案の最も大きな特徴は、暗号資産交換業者を「資金決済法の枠組み」から「金商法ベースの規律」に近づける方向性が明確に示された点である。

背景には、暗号資産(仮想通貨)が単なる決済手段ではなく、投資対象・資産形成手段・ステーキングやレンディングを含む金融サービスなど、証券市場に近い性質を持ち始めたことにある。

WGでは、以下のような論点が整理された。

  • 不公正取引規制の高度化(取引データの収集・分析)
  • 審査プロセスの透明性・中立性の強化
  • 顧客適合性の厳格化
  • 責任準備金の制度化
  • サイバーセキュリティ水準の重層化

これらは従来の資金決済法体制では十分に規律できなかった領域であり、暗号資産(仮想通貨)市場が金融市場としての性格を強めたことに対応した再設計といえるだろう。

2. 暗号資産審査プロセスの刷新(第3者性の導入)

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現在、暗号資産(仮想通貨)の上場審査は、各交換業者が1次審査を行い、JVCEAが審査プロセスの適切性を2次的にチェックする構造になっている。

しかし、プロジェクトの透明性、技術仕様、リスク、事業者の説明責任など、審査の専門性が高度化していることから、「審査の高度化」と「中立性の確保」が重要な論点となった。

JVCEAは、WG案を踏まえ以下の改革に踏み込む:

  • 外部の有識者を中心とした「暗号資産審査委員会」を新設
  • 従来よりも詳細な技術・事業・市場リスクの分析を実施
  • 各プロジェクトのホワイトペーパー、トークン設計、ガバナンス体制などを高度に評価
  • 各交換業者の審査プロセスにばらつきが出ないよう標準化を推進

審査プロセスが第3者性を持つことで、利用者側の透明性は大きく向上し、特定事業者の判断に依存しない「業界標準」の確立が期待される。

3. 不公正取引の監視強化(JPXレベルの市場監視へ)

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不公正取引は、国内暗号資産(仮想通貨)市場の最も大きな弱点とされてきた分野である。これまで、交換業者ごとに取引データを保持していたため、市場全体を横断して分析する仕組みが乏しかった。WG案と業界団体の声明により、以下の大改革が進む。

  • JVCEA内部に「取引審査部門」を設置
  • 各交換業者の注文・約定データをJVCEAが直接収集
  • JPX-R(日本取引所自主規制法人)を参考にした市場監視基準を策定
  • 相場操縦、インサイダー取引、風説の流布など不公正行為の検知体制を業界単位で強化
  • 不公正な兆候が確認された場合は証券取引等監視委員会(SESC)と連携

これらは、暗号資産市場が初めて本格的に「証券市場並みの監視体制」へ踏み込むことを意味する。

4. 責任準備金の制度化と誤解の解消

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WG案で最もSNS上の反響を呼んだテーマが「責任準備金」である。一部SNSでは「責任準備金が導入されたら業者が倒産する」「撤退が相次ぐ」といった極端な意見が拡散した。しかし、JVCEA代表理事の小田氏は、これらは明確な誤解であると指摘する。

  • 責任準備金は証券会社では一般的な制度
  • 「過度な負担にならないよう配慮する」と報告書に明記
  • 交換業者の財務健全性向上につながる
  • 利用者資産の保護・返還体制の明確化に寄与

むしろ、責任準備金が制度化されることで、日本の暗号資産交換業者は十分な財務基盤を備えているという信頼性が高まり、海外投資家やパートナー企業へのアピールにもつながるという見立てがWGでは立てられている。

5. 顧客適合性の運用強化

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WG案では、暗号資産の投機性の高さを踏まえ、顧客適合性の徹底が求められている。

  • 口座開設時のみならず、取引・保有限度額の設定を継続的に運用
  • 利用者の資産状況・経験に合わせたリスク管理
  • 暗号資産特有のボラティリティへの理解を促す説明責任を強化

JVCEAは、すでに対応できている事業者もある一方、業者間の運用差をなくすため基準の統一を進める方向。

6. セキュリティ対策の重層化と「自助・共助・公助」モデル

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近年のサイバー攻撃は、個人のハッカーから国家レベルの組織へと高度化しており、暗号資産事業者に求められるセキュリティ水準は飛躍的に高まっている。

