識者談「今、この人のハナシを聞きたい」——藤野周作

2023/04/03 17:00 (2025/06/09 17:54 更新)
Iolite 編集部
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識者談「今、この人のハナシを聞きたい」——藤野周作

注目を集める「Nippon Idol Token」 どのようなトークンなのか、その実態に迫る

昨今、日本においてIEO(Initial Exchange Offering)事例が徐々に見受けられるようになっている。これは日本が暗号資産フレンドリーな国家になっていく上で極めて重要なムーブメントだ。

この春には国内最大規模のIEOを仕掛ける暗号資産取引所coinbookおよびDMM Bitcoinにおいて、オーバースが発行する「Nippon Idol Token(NIDT)」のIEOが控えている。

これまでの国内IEO事例において最大規模の調達額を予定しており、プロジェクトのプロデューサーにはAKB48グループや坂道グループ等を手がけてきた秋元康氏が就任したことから、今注目を集めている。

そんな巨大IEO案件で、coinbookの司令塔として活躍するのが藤野周作氏だ。今回のインタビューでは、藤野氏がどのような経緯でWeb3.0領域に足を踏み入れたのか。そして、NIDTやcoinbookの今後の展望等について話をうかがった。

coinbookのサービスリリースに伴う心境

──藤野さんがこの業界に足を踏み入れるきっかけについて教えてください。

藤野:もともと、私の出身はファミリーマートの法務部門です。2009年の消費者庁設置後、第一号となる行政処分を受けたのがファミリーマートだったのですが、この担当者となったことがきっかけかもしれません。

おにぎりの包装紙に「国産鶏肉」と記載していながら、実際にはブラジル産鶏肉を使用していたのが問題となりました。ファミリーマートが国産鶏肉を使用する予定だったところ、ベンダーがブラジル産に切り替えていたのを確認できず、商品販売してしまったという事件です。

これは消費者庁やマスメディアにも説明したのですが、ファミリーマートは国産鶏肉を使用することを社内書面、ベンダー向け書面などに明記しておりました。

ところが、ベンダーはブラジル産の鶏肉を仕入れておにぎりを製造していたのです。でもね、実は一概にベンダーが悪いとも言い切れないのです。原材料が商品として加工されて店に並ぶまでには非常に多くのプレイヤーがいますので。

この件で、原材料管理の改善について消費者庁に報告をする必要がありました。

難しいのは、ファミリーマートの傘下企業だけであればファミリーマートのトレーサビリティ(履歴情報管理)システムに対応するように指示を出すだけで済むのですが、それ以外に国内外の業者さんもいますから簡単にはいきません。

その延長で、翌年2010年にブロックチェーンという言葉を聞きました。知ったとはいえ、触ったこともないし、よくわからない。でも、実現は難しいかもしれないが、トレーサビリティ関連を管理する手法として書面化して記録したことははっきりと覚えています。

その頃からブロックチェーンを活用した商流・物流のパラダイムシフトを起こすことができないか、という考えは、頭のなかにずっと引っかかっておりました。

その後、私は電子マネーやクレジットなど、いわゆるリアルマネーじゃない決済事業を手がけることになりました。電子マネー、中央集権的なサーバー型でやっていきましょうという形で、最初にいろいろなビジネスを立ち上げましたね。

そのなかでもブロックチェーンには好意的印象がありましたから、私がいたフィンテックの会社は結果的にbitFlyerさんと契約して、電子マネーで暗号資産が買えるというサービスを始めました。

決済手段の次は海外への資金移動のサービスをやろうと思いました。

その際、全銀システムを介して送金しなければいけないので、どうしてもコストが高くなる上に時間もかかるという課題に直面しました。正直、「これって既存金融機関と同じだな」と思いましたね。というのは、金融機関のシステムを全部使わないとやろうとしたサービスが成立しないのです。

取引というのは数字がきちんと移転さえすれば簡単に成立する話です。私が1万円を封筒に入れて海外に行き手渡しするといったことではなく、単に情報を移転するだけのはずなんですよ。これこそがブロックチェーンの使い道じゃないかと思いました。

そこで、大手海外暗号資産取引所オーケー・コインの日本法人の立ち上げに参画することにしました。暗号資産交換業者としての登録を完了させて、取引所や販売所、そしてステーキングサービスなどの立ち上げを行いました。

──coinbookさんは満を持して取引所サービスを開始することとなりましたが、今の心境はいかがですか?

