Web3.0

機関投資家向けカストディアンとして世界最大規模を誇るCopper社ー柴山貴俊インタビュー

2024/09/29ナガトモヒロキ
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機関投資家向けカストディアンとして世界最大規模を誇るCopper社ー柴山貴俊インタビュー

機関投資家向けカストディアンの最高峰が注視する領域と切り開くイノベーションとは─。今回、コパ(Copper)社のアジア地域ヘッドディレクターである柴山貴俊氏へのインタビューを通じて、同社の成長戦略と未来の展望から業界の今を掘り下げていく。

先月、東京で開催された国内最大級のWeb3.0のカンファレンスである「WebX」で、私が携わるBitLendingも2日間会場でブースを構えさまざまな方と交流をさせていただいた。来場者の印象としては業界関係者ではなく、一般の方も多かったように思う。学生の方や外国の方も多く見受けられた。

偶然ブースで声をかけられて立ち話をしたマダムが、SECにビットコインETFの申請を行った企業の1つである某米国の資産管理会社のトップだったのは、のちに見覚えのある顔がトークセッションに登壇していたことで知ることとなった。

熱狂は肌でしか感じられない。初めて会場へ行かれた方はディズニーランドに迷い込んだような高揚感と、なんだかすごそうなイノベーションの幕開けに対する期待感を抱いたのではないだろうか。これが国内のWeb3.0の現在地と思っていただいて間違いではない。しかし、これはまだ伸びしろ段階であることをここで強調させていただきたい。

一方で世界に目を向けると、世界最大規模のWeb3.0カンファレンスと名高い「TOKEN2049」は来場者、出展者、ともに少なく見積もっても日本の倍以上の規模感はあるだろう。この違いはシンプルにマーケットの違いに起因すると私は思う。

Web3.0領域のプロダクトだからといってグローバルにNo Borderで拡大できると思いきや現実はそう簡単ではない。欧米、アジア、中東など地域ごとに国の規制も異なればユーザーの性質、需給バランス、トレンドなど分野ごとのエコシステム1つとっても状況は異なる。

BinanceやCoinbase、Bybitなど世界トップの取引所がWebXに出展していないのはそういう事情もあるだろう。これと同じことがたとえば、決済、不動産、セキュリティ、金融サービス、ゲーム、NFTなど各領域でいえる。

それを踏まえると日本はまさに陸の孤島なのだ。ガラパゴス化とはまさにこのことで、日本のプロダクトにとってはデジャヴでしかない。国内で独自路線を築きながらも一方ではグローバル展開を見据えて、海外の競合に対して遅れが出ないようある程度の国際標準化も考えていかねばならない。せめて税制面だけでも足並みが揃えば良いなんて考えてからもう何年経つだろうか。

WebXは来年も同じ日に同じ会場での開催が決まっているとのことだが、こういう大規模なイベントは我々業界従事者にとっては大きなマイルストーンとなる。来年の今、どうなっていたいか。そもそも生き残っているのか。来場者数、出展者数、少なからず今回よりさまざまな面でのアップグレードが求められる。

出展するプロジェクト側も出展者や広告主を集める主催者側もこの1年、予想外にハードな戦いを強いられることになるだろう。まだまだ首の皮一枚の状態という危機感を持ちながら生きているのはきっと私だけではない。それだけあたらしい業界でご飯を食べていくというのは大変なことなのである。

今回のテーマは「カストディアン(Custodian)」について。おそらくほとんどの読者の皆様には聞き慣れない言葉だろう。カストディ(Custody)とは、金融の文脈では、金融資産の保管及び管理を行うサービスのことを指す。カストディアンは、顧客の資産を安全に保管し、取引の決済、資産の管理、記録の維持、報告などの関連サービスを提供する役割を担う事業者のことである。

暗号資産業界が成熟する為にはプレイヤーの増加が1つのカギとなる。昨今、ビットコイン現物ETFの流入、流出に対してマーケットが敏感に反応しているように、BlackRockなど伝統金融の巨人たちがさまざまな形で参入してくることが絶対条件といえる。

今回クローズアップするのは、機関投資家向けのカストディアンとして世界最大規模を誇るCopper(以下、コパ)社。彼らはハッキングや盗難リスクなどを回避した安全な資産保管サービス、マーケットでの取引や決済を効率的に行うためのインフラサービスを提供しているが、それだけではなく暗号資産の普及をさらに促進するためにあらたな取り組みを進めている。

