「Midnight Meetup tour in Fukuoka」イベントレポート

2026/02/06 12:13 (2026/02/06 12:39 更新)
Iolite 編集部
文:Noriaki Yagi
SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
「Midnight Meetup tour in Fukuoka」イベントレポート

プライバシーを再設計するという問い

Midnight Meetup tour in Fukuoka image1

インターネットにおけるプライバシーは、利便性と引き換えに失われるものとして長らく扱われてきた。個人の行動データは中央集権的なプラットフォームに集約され、その利用や管理の主導権は、必ずしもユーザーの手に委ねられてこなかった。

一方で、データの主権を個人に取り戻すという思想は、ブロックチェーン技術の登場以降、Web3.0の文脈において繰り返し議論されてきたテーマでもある。

こうした潮流のなか、次世代のプライバシー保護技術を掲げるプロジェクト「Midnight」によるコミュニティミートアップが、2026年1月31日、福岡で開催された。

本イベントは、1月25日の札幌を皮切りに、2月7日の東京まで全5都市を巡る日本ツアーの一環として企画されたものである。製品説明や投資家向けピッチを目的とするのではなく、「インターネットのプライバシーの在り方を変える」というビジョンを共有する人々が集い、対話と交流を通じて思想を深める場として設計されている。

当日は、Cardano(カルダノ)の創設者として知られるチャールズ・ホスキンソン(以下、ホスキンソン)氏も登壇し、Midnightを中心に、周辺プロジェクトと連動しながら構築されるあらたなエコシステム像について語った。

さらに本記事の後半では、同氏に対して本イベントを踏まえた独占インタビューを実施し、Midnightが目指すプライバシー設計の思想や、その背景にある問題意識についても掘り下げていく。

プライバシーの新時代を切り拓く「Midnight」の全貌

Midnight Meetup tour in Fukuoka image2

イベントの冒頭、ホスキンソン氏は2016年、Cardanoがまだ構想段階だった頃に福岡を訪れた際の記憶を振り返った。

当時のCardanoは、まだ小さく、既存の金融システムやテクノロジーに挑む「反逆児」のような存在だったという。世界を変える特別なネットワークを作ると語っても、それを本気で信じる人は多くなかった。

しかし現在、Cardanoには世界中に140万人以上のユーザーが存在し、分散型ガバナンスを備えた大規模なブロックチェーン・エコシステムへと成長した。
ホスキンソン氏は、その歩みを「魔法のようなネットワーク」と表現し、長期的な視点で積み上げてきた成果であると強調した。

今回のMidnight Japan Tourは、Cardanoの歴史を振り返ると同時に、彼自身が「心から大切にしている」という新プロジェクトMidnightを、日本のコミュニティに直接届けることを目的としている。

なぜ、いま「プライバシー」なのか

ホスキンソン氏は、ブロックチェーン誕生から15年以上が経過した現在も、なぜソニーやトヨタ、Microsoftといった巨大企業が全面的な採用に踏み切らないのか、という根本的な問いを提示した。

その理由は、既存のブロックチェーンが「公開(Public)」の領域に偏りすぎている点にあるという。

ブロックチェーンは、透明性、検証可能性、不変性といった特性を持ち、資産の記録や移転には極めて優れている。一方で、ビジネスや社会のあらゆる領域をカバーするには不十分である。

なぜなら、現実世界には「秘密(Private)」の領域が存在するからだ。
人事記録、医療データ、個人の財務情報、政府の機密事項など、公開されるべきではない情報は数多い。

私たちは日常生活の中で、公開された世界と秘密の世界を自然に行き来している。しかし、これまでのブロックチェーンには、この「B面」とも言える領域を扱うための仕組みが欠けていた。
Midnightは、その欠落を埋めるために設計されたブロックチェーンである。

Midnightを支える「3つの柱」

Midnight Meetup tour in Fukuoka image3

Midnightの中核となるコンセプトは、3つの要素からなる三角形で説明された。

1つ目は、PETs(Privacy-Enhancing Technologies:プライバシー強化技術)である。
ゼロ知識証明などを活用し、「情報の中身を明かすことなく、正しさだけを証明する」仕組みを実現する。