WG案と業界団体の声明では、以下の三段構えでセキュリティ高度化を進める。

● 自助:各交換業者の技術水準を引き上げる

  • コールドウォレット管理の徹底(国内では100%相当)
  • マルチシグ、HSM活用などの高度な保管技術
  • 侵入検知、継続的ログ監視など運用レベルの強化

● 共助:業界全体の底上げ

  • JP Crypto ISACと連携した脅威情報の共有
  • セキュリティ関連企業・解析企業との協働
  • ベストプラクティスの横展開

● 公助:政府・捜査機関・国際機関との協力

  • 国際的な犯罪組織や国家的攻撃への対処
  • 被害発生時の迅速なフォレンジック/資金追跡

この「自助・共助・公助」の3層モデルは、日本の暗号資産市場を継続的に高い信頼性へ導く基盤となる。

7. 自主規制団体 JVCEA(日本暗号資産等取引業協会)の体制強化

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制度改革を支えるのは、法律だけではない。運用の最前線に立つ自主規制団体のガバナンスがカギとなる。JVCEAでは、以下を進める方針だ。

  • 会費体系や財務基盤の再構築
  • 金商法水準を満たすための人員増強(質・量)
  • 審査・監視・基準策定などの内部機能を高度化

法律の施行を待つのではなく、事前準備を進める能動的姿勢を明示している点も特徴である。

8. 暗号資産の借入れ(レンディング/ステーキング)について

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国内で普及してきたレンディングは、交換業者がユーザーから暗号資産を借り受け、対価として利回りを付与するスキームである。

しかし、返還原資の所在やカウンターパーティリスク、交換業者の財務状況など、ユーザーが本来知るべき情報が十分に開示されていないケースもあり、利用者保護の観点から改善の余地が指摘されていた。

一方、国内で提供されるステーキングは、本来の「ネットワーク参加による報酬獲得」という性質に対し、交換業者がユーザー資産を集約してバリデータに委任する“代行型”が主流となっている。

このモデルでは、スラッシングやバリデータの運用不備による損失可能性、報酬水準の変動性、委任先の透明性など、ステーキング特有のリスクが存在する。

WGでは、こうした実態を踏まえ、ステーキング・レンディング共に、利用者財産の制度化された管理、適切な体制整備義務、行為規制など、ユーザー保護の観点から規律を強化していく方向も考えられる。

さらに、両サービスに共通するテーマとして、顧客適合性の徹底があげられた。余裕資金の範囲を超えた投機的利用を避けるため、取引・保有限度額の設定や、ユーザー属性に応じた利用制限の導入も議論されている。これらの規律強化は、利回りサービスが長期的に持続可能な形で提供されるための制度的基盤となる。

今回の制度改革は、利回りサービスそのものを抑制するものではなく、むしろ、レンディングとステーキングを透明で説明可能な金融サービスとして位置づけ直すための再設計といえるだろう。

暗号資産(仮想通貨)特有のボラティリティやカウンターパーティリスクを前提に、ユーザーが適切な判断を行える市場環境を整備することが、制度の狙いである。これにより、利回り系サービスが日本市場において持続的に発展するための土壌が整いつつあるのかもしれない。

9. 仲介業について

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仲介業についても制度整備の必要性が指摘されており、今回のWGではあらたな論点として注目された。近年、国内では暗号資産交換業者のサービスにとどまらず、他社取引所や海外サービスへのアクセスを間接的に提供する仲介型サービスが登場しつつある。

しかし、現行制度では仲介業の位置付けが明確ではなく、責任範囲やリスク説明義務、ユーザー保護の水準が曖昧なまま提供されているケースも見受けられる。

WGは、仲介業者がサービス提供者としてはたすべき役割を整理し、適切な登録制度や説明義務のルールを設けるべきとの方向性を示した。具体的には、仲介業者が利用者に誤認を与えないよう、