藤野:もっとやれることがあったなぁというのが心境としてあります。ユーザー目線でみた時にこれは本当にわかりやすいのか、使いやすいのかと考えた場合、もっと突き詰めて考える余地はいくらでもあったと思いますね。

しかし、どうしても開発者目線というか、サービスをリリースする側の立場に立って進めなければならない時もありました。それでも、本当はもっと攻めることができたし、我々にはその力があるのにといった気持ちが今でもあります。これを忘れずに、これからの改善につなげていきます。

──取引所サービスの開始と同時期にIEOの受付も開始されます。今回IEOを行うNippon Idol Token(NIDT)とはどのようなトークンで、一連のプロジェクトはどのようなものなのか教えてください。

藤野:日本というのは特殊な環境でしてWeb3.0に関連した事業を営む人たち、Web3.0で遊ぼうと考えている人たちにとっては税制面などであまり良くないといわれています。

だけど、IEOについては、しっかりと枠組みを作って取り組んでいる世界で唯一の国なんです。その環境で我々がIEOをさせていただくのはありがたい話だと思っています。

発行体のオーバースさんを含め、金融だとか暗号資産についてしっかりとした知見を持っている人たちがNIDTというアイドルに関するトークンを発行して、どんな経済圏を作っていくのかというのはとても楽しみなところですね。

アイドル側の立場もしっかりと考え、卒業後の退職金のような仕組みもしっかり作っていこうと話し合ったり、ファンの人たちがどんな形でNIDTを使えるのかという話、そしてウォレットの代わりとなる仕組みやNFTをコミュニティの会員証明にできないかなど、さまざまな話をして開発を進めています。

私たちも意見を出させてもらっている立場ですが、NIDTはなかなか面白い経済圏を作ってくれるのではないかと思いますし、その自信はありますね。

NIDTを持つことでいったい何ができるのかといった点ですと、ファンコミュニケーションを活発化させることが可能になるといったところや、何らかの投票の際に毎回CDを買うというのはサステナブルではないため、NIDT と関連させてNFTを使用するなどといったことを実現できると考えています。

これでアイドルがきちんとブランディングされて、その価値が認められれば、経済圏の普及と共にトークンの価値は上がっていくでしょう。

単純にお金儲けができますといったことではなくて、それによってトークンを欲しがったり、トークンによって生まれたアイドルに愛着を持つ人ができるはずです。

そして、立ち上げる際に最初から参加した人たちの支援を認めてあげることができます。トークン保有者たちの支援があったことでこのプロジェクトが立ち上がったと評価される仕組みは面白いのではないでしょうか。

取引所サービスとNippon Idol Token(NIDT)のIEO申込開始を同時期に行うという異例の展開は、どのような経緯で実施された?

──今回のIEOは2社で行われるという比較的珍しい事例かと思いますが、どのような経緯からこのような取り組み方になったのですか?

藤野:オーバースさんが発行するNippon Idol Token(NIDT)の売出しは15億円で、ほかのIEOに比べても大規模な案件です。この件では最初にcoinbookへ声をかけていただいたのですが、当時、我々もこれから新規で口座開設を受け付けるといった状況でした。

そのため、我々1社よりもいくつかの取引所と連携した上でさまざまな人たちにリーチしていった方が良いと考えました。このプロジェクトを成功させていくためには、私たちが独占的にIEOを行い取引手数料で収益を上げるという考え方ではなく、複数の会社でやった方が良い成果が生まれるだろうという考えです。

そうした考えのもと、エンタメに強いDMM Bitcoinさんに相談させていただき、連携させていただくことになったのです。単純に1社でやるよりも、ほかの会社と共に売り出した方が間違いなくプロジェクトの成功率は高いと思います。ユーザー側の利便性も高くなりますしね。

今後、複数の会社が協力してIEOを行い、プロジェクトを盛り上げる事例というのも徐々にみられていくのではないかと思います。

──IEO申込と取引所サービスを同時期に開始することは極めて大変なことだと思いますが、これまでの苦労や困難であったポイント等を教えてください。

藤野:あたらしいトークンというのは発行する前から審査を始めますが、一方で基本的に審査が終了する前にトークンは発行される形となります。そのため、審査の過程でトークンのアルゴリズムが変わっていくなど、仕様が変わる点は1つ調整が大変な部分としてあげられます。

仕様が変わるのは、プロジェクト的に追加すべき機能が出てくるからです。すると当初説明した部分に乖離が生まれてきますので、理由等を説明しなければいけません。これが大変なのです。もちろん、我々だけではなくて審査側も大変だと思いますよ。

