
収益モデルは利用手数料ではなく準備金の運用利息に求めると明言している。ユーザーから預かった円資金を短期国債など安全資産で運用し利回りを得ることでビジネスが成立する仕組みだ。
近年の金利上昇もあり、このモデルは非常に合理的な手法といって良い。
代表の岡部氏は3年後に10兆円規模のJPYC発行残高を目標に掲げているが、金利が1%前後であれば3年後の目標とされる発行残高10兆円時に年間約1,000億円規模の収益が見込まれるという見立てだ。
現在、多様なプレーヤーがJPYCを活用したサービス展開を計画しており、発行残高10兆円は通過点となるだろう。
海外に目を向けるとステーブルコイン産業はすでに巨大利権となりつつある。
USDコイン(USDC)の発行元である米Circle社は2025年にニューヨーク証取へのIPOをはたし、約10.5億ドルの資金調達に成功した。USDCは10月末時点で時価総額11兆円超を誇り、準備金内訳の公開や月次レポートなど透明性の高さで信頼を築いている。
Circleの収益の大半は準備金利息によるもので、2025年第1四半期には約5.7億ドル(800億円弱)の利息収入を得たとの分析もある。
またJ.P.モルガンは独自の預金型トークン「JPMD」を開発し、Coinbaseのブロックチェーン上でUSD預金トークンのパイロット運用を開始した。
これまで社内で使われていたJPM Coinを進化させ、公的なネットワーク上で銀行預金をトークン化する試みであり、機関投資家向けに利息付きステーブルコインを提供する可能性も示唆されている。
国内では、みんなの銀行がSolana、Fireblocksらと提携し、ブロックチェーン上での円預金トークン発行やWeb3.0ウォレット連携の検証を進めている。
こうした銀行発の取り組みと、JPYCのような非銀行系モデルが並存・競争することで、日本のデジタル通貨インフラは多層的に発展していくだろう。
社会・業界への意義と課題
長らく現金と銀行預金が中心だった円の決済インフラに、民間発のデジタル通貨というあらたな選択肢が加わった意義は計り知れない。
利用者にとっては24時間即時決済や手数料ゼロといった利便性向上が期待でき、スタートアップから大企業まで幅広いプレーヤーが同一のプラットフォーム上で金融サービスを構築できる「オープンなインフラ」が整ったことになる。
これは従来の閉鎖的な決済網とは異なり、イノベーションの土台として機能する可能性を秘めている。
岡部氏が強調するように、重要なのはJPYCそのものではなく「その上で何が生み出されるか」であり、すでに複数の企業が具体的ユースケースを模索し始めている現状は明るい兆しだ。
たとえば、企業間の大口決済を夜間・即時に行うことで資金繰り効率を上げるB2B決済、AIエージェント同士のやり取りで利用される未来も考え得る。
そのほか、海外送金や貿易決済を中継銀行なしで直接完了させることで、大幅にコスト削減できる国際送金、不動産売買や証券決済への応用(決済資金をトークン化し即時に引き渡せる優位性)など、ステーブルコインのユースケース拡大は社会全体の経済活動を効率化しうる。
銀行の送金インフラが公的休業日に止まるという課題も、JPYCのような電子決済手段が普及すれば“止まらない決済”が当たり前になるだろう。
もっとも、一般ユーザーへの浸透は課題として残されている。先日J-CAMにおいて行ったアンケート調査によれば、日本国内で暗号資産投資を行っているユーザーであっても、保有・利用している層は3割にとどまるというデータもある。
JPYCは非カストディ型でユーザー自身が秘密鍵を管理する必要があるため、リテラシーの低い層にはハードルが高いことが予想される。
また、信頼性と規制対応においても長らく向き合うことになりそうだ。
米Circle社が毎月の準備金明細を公開し公認会計士の証明を受けているように、日本発のステーブルコインも情報開示によって信頼醸成を図る必要がある。
JPYCは、黎明期の日本のWeb3.0経済に大きな実験の場を提供した。
今後、技術革新と制度整備の両輪を回しながら、JPYCが本当に社会の基本インフラとして根付くのか。デジタル円の未来像を占うこの挑戦を注視していきたい。

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