2つ目は、スマート・コンプライアンスである。
プライバシーを守りながら、KYCやAMLといった規制要件を自動的に満たす仕組みを組み込むことで、不動産や証券などの現実資産(RWA)のトークン化を可能にする。

3つ目は、アブストラクション、すなわち抽象化による使いやすさである。
ユーザーは24個の復元ワードやガス代の計算といった複雑な要素を意識する必要がなく、スマートフォンの指紋認証だけで直感的に操作できる体験が目指されている。

これら3つの柱が組み合わさることで、Midnightは「使えるプライバシー」を実現しようとしている。

「意図」に基づく、新しいユーザー体験

ホスキンソン氏は、今後のブロックチェーンの進化として「インテント・ベース(意図ベース)」のUXを重視していると語った。

人はコーヒーを注文する際、豆の産地や抽出条件を細かく指定するわけではない。「ラテをください」という意図を伝えるだけで十分である。
暗号資産も同様であるべきだという。

「100ドル分のビットコインを1時間以内に購入したい」という意図を伝えれば、その裏側でどのチェーンを使い、どのルートを通るかはネットワークが自動的に処理する。
Midnightは、その意図を各ブロックチェーンにつなぐ「橋渡し役」として機能することを目指している。

Cardanoのエコシステムが集結

また、今回のイベント内にて冒頭に紹介されたのは、Cardanoのスケーリング技術「Hydra」を活用した参加型ゲームである。

煩雑なウォレット操作を排除し、会場内で「秘密の単語」を集めるスカベンジャーハント形式を採用することで、来場者がプライバシー技術であるゼロ知識証明を直感的に体験できる仕組みを実現した。

高度な技術を「触れて楽しめる体験」へと転換する演出により、会場を訪れたユーザーにあたらしい体験を提供していた。

CTOセバスチャンが語る、数分でユーザーを虜にする仕組み

セッションは、「どんなに優れた技術でも、使いにくければ存在しないのと同じだ」という強いメッセージから始まった。この言葉は、Midnightの設計思想そのものを象徴している。

ZKはなぜ、これまで普及してこなかったのか

セバスチャン氏はまず、会場に問いを投げかけた。「これまでに、ゼロ知識証明(ZK)関連のプロジェクトを実際に触ったことがある人はいますか」と。

ゼロ知識証明は数十年にわたって研究されてきた暗号技術であるにもかかわらず、この数字は、現在のブロックチェーンが直面している「ユーザビリティの壁」を如実に示している。

従来のZKプロジェクトでは、エンジニアであっても多数のツールをインストールし、数時間から場合によっては数日をかけて開発環境を構築する必要があった。その結果、ユーザーが技術の魅力に触れる前に、準備段階で離脱してしまう状況が続いてきた。

セバスチャン氏は、この状況を「Midnightで終わらせる」と断言した。

MidnightのCTOであるセバスチャン氏は、これまでプライバシー技術が広く普及しなかった最大の要因は「使いにくさ」にあったと述べる。

その課題を解決する鍵として示されたのが、ブラウザ上で即座にノードを立ち上げるWASM、デバイス性能を最大限に活用するWebGPU、そして継続的な証明を可能にするFoldingという3つの先端技術である。

これらを統合することで、数分で「恋に落ちる」ほど滑らかな操作性を備えた「Midnight OS」を実現するとし、その全体像をエンジニアの視点から力強く提示した。

Midnightを支える3つの核心技術

Midnightが目指すのは、「誰もが数分で使いこなせるブロックチェーン」である。その実現のために、セバスチャン氏は3つの技術的柱を紹介した。

WebAssembly(WASM)──インストール不要の体験

セバスチャン氏は、この戦略を「グレート・ワズミフィケーション(偉大なるWASM化)」と呼ぶ。
WASMを活用することで、ユーザーは専用ソフトウェアをダウンロードする必要がなくなる。

ブラウザを開くだけで、その場でMidnightのノードが立ち上がり、ウォレットやDAppストアが安全なサンドボックス環境の中で動作する。
さらに、もともとAIを安全に動かすために開発されたWASIといった技術を転用することで、資産や機密情報を保護しながら、シームレスな操作体験を実現している。

