イベント後半のセッションでは、Midnightが既存のブロックチェーン・エコシステムとどのように融合していくのか、そしてCardano本体が今後どのような進化を遂げようとしているのかが、複数の専門家によって語られた。
そこに共通していたのは、「置き換える」のではなく「拡張する」、「壊す」のではなく「成熟させる」という思想である。
Midnightは移行先ではなく「統合レイヤー」である
Midnight Foundationのスコット氏は、MidnightがCardanoの後継や競合ではないことを明確にした。
Midnightは、既存のエコシステムを置き換える存在ではなく、プライバシーという機能を付加する「拡張レイヤー」である。
Midnightの活用領域として挙げられたのは、プライバシー決済、医療データ管理、AIエージェントにおける機密情報の保護、さらにはプライバシーを担保した電子投票など、多岐にわたる。
重要なのは、既存のCardanoやEthereum、Solana上のアプリケーションを、Midnightへ移行(マイグレート)する必要がないという点である。
Midnightを統合(インテグレート)することで、現在稼働しているアプリケーションに、そのままプライバシー機能を追加できる設計となっている。
また、世界各地で活動するアンバサダーコミュニティ「Midnight Force」が、地域ごとの教育やコミュニティ形成を支えている点も紹介された。Midnightは、技術だけでなく、人のネットワークによっても拡張されつつある。
分散型ガバナンスは、すでに「実用段階」へ
続いて登壇したIntersectの代表は、Cardanoの分散型ガバナンスが理念ではなく、すでに実運用に入っていることを強調した。
2024年12月に承認されたCardano憲法に基づき、現在は実際の予算管理や意思決定がオンチェーンで行われている。
この憲法は「固定された文書」ではなく、進化し続ける「生きた憲法」として設計されている。
象徴的な事例として紹介されたのが、日本のコミュニティによる憲法修正案である。
日本のコミュニティメンバーが提案した初の修正案が承認され、Cardanoのルールそのものが、グローバルかつ分散的に更新された。
さらにMidnightも、Intersectの企業メンバーとして参画し、プライバシーおよびコンプライアンスに関する専門知識を、ガバナンス層へ提供している。
CardanoとMidnightは、技術面だけでなく、統治のレイヤーにおいても結びつきを強めている。
ノードの多様性がもたらす「止まらないネットワーク」

Blink LabsのCEOであるクリスティーナ氏は、Cardanoネットワークのもう1つの重要な特徴として、「ノード実装の多様性」を挙げた。
ブロックチェーンの歴史において、単一クライアントへの依存は大きなリスクとなってきた。
過去には、Ethereumが特定クライアントの脆弱性によって停止しかけた事例もある。しかし別のクライアントが稼働していたことで、最悪の事態は回避された。
Cardanoでは、Haskell製ノードだけに依存するのではなく、Rust(Amaru、Dolos)、Go(Dingo)、TypeScript(Giralamo、Scalus)、C++、C#など、多様なプログラミング言語によるノード実装が進められている。
この多様性により、特定の実装にバグが発生しても、ネットワーク全体が停止するリスクを回避できる。
同時に、エンジニアが自ら得意とする言語でCardanoに参加できる環境が整い、開発者層の裾野も広がっている。
Leiosがもたらす、スケーリングの質的転換

後半最大の注目を集めたのが、Cardano Coreのプロダクトマネージャーであるマイケル氏による、次世代スケーリング技術「Leios(レイオス)」の発表である。
現在のCardanoは、秒間10〜15件(TPS)の処理能力を持つ。
Leiosはこれを、2026年末までに50倍、最終的には100倍以上へと引き上げることを目標としている。
その仕組みは、従来の「一本の鎖」のようにブロックを直列につなぐ方式から脱却し、複数の「認証用ブロック(Endorsing Blocks)」によって並列処理を行う構造へと進化する点にある。
重要なのは、この高速化が分散性やセキュリティを犠牲にしない点である。
Cardanoがこれまで築いてきた分散性と安全性は、そのまま維持される。
Leiosのロードマップはすでに示されており、2026年上半期には1,000 TPSのデモンストレーション、続いてパブリックテストネットが開始され、年末にはメインネットへの実装が予定されている。
三すくみを超えるプロトコルへ

セッションの締めくくりとして、再びチャールズ・ホスキンソン氏が登壇し、Leiosの意義を総括した。
ブロックチェーンには、「高速化すれば中央集権的になる」「分散化すれば遅くなる」「両立すれば安全性が損なわれる」という、いわゆるトリレンマが存在すると長らく考えられてきた。
ホスキンソン氏は、Leiosがこの三すくみを解決する、コンピュータサイエンス史上初のプロトコルであると語る。
それは小さな改善ではなく、宇宙船が複数のバックアップシステムを持つように、何が起きても止まらず、かつ極限まで高速に動作するインフラを目指す試みである。
MidnightとCardanoは、プライバシー、ガバナンス、分散性、スケーラビリティという複数の課題を同時に解こうとしている。
福岡で語られたこれらの構想は、ブロックチェーンが次の段階へ進むための具体的な設計図であった。