——日本を変える“イノベーション”と規制のバランス 2日目の日本ステージは、西村康稔経済産業大臣が来賓挨拶を行いスタート。西村大臣は国内の成長を妨げる少子高齢化問題をWeb3.0やAIを活用した革新技術により克服することが重要だと語る。
また、革新の推進力となるのは「若い世代とスタートアップの挑戦的な姿勢」と言及し、なかでもブロックチェーンは「社会に革新をもたらす技術の1つだ」と語った。特にAIとブロックチェーンの相乗効果に期待を寄せ、「社会変革が現実になる可能性を秘めている」と位置付けた。
西村大臣は挨拶の後半で“イノベーション”という言葉を多用し、「人類が抱える課題を乗り越えるにはイノベーションが必要」と声を大にして強調した。
▶︎登壇する西村大臣
西村大臣の挨拶により朝から熱気に包まれた日本ステージでは、続いて「日本の暗号資産規制のグローバルな影響力」と題したセッションを実施。bitFlyer代表にしてJBA(日本ブロックチェーン協会)の代表理事である加納氏、ビットポイントジャパン創業者兼代表取締役にしてJVCEA(日本暗号資産取引業協会)会長の小田玄紀氏、金融庁・チーフフィンテックオフィサーの牛田遼介氏が登壇した。
このセッションのモデレーターを務めたのはbitbank代表取締役CEOで、JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)の会長でもある廣末紀之氏だ。JBA、JVCEA、JCBAという国内の暗号資産に関連した代表的な団体の長が集まったこともあり、会場は再び立ち見で溢れ返っていた。
セッションではまず昨年に発生したFTX事件に関連して、海外の規制動向の整理が加納氏を中心になされた。その過程で、規制整備を行う立場である牛田氏が改めて顧客保全に注視した現状の日本の市場環境を評価した。
また、小田氏は国内暗号資産取引所で取り扱い銘柄が増加していることに触れ、JVCEAとしては今年5月時点ですでに91種類の暗号資産について審査を終えていると明かした。
その上で今後はレバレッジの倍率を上げていくことに注力していき、国内暗号資産市場の流動性を高めていく姿勢をみせた。具体的には、まず国内におけるビットコイン取引の流動性を15%ほど上昇させたいとした。
加納氏もレバレッジ倍率の変更について賛成し、「日本は規制も進みやりやすい事業環境になっている。日本が世界をリードできる可能性がある」と語気を強めた。
こうしたやり取りを踏まえ、廣末氏は「大企業の関心は高まっている。参入しやすい環境になればさらに市場が活性化する」と述べ、「民間の力が今後必ず必要になってくる」と締めた。
▶︎左からbitFlyer・加納氏、ビットポイントジャパン・小田氏、金融庁・牛田氏、bitbank・廣末氏
2日目午前のセッションを締めくくったのは、アスターネットワークの渡辺氏、デジタルガレージ取締役共同創業者伊藤穰一氏、自民党Web3プロジェクトチーム座長の平将明衆議院議員、そしてCoinPost代表取締役CEOである各務貴仁氏の4名。「日本のWeb3国家戦略 今後5年で進むべき道を徹底議論」と銘打ち、濃密な話が繰り広げられた。
なかでも、「利益・収益をWeb3でどのように上げるか」というテーマでは、それぞれの考えを垣間見ることができた。
まず渡辺氏は「10年単位で考える重要性」を打ち出し、あのGoogleも最初から収益を考えて事業を行っていたとは考えにくいとコメント。また伊藤氏はメールが使われるようになった頃を引き合いに出し、「メールで収益を上げようなんて話もなかったし、ロングターンでやっていく必要がある」とした上で、Web3.0によって解決できることを考えていくべきだと述べた。
平氏は観光業など既存のアナログ的な価値を最大化すべきだとし、日本のIPや文化は有効活用できるとの考えを示した。
最後に「ここから5年後の業界展望」について語られた。
渡辺氏は「5年以内に日本発のプロジェクトが時価総額トップ10に入ることができるとインパクトがある。そのためには大企業の参入が重要だ」と述べた。また、伊藤氏は規制当局を始め官民がWeb3.0に興味関心を寄せており、知識を重ねている段階だとした上で、「過度に消極的になりすぎないことが大事」と言及した。
さらに、平氏は政治的な課題として安定的な電力供給と暗号資産税制が課題になるとし、それを変えていくために政治家役職や選挙の動向でモメンタムが変わらないことも重要だろうと見解を語った。
▶︎左からアスターネットワーク・渡辺氏、デジタルガレージ・伊藤氏、自民党・平氏、CoinPost・各務氏
午後に入り最も盛り上がったセッションの1つとしては、著名経済学者の成田悠輔氏やSBI金融経済研究所の研究主幹である副島豊氏、トヨタファイナンシャルサービス・CBDCチームの上野直彦氏が登壇した「日本円がデジタル化 その先に見える未来は」があげられる。
このセッションでは、成田氏が開口一番投げかけた、「社会がデジタル化された際、お金はそもそもいらないのでは?」という論点に注目が集まった。
成田氏は「すべてトラックを記録できるようになり価格のやり取りはなくなっている。やりすぎてはいけない範囲もなんとなく決まっていて、逸脱する存在がいればお金は必要なくなる」と持論を展開。その一方で、デジタル化された通貨が出てくれば「再分配の仕組みとして良い」とし、一定の理解を示した。
副島氏は「お金というのは即座に支払い行為ができ、きっちり誰かの手にわたる大事なツールだ」と言及。その上で、CBDCが流通した際には「どのような情報は吸い上げてもいいのか」「民間企業がオラクルになって良いのか」という課題は解決すべきだと主張した。
また、デジタル円が流通した際、「ステーブルコインとの共存はあり得るのか」というテーマで、上野氏は「共存可能」との見解を示した。一方で、銀行間決済などでステーブルコインが利用されるのは限定的かもしれないとの持論も述べた。
副島氏はCBDCとステーブルコインの共存は「健全な競争」につながるとしたものの、これらに固執することは未来の発展を妨げる可能性があるとし、他の決済手段についても検討しなければならないとの考えを示している。
▶︎左からトヨタファイナンシャルサービス・上野氏、SBI金融経済研究所・副島氏、成田氏、CoinPost・各務氏
まとめ 今回のWebXは東京国際フォーラムの大部分を利用して開催された。どのエリアも多くの参加者で埋め尽くされ、各々が交流を深めている様子がうかがえた。
またブースに出展した複数の企業・プロジェクトに話を聞いてみると、「これまでのイベントとは違い一般の方々が多く来場していたと思う」との声も聞こえた。実際、子供と一緒にイベントを楽しむ親子やNFTアートを楽しむ多くの参加者も見受けられたことから、まさにWeb3.0のマスアダプションに向け大きく寄与したイベントであるといえるのではないだろうか。
あわせて、先述したように各セッションでは立ち見が続出するなど、Web3.0に対する非常に高い興味関心もうかがえた。これもWeb3.0が世に浸透しつつあることをあらわす貴重なシーンだったといえるだろう。
こうした状況を鑑みても、WebXというイベントが業界の内外に与えたインパクト、そして残した財産というのは、今後の日本のWeb3.0発展につながるものであるだろうと感じられた。
画像:Iolite