WebGPU──ミリ秒単位の超高速処理

従来、ブラウザ上で複雑な暗号計算を行うと、動作が重くなるのが常識であった。
Midnightは、この常識をWebGPUによって覆そうとしている。

数ヶ月前に登場したばかりのWebGPUをいち早く採用し、デバイスのGPUへ直接アクセスすることで、ゼロ知識証明のような重い計算処理をミリ秒単位で完了させる。
これにより、プライバシー保護と高速性を両立した体験が可能になる。

Folding──途切れない「証明」の連続性

3つ目の柱が「Folding(フォールディング)」と呼ばれる概念である。
従来の証明技術が「一瞬の切り取り」に近かったのに対し、Midnightは「継続」を重視する。

たとえば「パスポートを持っているか」という一回限りの証明ではなく、ゲームが電源を切るまで続くように、ユーザーの状態や行動履歴を継続的に更新し、証明し続けることが可能になる。
しかもその過程において、プライバシーは常に保たれる。

「数分で恋に落ちる」UXを目指して

セバスチャン氏が繰り返し強調したのは、Midnightが単なる高機能なツールではなく、一種の「OS(オペレーティング・システム)」であるという点である。

ブラウザを開き、アプリを使い、目的を達成する。その一連の流れすべてにおいて、プライバシーが守られ、かつ高速であること。
この体験を数分間味わえば、誰もがMidnightの可能性に魅了されると、セバスチャン氏は語った。

技術からビジネスへ、エコシステムの拡張

技術的な基盤の説明を終えた後、セッションは商用展開の話題へと移った。
セバスチャン氏は、Midnightのパートナーシップを担当するスコット氏をステージに招き、Midnightがすでに研究段階を超え、巨大なエコシステムとして動き出していることを強調した。

Midnightは、単なる先端技術の実験場ではない。
「使えるプライバシー」を軸に、開発者、企業、そして一般ユーザーを巻き込みながら、現実世界のビジネスへと接続されつつある。

ガバナンスの成熟、ノードの多様化、そして100倍速の「Leios」

イベント後半のセッションでは、Midnightが既存のブロックチェーン・エコシステムとどのように融合していくのか、そしてCardano本体が今後どのような進化を遂げようとしているのかが、複数の専門家によって語られた。

そこに共通していたのは、「置き換える」のではなく「拡張する」、「壊す」のではなく「成熟させる」という思想である。

Midnightは移行先ではなく「統合レイヤー」である

Midnight Foundationのスコット氏は、MidnightがCardanoの後継や競合ではないことを明確にした。
Midnightは、既存のエコシステムを置き換える存在ではなく、プライバシーという機能を付加する「拡張レイヤー」である。

Midnightの活用領域として挙げられたのは、プライバシー決済、医療データ管理、AIエージェントにおける機密情報の保護、さらにはプライバシーを担保した電子投票など、多岐にわたる。

重要なのは、既存のCardanoやEthereum、Solana上のアプリケーションを、Midnightへ移行(マイグレート)する必要がないという点である。
Midnightを統合(インテグレート)することで、現在稼働しているアプリケーションに、そのままプライバシー機能を追加できる設計となっている。

また、世界各地で活動するアンバサダーコミュニティ「Midnight Force」が、地域ごとの教育やコミュニティ形成を支えている点も紹介された。Midnightは、技術だけでなく、人のネットワークによっても拡張されつつある。

分散型ガバナンスは、すでに「実用段階」へ

続いて登壇したIntersectの代表は、Cardanoの分散型ガバナンスが理念ではなく、すでに実運用に入っていることを強調した。

2024年12月に承認されたCardano憲法に基づき、現在は実際の予算管理や意思決定がオンチェーンで行われている。
この憲法は「固定された文書」ではなく、進化し続ける「生きた憲法」として設計されている。

象徴的な事例として紹介されたのが、日本のコミュニティによる憲法修正案である。
日本のコミュニティメンバーが提案した初の修正案が承認され、Cardanoのルールそのものが、グローバルかつ分散的に更新された。