しかし、審査側も積極的な姿勢でこれを受け入れてくれます。審査が甘いということはないですが、決して事業者を邪魔しようだとか、あたらしいプロジェクトを潰してやろうなどという考えはありません。

今回のNIDTに関するやり取りでも、今の状況はどうなっていて、何を考えていて、ツールは何を使っているのかなどの確認をして進めていくので、我々や発行体も情報を管理していくとか、考え方を整理していくということに関してヒントを得られるなど、有意義な話し合いができました。

思い返せば、ありとあらゆるものが本当に困難でしたし苦労の連続でした。

先ほども申し上げた通り、IEOの審査段階ではまだトークンが発行されていないので、どういうトークンになるかといったイメージも掴みにくかったですしね。取引所で扱うウォレットをどうするかなど含めて、新規で暗号資産を取り扱う際には本当にチェックすべきポイントが非常に多いんですよ。

取引所のサービスをリリースすることに関して、まずシステムからというよりは作りたい世界観を優先して、それを実行するためのオペレーションをどうするのかという話から始まり、オペレーションを実行するためのマニュアルを作り、そのマニュアルを業務フローに落としこんで成立させるためのシステムを開発することになります。

我々としては本当にゼロからすべてを作り上げ、その上でIEOを通じてどのように進んでいくか未知数なトークンを扱うことになります。

IEOは日本国内ではまだ4つしか事例がありません。株式市場におけるIPOとは違いますし、参考がないに等しいのです。

IEOの事例として、1件目2件目で利益等があったとしても、その内側の情報というのはなかなか得ることができません。本当に手探りの状態で進めていくしかないので、これはすごくストレスがかかる作業となりました。

IEOでいえば、オーバースさんもしっかりとスケジュールを組んでいるわけです。4月に〇〇、5月に□□というように。

すると、我々としては取引所サービスを3月にリリースしなければならないとなりますので、すべての社員が悩みながら取り組んできました。だからこそ、コミュニケーション、チームのビルドという意味では取引所サービスの開始やIEOへの取り組みというのは大変有意義な活動であったと感じています。

──coinbookさんの今後の展開や意気込みをお願いします。

藤野:coinbookとして価値のあることをやらなければいけないという考え方は会社全体として持っています。つまり、すでに世の中に溢れていて、それをユーザーが満足しているような状態にあるシステムの二番煎じ的な取引所や販売所を立ち上げるつもりはまったくありません。

我々の取引所サービスでは、IEOを行いたい方の支援や、初めて扱うトークン、またこれまで日本になかった金融資産の運用というところまでチャレンジしていきたいと考えています。とにかく独自性を出していこうと社内で議論を交わしています。

そのなかで我々の強みであり特徴でもあると考えているのは、エンタメという領域です。

今回のNIDTをみてもわかる通り、エンタメ業界にいる人、そしてそのファンの方々が喜ぶことをブロックチェーンでどのように実現させていくことができるのかと考えていく1年にしたいと思います。

それは、単純に暗号資産の理解だけでは生まれにくい話であるので、我々1社だけではなくこれから提携させていただくような会社さんも含めてしっかりと進めていこうと思います。手数料が安いとかではなくて、あたらしいブロックチェーンの使い方を提供する、まったくあたらしい暗号資産交換業者を目指します。

あともう1つ、coinbookの強みは何だろうと考えた時、今お付き合いしている人たちとの縁を大切にすべきだという想いが私のなかでありました。

こうした縁を通じてエンタメ関係の人たちとお付き合いをして、そのファンの人たち、ユーザーに喜んでもらえる仕組みを、我々は考えられるんじゃないかと思っていますし、それを突き詰めなければいけません。

そのほかですと、たとえばすでに古くからある技術との連携をブロックチェーンを使ってできないかということも考えています。30年前にもてはやされたテクノロジーと我々が組むことにより、いろいろなシナジーが生まれると思います。そのような事業も展開していきたいですね。


Profile

◉藤野 周作
ファミリーマートではM&Aの事業戦略、プロジェクトに従事するとともに、商品券やプリペイドカードなどの金券(電子マネーを含む)を用いた決済事業スキームの構築に従事。その後、世界三大暗号資産取引所の1つオーケー・コインの日本法人COOに就任。暗号資産交換業者としての登録〜ブロックチェーンを活用したサービスの開発運用を遂行。2021年、NFTマーケットプレイス開発運営のためORADAを設立。大手〜スタートアップまで幅広い企業へブロックチェーン活用の新規事業開発を支援中。2022年、暗号資産交換業者 株式会社coinbook COOに就任。

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