今回、コパ社のアジア地域ヘッドディレクターである柴山貴俊氏へのインタビューを通じて、同社の成長戦略と未来の展望から業界の今を掘り下げていく。

業界のさまざまな側面をみてともに歩んできた豊富な“経験値”が武器となり機関投資家から支持を集める

ナガトモ:韓国ブロックチェーンウィークでの登壇、お疲れ様でした。早速ですが、まずは柴山さんの経歴からお聞かせください。

柴山:ありがとうございます。私はもともと投資銀行の出身で、投資銀行のなかでも、いわゆる自己勘定で取引をしているような部署にいました。そこで不良債権やクレジット系の投資をしていたのですが、2008年にリーマン・ショックがあってからはヘッジファンドに移りました。2009年からはアジアのディストレスト(Distressed Investing)とハイイールド投資(High-Yield Investing)をやっていました。

最初シンガポールで3年、米国のヘッジファンドのデイビットソン・ケンプナー(Davidson Kempner Capital Management)に移って香港で3年、2015年にシンガポールに戻ってきて友人と「3D Investment Partners」というヘッジファンドを立ち上げて、日本の株に対してバリュー投資をしていました。ざっくり20年ほど投資業務を行い、そこからブロックチェーンの業界に入った感じです。

ナガトモ:暗号資産に興味を持ち始めたのはいつ頃でしたか?

柴山:3D Investment Partnersを立ち上げて3年くらい経った2018年頃に会社が10億ドルくらいのAUMになったのですが、その頃からブロックチェーン領域に興味を持ち始めました。

個人的には2016年からビットコインには投資していたのですが、2018年くらいになると暗号資産業界にもいろいろな会社が立ち上がり始めたことで、あたらしい業界をゼロから作っていくというのも面白そうだなと思い、ヘッジファンドは友人に任して暗号資産の業界に入りました。

ナガトモ:コパで働き始めたきっかけは何でしたか?

柴山:実はCopperに入る前に1つストーリーがありまして、最初ブロックチェーンをエンタープライズでどのように作っていくか考えるのも面白そうだと思い、個人でプロジェクトを立ち上げました。当時、日本の会社にもサポートしてもらってシンガポールの会社に対してブロックチェーンシステムを作っていたんですけども、コロナになってこれらの案件も全部なくなってしまいました。

そんなさなかに、たまたま友人でコパのアドバイザーをしていた人がいまして、彼に「コパがアジア市場に参入したいから会ってくれないか」といわれました。それがきっかけでコパに入ったのが2021年の話です。

ナガトモ:ありがとうございます。コパとはどのような会社か聞かせてください。

柴山:コパは2018年1月に英国で設立された会社で、最初は5名ほどで始めた会社なんです。もともとの立ち上げ経緯としては、創業者がさまざまな取引所が事件や事故で潰れていく様子をみていて、機関投資家と話しながらどういうカストディサービスなら資産を安全に保全できるのかということを考えて作り出された会社がコパになります。

弊社の主力商品であるクリアループ(ClearLoop:取引所での即時決済と資産のセキュリティを両立することで、投資家がより安全かつ迅速に取引を行えるようサポートするプロダクト)は機関投資家の皆様から支持されておりますが、このクリアループが最初からあったわけではありません。いずれそういうプロダクトを作ろうというビジョンのもと最初にベースとして資産を安全にさまざまな所に送ることができるFireblocksのようなカストディサービスのシステムを作ることから始まりました。

クリアループがスタートしたのは2020年6月なので、もう4年以上経ちます。結構長い間やっているのですが、この期間、実はつながっていた取引所が潰れたこともありました。それでも我々はお客様の資産を安全に守ることができました。

最近ではカストディアン同業他社でもクリアループのようなプロダクトができてきているのですが、どのプロダクトもマーケットサイクルまではまだ経験していないと思います。その点では、実際我々は2周ほどサイクルを経験しているのでこの経験価値は非常に大きいです。コパが機関投資家から支持されている大きな理由にこの経験値は間違いなく入ってくると思います。

ナガトモ:私も業界の友人たちからコパが世界で最大規模のカストディアンで、経験も豊富だと評判を聞くのですが、柴山さんからみて世界ナンバーワンのカストディアンはどこだと思いますか?