さらにMidnightも、Intersectの企業メンバーとして参画し、プライバシーおよびコンプライアンスに関する専門知識を、ガバナンス層へ提供している。
CardanoとMidnightは、技術面だけでなく、統治のレイヤーにおいても結びつきを強めている。

ノードの多様性がもたらす「止まらないネットワーク」

Midnight Meetup tour in Fukuoka image4

Blink LabsのCEOであるクリスティーナ氏は、Cardanoネットワークのもう1つの重要な特徴として、「ノード実装の多様性」を挙げた。

ブロックチェーンの歴史において、単一クライアントへの依存は大きなリスクとなってきた。
過去には、Ethereumが特定クライアントの脆弱性によって停止しかけた事例もある。しかし別のクライアントが稼働していたことで、最悪の事態は回避された。

Cardanoでは、Haskell製ノードだけに依存するのではなく、Rust(Amaru、Dolos)、Go(Dingo)、TypeScript(Giralamo、Scalus)、C++、C#など、多様なプログラミング言語によるノード実装が進められている。

この多様性により、特定の実装にバグが発生しても、ネットワーク全体が停止するリスクを回避できる。
同時に、エンジニアが自ら得意とする言語でCardanoに参加できる環境が整い、開発者層の裾野も広がっている。

Leiosがもたらす、スケーリングの質的転換

Midnight Meetup tour in Fukuoka image5

後半最大の注目を集めたのが、Cardano Coreのプロダクトマネージャーであるマイケル氏による、次世代スケーリング技術「Leios(レイオス)」の発表である。

現在のCardanoは、秒間10〜15件(TPS)の処理能力を持つ。
Leiosはこれを、2026年末までに50倍、最終的には100倍以上へと引き上げることを目標としている。

その仕組みは、従来の「一本の鎖」のようにブロックを直列につなぐ方式から脱却し、複数の「認証用ブロック(Endorsing Blocks)」によって並列処理を行う構造へと進化する点にある。

重要なのは、この高速化が分散性やセキュリティを犠牲にしない点である。
Cardanoがこれまで築いてきた分散性と安全性は、そのまま維持される。

Leiosのロードマップはすでに示されており、2026年上半期には1,000 TPSのデモンストレーション、続いてパブリックテストネットが開始され、年末にはメインネットへの実装が予定されている。

三すくみを超えるプロトコルへ

Midnight Meetup tour in Fukuoka image6

セッションの締めくくりとして、再びチャールズ・ホスキンソン氏が登壇し、Leiosの意義を総括した。

ブロックチェーンには、「高速化すれば中央集権的になる」「分散化すれば遅くなる」「両立すれば安全性が損なわれる」という、いわゆるトリレンマが存在すると長らく考えられてきた。

ホスキンソン氏は、Leiosがこの三すくみを解決する、コンピュータサイエンス史上初のプロトコルであると語る。

それは小さな改善ではなく、宇宙船が複数のバックアップシステムを持つように、何が起きても止まらず、かつ極限まで高速に動作するインフラを目指す試みである。

MidnightとCardanoは、プライバシー、ガバナンス、分散性、スケーラビリティという複数の課題を同時に解こうとしている。
福岡で語られたこれらの構想は、ブロックチェーンが次の段階へ進むための具体的な設計図であった。

チャールズ・ホスキンソン 独占インタビュー—— Midnight日本ツアーが示す、Cardanoの次の10年

日本から生まれ、日本に報告する責任

Charles image1

——今回のMidnight日本ツアーで達成したいゴールを教えてください

チャールズ・ホスキンソン(以下、ホスキンソン):大きく3つあります。第1に、Cardanoは日本で生まれたプロジェクトだという事実を、改めて明確にすることです。資本も人材も日本から始まり、今年で10年目を迎えました。これほど大きなコミュニティがある以上、毎年日本を訪れ、エコシステムで何が起きているのかを報告する責任があります。

Intersectがここに来ているのもそのためですし、HydraやLeiosといった技術について話すのも同じ理由です。これは「Cardanoはいまも競争力を持っているのか」「本当に生きているのか」を示すスナップショットでもあります。EthereumやSolanaといった他のエコシステムとどう戦うのか、その戦略とビジョンを透明性をもって共有することが、今回の最優先事項です。

