CZ恩赦がもたらすBinanceの復権と日本展開強化の現実味

2025/10/25 10:00
八木 紀彰
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CZ恩赦がもたらすBinanceの復権と日本展開強化の現実味

Binanceとトランプ政権の再接近

トランプ大統領が、暗号資産(仮想通貨)取引所Binance(バイナンス)の創業者チャンポン・ジャオ(通称CZ)氏に対して恩赦を与えた。

バイデン政権下で有罪となった人物に対する政権復帰後の大統領恩赦。これは単なる個人の救済ではなく、米国の暗号資産政策が規制から振興へと舵を切っていることを示す象徴的な出来事ともいえるかもしれない。

恩赦の発表と同時に、CZ氏は「米国を暗号資産の首都にするため全力を尽くす」とXに投稿した。米国最大の取引所Coinbase(コインベース)との競争を再開し、Binanceがグローバル展開において再び中心に立つ日も遠くはないのかもしれない。

CZ氏は2023年にマネーロンダリング対策法違反で有罪となり、5,000万ドルの罰金と4ヵ月の禁錮刑が科された。Binanceも43億ドルの罰金を支払い、米国でのグローバル版の事業を事実上停止する措置を受けていた。

恩赦は「罰金の免除」ではなく、「有罪記録の抹消」が主とされるが、結果としてCZ氏及びBinanceが科された重荷を取り払うものであり、Binanceの米国市場復帰への道を大きく切り開く出来事だ。

具体的には、Binanceが世界各国で暗号資産ライセンスや銀行口座を再取得する際の障害も減少する見込みだ。現CEOのリチャード・テン氏も「信頼性、手数料削減、イノベーションに焦点を当てた次の章を構築する」と述べており、グローバルでの巻き返しに向けた動きが加速しつつある。

BINANCE image

今回の動きには、単なる政策転換を超えた政治的思惑も絡む。Binanceはトランプ大統領の一族が展開する暗号資産事業「World Liberty Financial(WLFI)」の主要支援者であり、戦略的に密接な関係にあるとされる。恩赦の背景には、業界団体からのロビー活動と同時に、Binanceとトランプ陣営の共闘体制があったとの指摘もあるようだ。

日本市場ではPayPayと連携、決済領域へ

Binanceの反攻の兆しは、日本でも波及している。2025年秋、日本法人Binance Japanが国内最大級のキャッシュレスアプリ・PayPayと資本業務提携を結んだ。

PayPayは国内ユーザー数7,000万人を超える圧倒的な決済インフラを持つ企業であり、そのネットワークとBinanceのブロックチェーン技術が組み合わされば、暗号資産の“日常化”が一気に進む可能性がある。

両社は、まずPayPay残高を用いてBinance Japanで暗号資産を売買できるようにする機能を導入予定としており、将来的には次のような展開も予想される。

暗号資産をPayPay経由でリアル店舗の決済に活用するサービスや、国内外の個人間送金におけるブロックチェーン活用、ステーブルコインとの連動によるインフレヘッジ型支払いインフラの開発などが予想される。

PayPayとの提携は、これまで“閉じた”存在だった暗号資産を、より多くの一般生活者が触れる機会のある領域へと昇華させる意味で重要な意義を持つ。

ユーザーが意識せずともブロックチェーンの恩恵を受けられる構造、あらたな金融体験が、日本でも現実のものとなる可能性がある。

BINANCE<>PayPay image

恩赦は“始まり”の合図となり得る

CZ氏への恩赦を巡っては、一部で「政治的な取引だ」といった批判も聞かれる。しかし、暗号資産業界が過去数年で直面した厳しい規制や検察の追及が、技術革新そのものを否定する結果になっていたこともまた事実だ。

イノベーションと規制は本来、矛盾する概念ではないはずであり、信頼を得るための透明性やAML/CFT対応は欠かせない一方で、過度な締め付けは国際競争力を削いでしまうだろう。

今後、Binanceが米国や日本市場で再び中心的役割を担えるかは、社会とのあらたな信頼関係をいかに築けるかにかかっていると思う。

PayPayとの協業のように、既存の社会インフラに溶け込む形での展開が進むのであれば、暗号資産は“未来の金融”として再び輝きを取り戻すことになると考える。

信頼されるテクノロジーとして何をすべきか、社会実装の責任とは何か。この“信頼の再構築”にどのように向き合い、どんな価値が創り出されるのかを注視していきたい。

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