  • どの事業者のサービスを仲介しているのか
  • 資産や注文がどこで管理されるのか
  • 法的責任はどこに帰属するのか

といった情報を明確に提示する必要がある。

さらに、仲介業者が海外サービスを接続する場合、当該海外事業者の法的遵守状況、資産管理の水準、ガバナンスの健全性などについて、一定のチェックが求められる可能性がある。

利用者側からみれば、仲介業は利便性が高い一方で、サービス提供主体の不明瞭さがリスク源となるため、制度上の整理は不可欠である。

仲介業に関する規律は、日本の暗号資産市場において新たなマネーフローやビジネスモデルを生み出す一方、利用者保護の観点で欠かせない制度的枠組みとなる。

今後、金融庁と業界団体が協議を進める中で、仲介事業者に求められるガバナンスや説明義務が段階的に具体化していく見通しである。

総括:制度・運用・技術を一体でアップグレードする改革

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今回のWG報告書案と業界団体の対応方針は、単なる法改正ではなく、日本の暗号資産市場が次の成長段階に進むための“総合アップグレード”といえる。

  • 審査プロセス
  • 市場監視
  • ガバナンス
  • セキュリティ
  • 利用者保護

これらを同時に引き上げる点が今回の改革の本質だ。

制度改革のスケジュール感について

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今回の報告書案が示した制度改革は、あくまで「方向性の提示」であり、法改正の具体的な成立・施行時期については現時点で確定していない。ただし、金融庁・業界団体の双方が、実務レベルの準備を前倒しで進める必要性を強調しており、制度移行に向けたスケジュール感はこれまで以上に加速しているのが現状である。

法改正の成立・施行は未定だが、“準備は即時開始”

WGでは、報告書案を踏まえた制度設計が次のステージとなるため、法改正の条文化、施行令・内閣府令の整備、JVCEAの自主規制ルールの改訂、事業者の運用体制の見直しなど、複数のプロセスが今後順次進む予定である。

通常、法改正から施行までは一定の期間を要するが、今回の暗号資産制度改革は市場規模の拡大と国際動向の変化を背景に、事前準備を早期に進めることが求められている点が特徴である。

JVCEAの小田氏も、「法改正を待ってから対応するのではなく、前倒しで体制整備を行うことが重要」と明確に述べており、業界側も制度確定前の段階から改革に向けた具体的アクションを開始している。

ポイント・注意点

制度改正は段階的に進む見通しだが、交換業者にとって早期に備えるべきポイントは明確である。

1.交換業者に求められる実務的な注意点

● 審査関連(上場プロセス)

  • 外部専門家による「暗号資産審査委員会」設置を前提に、
    プロジェクト情報の提出プロセスが高度化
  • 不十分な情報開示では審査遅延や差し戻しリスクが高まる
  • リスク説明資料・技術文書・ホワイトペーパーの更新が必須

● 顧客適合性

  • 口座開設の基準だけでなく、取引限度額・保有限度額の設計が必要
  • 余裕資金を超えるハイリスク取引を抑制する運用ルールの整備
  • リスク説明の文書化・ログ管理の強化

● 不公正取引監視

  • JVCEAに取引データを提出するため、データ形式・粒度の統一が必要
  • 社内の市場監視フローをJPX-R基準に近づけることが求められる
  • データの保存期間・分析体制の強化

● セキュリティ対策

  • コールドウォレット100%運用が前提(既存ルール維持)
  • マルチシグ運用、侵入検知、ログ監視など
    「自助」のレベルアップが不可欠
  • インシデント対応マニュアル・第三者監査の見直し

● 責任準備金

  • 交換業者への新設が検討されているが、
    「過重な負担となる水準ではない」と報告書案に明記
  • 早期の内部試算・資本政策の見直しが推奨
  • 誤解を招く情報への対応方針の整備も重要

