ボールプールがお気に入りの娘。新品の浮き輪のような、化学的で少し刺激のある香りを嗅ぐと自身も幼少期に休日のボールプールが好きだったことを思い出す。子どもたちの歓声が響く休日のアスレチックブースには、カラフルな破片が足元に転がっている。足裏の鋭い痛みに驚いたがどこか懐かしい。「LEGOブロック」特有の小さな四角が放つ鈍い痛みは、まるで記憶のスイッチを押すボタンのようで、幼い頃、夢中で城を積み上げたひと時まで呼び覚ます。
この話は、今の私たちの仕事や暮らしにも通じるかもしれない。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった「VUCA」。もともとは米軍が冷戦後の不安定な国際情勢をあらわすために使い始めた用語のようだが、ビジネスの文脈ではグローバル化やデジタル化が急速に進み、あらゆる事象が連動して急速に変化する、これをVUCAという用語で整理されるようになった。
昨日の正解が今日には通用しなくなる。ブランドも、組織も、そして私たち自身も、少しずつ古び、かつての輝きを失っていく。一方で、裏付けされた美意識を持つ新陳代謝の良い“かたまり”は老いることを知らず輝き続ける。
時にはあえて立ち止まり、過去が作り出した現実と向き合う必要があるかもしれない。それは不意に踏んでしまったレゴのように、不快で、しかしどこか懐かしい感覚をもたらしてくれるだろう。
LEGOは今でこそ、世界中で愛されるブランドとして輝いているが、2000年代初頭には深刻な危機にあった。赤字は膨らみ、倒産の影が忍び寄っていたという。ラインナップを増やすことに注力するあまり、ブロックという原点から離れ、ブランドの輪郭がぼやけてしまったのだ。