
米中摩擦の激化と構造的対立の深化
2020年代に入ってからも、米国と中国の貿易摩擦は沈静化するどころか、より複雑化・戦略化の様相を強めている。関税の応酬を超え、半導体・AI・量子技術・5Gなど先端分野における技術覇権と経済安全保障が主要な対立軸となっている。
米国は同盟国と連携しつつ、対中依存の縮小や輸出規制の強化を進めており、中国は内製化と経済圏主導によって対抗姿勢を強めている。両国の対立は貿易の枠を超え、地政学的な戦略対立として長期化の様相を呈しているのだ。
半導体輸出規制と技術封じ込め
米国は2022年以降、中国に対して高度な半導体や製造装置の輸出を制限する政策を打ち出した。この規制は日本やオランダにも適用され、東京エレクトロンやASMLといった企業も対象となった。結果として、中国の先端技術開発を抑制しつつ、同盟国の企業には選択を迫る形となった。
テクノロジー分野での対立:TikTokとクラウド覇権
中国系アプリ「TikTok」に対する米国の排除政策は、単なるプライバシー問題を超え、デジタル覇権を巡る争いへと発展している。また、クラウドインフラにおける規制や投資制限も導入され、経済安全保障という文脈のなかで民間企業の活動が制約されている。
グリーン産業を巡る摩擦:IRA法の影響
米国が2022年に成立させた「インフレ抑制法(IRA)」により、EVや再生可能エネルギー関連の製品に対して米国内生産への補助金が導入された。これにより、日本・韓国・中国企業が不利益を被るとして、WTOへの提訴や外交交渉が行われている。
地政学リスクとしての貿易摩擦
米中対立は単なる経済問題ではなく、民主主義と権威主義の対立という地政学的要素も孕んでいる。このため、台湾問題、南シナ海、AI兵器開発などの分野でも摩擦が生じており、貿易だけでなく国際秩序全体に影響を及ぼしている。