2. 利用者側への影響:口座開設・取引ルールの変化

制度改革により、利用者の取引環境にも変化が生じる可能性がある。

● より厳格な口座開設審査

  • 本人確認だけでなく
    投資経験・収入・資産状況などのヒアリングが重視される
  • リスク許容度に応じた取引制限が導入される可能性

● 取引・保有限度額の設定

  • 余裕資金を超えた投機的取引を防ぐため、
    上限管理が交換業者に義務付けられる可能性
  • 未成年・高齢者など特定ユーザー向けのリスク対応も強化

● 透明な上場審査

  • 外部専門家による審査委員会設置後、
    新規銘柄の上場基準が明確化し、透明性が向上する

● 不公正取引の減少

  • インサイダー、相場操縦、フェイク情報に基づく異常な値動きが
    これまでより早期に検知される可能性が高まる

制度移行時の混乱を避けるために

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制度改正は市場全体に大きな影響を及ぼすため、事業者・利用者の双方が過度な“規制不安”に振り回されず、制度の趣旨を正しく理解することが不可欠である。

とりわけ事業者においては、審査や市場監視が高度化するなかで、従来以上に情報開示と説明責任が重視される。ユーザー向けのFAQやリスク説明の資料を見直し、制度変更の内容や影響を適切に伝える姿勢が求められる。

一方、利用者側も制度内容を正しく理解し、暗号資産の特性やボラティリティの高さ、投資リスクを踏まえた判断がより重要になる。市場の成熟が進むなかで、J-FLEC(Japan Financial Literacy and Education Council)などの教育・啓蒙の取り組みを活用し、情報リテラシーを高めることが推奨される。

総じて、今回の制度改革は“段階的かつ前倒し”で進むとみられており、法施行スケジュールこそ未確定であるものの、制度の中身はすでに走り始めている。

これらの取り組みは、日本の暗号資産市場が“次の10年”へ進むための基盤となるものであり、制度・運用・技術の3層が同時にアップデートされる局面に差し掛かっている。

今後の展開・企業/団体コメント

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今回の金融庁ワーキング・グループ(WG)による報告書案は、暗号資産市場をより成熟した金融インフラへと押し上げるための「制度の骨格」を示したに過ぎない。

ここからは、法改正・自主規制・事業者の運用改善が連動しながら、多層的な市場アップグレードが進む段階に入る。今後の市場環境を展望する上で、金融庁と業界団体、そしてJVCEA代表理事である小田氏が示した視点の要点を含めてまとめたい。

1. 法整備は“第2ステージ”へ:ガイドライン・自主規制の整備が加速

報告書案のとりまとめを受け、金融庁は次のステップとして以下のプロセスに移行する見通しである。

  • 金商法移行を踏まえた条文整理
  • 施行令・内閣府令の精緻化
  • 暗号資産審査・上場基準の統一化
  • 不公正取引監視に関する基準整備
  • セキュリティ対策のガイドライン策定
  • 責任準備金の制度設計

これらは単独で進むのではなく、金融庁(公助)・業界団体(共助)・交換業者(自助)が連携する形で同時並行に動く。

制度は一度制定されれば終わりではなく、使いながら改善されていく金融法制の性質を帯びるため、2025-2026年にかけては複数の指針・ルールが段階的に更新されていくと考えられる。

2. JVCEAはガバナンス強化と専門性の再構築へ

業界団体の役割も大きく変わる。JVCEAは以下のような“構造改革”に踏み出すことが想定される。

  • 金商法水準の監督に耐えうる人員・財務基盤の拡充
  • 中立的な「暗号資産審査委員会」の立ち上げ
  • 市場監視部門の強化と専門分析人材の採用
  • AIを活用した不公正取引モニタリングの導入
  • JP Crypto ISACとの連携深化

特に、審査体系の刷新と市場監視体制の再構築は、今後の日本の暗号資産市場の質を決定づける重要な要素となる。業界団体が“形だけの自主規制”ではなく、実質的な監督機能を担う役割へ進化することが期待される。

3. 小田玄紀氏のコメント

「これまで」から「これから実現すべき水準」へ。小田氏は自身のnoteで、今回の制度改革に対し次のように述べている。

  • 「これまで実現してきたことではなく、これから実現していくべきことに意識を転換する必要がある」
  • 「制度改革は、業界を弱体化させるものではなく、日本市場の信頼性を高めるために必要」
  • 「責任準備金は証券会社でも一般的で、過度に恐れるべきものではない」
  • 「誤情報や過度な不安に流されず、業界全体で成熟した取組みを進めるべき」
  • 「国際的に注目されている日本の制度を、次のステージへ進める」

