
かつて時価総額500億円規模に達したともされるステーブルコイン・USDXが、突然1ドルの価値を失い、0.37ドルまで急落するディペッグを起こした。安定を標榜するトークンから信頼が失われた時、暗号資産(仮想通貨)業界には何が起こるのか。本事件は、DeFiにおけるステーブルコイン設計の難しさと信頼性の脆さを浮き彫りにしているのかもしれない。
ステーブルコインの雄であるUSDTは11月7日執筆時点で30兆円弱の時価総額を持つことを考えると、USDXの規模感とその影響は限定的とも取ることができるが、複数のDeFiプラットフォームで担保として利用されていた事実はある。11月初頭に急速にペッグを喪失し、6日には一時0.37ドルまで下落した。
この暴落の背景には、創設者Flex Yang氏に関連するとされるウォレットがUSDXを担保に、複数のレンディングプロトコルからほかのステーブルコインを大量に借り出して流動性を枯渇させた疑いがある。借り手は返済を行わず、複数の貸付プールから資金を引き抜いたとされる。
こうした事態を受け、Lista DAOは11月6日に緊急ガバナンス投票を実施し、問題のUSDX担保ローンを強制清算する決定を下した。投票は全会一致で可決され、流動性管理者のRe7 LabsやMEV Capitalと協力してオラクル価格を調整し、該当ポジションの清算を実行した。
PancakeSwapもユーザーに注意喚起を行い、関連プールの監視を強化しているようだ。こうした迅速な対応により、巨額の未返済債務による預け手への波及被害はひとまず抑制された。
USDXは暗号資産のロング・ショート戦略で価値を1ドルに維持する合成型ステーブルコインであり、そうした複雑なヘッジ機構は極端な市場変動下で機能不全に陥るおそれがある。11月3日に発生したBalancer(バランサー)からの約1億ドル流出時、USDXの裏付けポジションに損失が生じ、償還要求の殺到でペッグ崩壊に至った可能性が指摘されている。
この危機に際し、USDXを担保にほかのステーブルコインを借り入れる動きが目立ったのはなぜなのか。背景にはUSDX暴落を見越したヘッジや利得確保の意図があったと推察される。
実際、Yang氏に関連するアドレスはUSDXを担保に複数のDeFi貸付市場でほかのステーブルコインを借り入れ、得た資金を即座に外部取引所に送金していたといわれている。限度額まで借り出し、残るUSDXはPancakeSwapでUSDTに交換するという徹底ぶりだったようだ。利払いコストを度外視して資金を確保し、最終的な損失をプロトコルに負わせる狙いがあったとも解釈できる。