第2に、MidnightがCardanoにもたらすあたらしい競争力について伝えることです。Midnightはまったくあたらしい次元を開きますが、そのためには既存のCardanoアプリケーションやインフラが、Midnightの機能を前提にアップグレードされる必要があります。「Cardano上で構築しているなら、Midnightを使ってほしい」という明確な呼びかけでもあります。

Midnightによって、プライバシーをはじめとする多くの新機能が手に入ります。だからこそ私は各地で、「Midnightとは何か」「なぜ存在するのか」「何を解決するのか」を説明して回っています。

第3に、Midnightは個人利用(リテール)だけでなく、国家や企業にとっても強力な基盤になり得るという点です。日本政府がDeFiを規制し、税務コンプライアンスを担保するためにも使えますし、日本企業がスマート・コンプライアンスや抽象化の仕組みを取り入れることもできます。

Midnightは、より広い層を支援できるユニークなプロダクトです。そのために私はツアーを行い、Midnight財団やパートナー・ディレクターとともに対話を続けています。伝統的金融とDeFiの世界をつなぐ、あたらしい可能性を提示するためです。

「すべての人にとって有用」でなければ意味がない

——今回、日本各地を回られています。TradFiとDeFiの距離を縮める狙いもあるのでしょうか。

ホスキンソン:それ以上に重要なのは、「すべての人にとって有用であること」です。ソニーやトヨタのためだけの技術では意味がありません。北海道の酒蔵、福岡の漁師、大阪の衣服メーカーにとっても役立つものでなければなりません。

GDPは、異なる産業、異なる生き方をする人々が協力して初めて成り立ちます。Midnightが提供するプライバシー、管理権、コンプライアンスは、医療、教育、製造など、あらゆる産業に応用できます。

国をツアーするということは、「すべて」をみるということです。都市部も地方も、裕福な場所もそうでない場所も、高齢者が多い地域も若者が多い地域も含めてです。

各地で人々の話を聞くと、「何を不安に思っているのか」「何を大切にしているのか」がみえてきます。それらの声を集め、コミュニティを築き、そのコミュニティがこの技術でビジネスを生み出せるようにしたいと考えています。

暗号資産は、価格が上下するだけの「トークン」だという評判を持たれてしまいました。しかし本質は違います。経済、政治、社会システムそのものに関わる技術です。

本気で理解するには、「暗号資産で一国をどう運営するのか?」という問いに向き合う必要があります。私の夢は、2035年までにCardanoとMidnightの上で、日本という国が動いている状態を実現することです。

地方にこそ、最も誠実なコミュニティがある

Charles image2

——今回のツアーで、特に印象に残った場所はありますか。

ホスキンソン:最も印象的だったのは北海道です。2メートルの大雪という過酷な状況のなかでも、人々は集まってくれました。3時間かけて危険な道を来てくれた人もいます。そこには規律と粘り強さがありました。

日本ではどうしても東京や大阪といった大都市に注目が集まりがちですが、それはとても残念なことです。地方には美しさがあり、誇りがあり、可能性があります。

たとえ5人でも50人でも、その場所へ行くことには意味があります。地元の人々は誇りを持っていて、話すたびに美味しい店を教えてくれます(笑)。そして私が最もワクワクするのは、「どうすれば地元経済を成長させられるか」という問いです。

雇用は、六本木の小さなアパートにいる開発者だけでなく、福岡や沖縄、北海道でも生まれなければなりません。テクノロジーはそれを可能にします。ブロックチェーンは「管理レイヤー」を提供し、移動せずにグローバル化することを可能にします。

私は人口50万人ほどのワイオミング州出身です。ほとんどの人はそこを通り過ぎるだけで、立ち寄りません。だからこそ、地方に足を運び、人々に会うことにはロマンがあります。最も誠実で、忠実で、有能な人々は、往々にしてそうした場所にいるのです。