制度改革を「負担」ではなく「信頼性の向上」と捉え、業界が成長を続けるための不可欠な基盤として位置づけている点が印象的である。

4. 交換業者に求められる“未来志向の運用改革”

制度改正は厳格化だけではなく、事業者自身の進化を促す側面も強い。以下、4つの要点は、2026年度に事業者が求められることになるだろう。

● 運用プロセスの透明化

  • 上場審査、リスク説明、顧客管理など
  • ドキュメント、ワークフローの標準化を進める必要

● セキュリティの常時アップグレード

  • 国家レベル攻撃への対処
  • マルチシグ、HSM、SOC体制などの強化

● データ活用による市場監視高度化

  • AI・機械学習モデルでも不正取引パターン検知が進む
  • データ提出義務と分析体制の標準化が進む

● レピュテーション(評判)管理の重要性が増す

制度が厳格になるほど、事業者の透明性が評価につながる。業界の成熟化に伴い、「信頼できる事業者」としてのブランド価値が、利用者獲得のカギとなる。

5. 利用者側の未来:より“安全で透明な市場”へ

制度改革は利用者の取引環境にも恩恵をもたらす。

  • 上場審査の透明化により、高リスク銘柄のフィルタリングが進む
  • 不公正取引の早期検知により、異常な急騰・急落を避けやすくなる
  • 顧客適合性の強化によって、無計画な取引からの保護が進む
  • セキュリティ基準の底上げで、流出リスクが低減

日本はこれまで「世界で最も厳しい暗号資産規制」といわれてきたが、今回の改革は単なる厳格化ではなく、“世界でも類例のない安全性と透明性”を備えた市場形成へ向けたアップグレードである。

総括:日本の暗号資産市場は“次の10年”へ──国際競争力と制度再構築の行方

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今回の制度改革は、国内市場の課題解消にとどまらず、日本の暗号資産(仮想通貨)エコシステムの国際競争力という文脈でも重要な意味を持つ。

日本は2017年に世界で初めて暗号資産について明確な法制度を導入し、その後の不正流出事件を経て、コールドウォレット管理義務化など安全性を軸とした規制整備を進めてきた。

こうした積み上げにより、日本市場は国際的にも“安全性の高い市場”として知られるようになったが、足元ではWeb3.0支援政策や税制の見直しが進み、トークンエコノミーの実装事例も増え、制度面と実装面の双方であらたな環境が整いつつある。世界的に規制整備が本格化するなか、日本の制度が先行モデルとして捉えられつつある背景には、こうした過去の蓄積がある。

金融庁のWG報告書案は、日本が再び最も整備された暗号資産市場として存在感を高める契機になるためのガイドラインを示すものだ。

ガバナンス、セキュリティ、上場審査、不正監視、顧客保護といった基盤の強化は、日本市場が国際的に見ても高水準の透明性と安全性を備えるうえで欠かせない。これらが整備されて初めて、日本の暗号資産市場は持続的に成長しあらたな投資・産業領域の創出へと進むことができる。

制度改革は「終着点」ではなく、むしろスタートライン。市場の成熟、国際競争の激化、ユーザー層の拡大といった複数の要素が同時に進むなかで、金融庁、業界団体、交換業者、そして利用者のそれぞれが役割をはたすことが、健全なエコシステムの形成につながる。

制度・運用・技術の3層が同時にアップデートされるこの局面を乗り越えることで、日本の暗号資産市場はようやく「次の10年」へ向けて動き出すといえるだろう。


参考情報・リンク

本稿の内容は、金融庁が公表した「暗号資産制度ワーキング・グループ報告書案」と、業界団体の公式発表、ならびにJVCEA会長・小田玄紀氏によるパブリックコメント(note記事)をもとに再構成している。制度改革の全体像を理解するため、上記の関連資料や参考情報も併せて参照したい。

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