——福岡もまた、独自の経済圏を持つパワフルな都市ですが、Midnightはこの街の企業や人々にどのような変化をもたらすのでしょうか。

ホスキンソン:ブロックチェーンの本質は、あたらしい技術そのものではなく、価値を生み出している人々の手に、経済の主導権を取り戻すことにあります。

私がこの6年間、Midnightを通じて取り組んできたのも、既存の企業や地域社会を置き換えたり壊したりすることではありません。長年にわたって事業を続けてきた地域の企業が、自らの価値を自ら定義し、守り、成長させていくための基盤をつくることです。

福岡には、商社、メーカー、流通、サービス業、観光、家族経営の企業など、世代を超えて築かれてきた実体のある経済があります。

一方で、金融、決済、信用、データといった重要な部分を、東京や海外の中央集権的な仕組みに依存せざるを得ない状況も続いてきました。

Midnightは、そうした依存を静かに緩めるために設計されています。所有権、契約、法令遵守、持続可能性、取引の正当性といったことを、元となるデータを開示することなく証明できる。

これにより、福岡の企業はプライバシーや取引先との関係を守りながら、世界と対等につながることが可能になります。

重要なのは「みせること」ではなく、「証明できること」です。Midnightは、プライバシーと規制対応を後付けではなく、設計の前提として組み込んでいます。これは理想論ではなく、地域の企業が現実に使えるための条件です。

私にとって、デジタル資産は投機や思想のためのものではありません。電気やインターネットのように、意識されることなく社会を支える静かなインフラであるべきだと考えています。

この基盤を通じて、福岡の企業は何かを失うのではなく、少しずつ主導権を取り戻していくことができます。

地域が自分たちの価値を、自分たちのルールで世界とつなぐ。私たちの調査では、福岡はそのモデルが最も自然に機能する都市の一つだと考えています。

Cardanoは「プロダクト」ではなく「文化」である

——チームと共に旅をすることで、彼らにどのような影響がありますか。

ホスキンソン:正直にいえば、非常に過酷です。私たちの活動スピードは速く、慣れていない人にとっては特殊部隊かロックスターのツアー並みに感じることでしょう(笑)。

それでも彼らは、このコミュニティの広がりを目の当たりにします。トークン価格だけをみれば、Cardanoにコミュニティがないようにみえるかもしれません。しかし実際には140万人のADAホルダーがいます。それは1つの「国」に匹敵する規模です。

どこへ行っても、10年分の歴史と文脈を持つ人々がいます。最終的に彼らは気づきます。Cardanoは単なるプロダクトではなく、「文化」なのだと。

ロゴのタトゥーを入れているアンバサダーもいます。Microsoftの製品で、ここまでのコミットメントを見ることはないでしょう。この強いアイデンティティこそが、私たちを支えています。

10年経っても、これだけ多くの人が集まってくれます。私たちは、きっと正しいことをしているのだと思います。

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
Side Banner
Side Banner
MAGAZINE
Iolite(アイオライト)Vol.18

Iolite(アイオライト)Vol.18

2026年3月号2026年01月30日発売

Interview Iolite FACE vol.18 Binance Japan 代表 千野剛司 PHOTO & INTERVIEW 申真衣 特集「Future Money ─価値移動の現在地─」「来たる暗号資産関連法改正」「IEOの実態」 Crypto Journey 「トレジャリーではない、イーサリアムの“エバンジェリスト”へ—— 「クシム」改め「HODL1」のDAT戦略の本質と覚悟」 、株式会社クシム代表取締役 田原弘貴 Interview 連載 「揺れる暗号資産相場を読み解く識者の視点」仮想NISHI 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等

MAGAZINE

Iolite(アイオライト)Vol.18

2026年3月号2026年01月30日発売
Interview Iolite FACE vol.18 Binance Japan 代表 千野剛司 PHOTO & INTERVIEW 申真衣 特集「Future Money ─価値移動の現在地─」「来たる暗号資産関連法改正」「IEOの実態」 Crypto Journey 「トレジャリーではない、イーサリアムの“エバンジェリスト”へ—— 「クシム」改め「HODL1」のDAT戦略の本質と覚悟」 、株式会社クシム代表取締役 田原弘貴 Interview 連載 「揺れる暗号資産相場を読み解く識者の視点」仮想NISHI 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等