柴山:難しい質問ですね。カストディアンのなかでもターゲットにしている顧客のタイプがそれぞれ違うと思います。たとえば米国のBitGoや英国のZodia及びKOMAINUというのは、基本的には資産を預かって保管するのがベースの会社なので、クリアループのような商品はありません。

そういう意味ではたとえばBitGoは大きな会社であるため、お客様の層もリテールからクリプト系のプロジェクトまで幅広くカバーしていると思いますし、米国に拠点を構えているのでBlackRockなどとのリレーションもあるとすれば、それなりの資産規模にはなってくるのではないかなと思います。

ほかのタイプとしては取引所に併設しているカストディアンというのもあります。たとえばCoinbaseとかBinanceの「CEFU」などがあげられます。もともとカストディというのは取引所に含まれたビジネスだったのですが、それを別に切り離して機関投資家向けサービスとして提供し始めたものです。

あとはFireblocksのようにウォレットを提供するだけの会社というのもありますね。今話しただけでもわかると思いますが、皆さん狙っているところが結構違うので

一概にここが1番大きいとかはなかなかいいづらい部分はあります。同じカストディアンでもやっている内容とターゲットにしている顧客層が違うという意味です。我々に関してはリテール向けではなく機関投資家向けのサービスを提供しているので、そのマーケットではおそらく1番大きい規模だと思います。

主力商品クリアループで2つのアイデアを実現しこれまでにクリプトに触れてこなかった多くの投資家を取り込んでいく

ナガトモ:コパにおいて最近アップデートした部分を聞かせてください。

柴山:弊社のプロダクトで最もよく知られているのがクリアループです。簡単に説明すると、取引所の破綻やハッキングなどのリスクを回避することができるプロダクトなのですが、このクリアループをさらに進化させ、あらたなプロダクトを作ることを目指し、去年から試行錯誤を重ねてきました。その結果、2つのアイデアを形にすることができました。

1つ目は、去年「Copper Security」という会社をアブダビで設立したのですが、この会社で証券業ライセンスを取得しました。どうやったら伝統的な機関投資家をクリプトのなかに取り込めるかということを考えてたのですが、たとえば最近セキュリティトークンとかRWA(現実資産)トークンというのはよく話に出ているかと思うんですけども、Tビルトークン(Treasury Bill:米国財務省短期証券)やマネーマーケットファンド(MMF)を担保にDeribit(オランダ拠点の暗号資産デリバティブ取引所)などでオプション投資をできないかということをインフラでずっと作っていたんですね、おそらく今年10月ぐらいに許可が出てサービスを開始することが可能になると思うのですが、第1号としては、たとえばそのTビルトークンなどを担保にCopper Securiyで担保を保有して、クリアループを使って資産自体をDeribitに送らずに、同じバリューを担保に投資家がイニシャルマージンとして使えるようになるというものです。

USドルマージン(米ドル建て証拠金)のようなものですね。そうすると、今までクリプトに触れなかった投資家も参入することが可能になりますし、たとえばそのTビルトークンが4〜5%の年利で回っているのであれば、今まではUSDTとかUSDCを使って0% だったものが、プラス4〜5%リターンとして叩き出せます。これは我々のお客様からもリリースを期待するお声をいただくので、今年の大きなニュースの1つになるのではないかと思います。

ナガトモ:ありがとうございます。2つ目のアイデアも教えてください。

柴山:2つ目は、機関投資家向けのレンディングです。こちらはすでにエージェンシーレンディングというパッケージでリリースしています。どういったものかというと、たとえば資産を多く持っている人たちがこれをレンディングで利用したいとします。通常レンディングをする場合は、貸し出ししたトークンを借り手がどこかの取引所で取引をする形になりますが、取引所が潰れてしまった場合、資産はなくなってしまいます。

そこで、エージェンシーレンディングを利用すれば取引所の破綻リスクだけではなく、ハッキングリスクもカバーできるというわけです。あとは、ドル建ステーブルコインやビットコイン、イーサリアムなど、クリプトを担保にレンディングするというプログラムも開始しておりまして、こちらは現在何社かでパイロット運用しているところです。

Copper Securityは伝統金融を巻き込むことで流動性と時価総額を高めていくための布石として存在

ナガトモ:クリアループ内で完結できるようなレンディングのプロダクトができれば大口の機関投資家も安心して資金を運用することができますね。続きまして日本のカストディ事情について柴山さんの意見を聞かせてください。

柴山:日本のカストディアンのシステムに詳しいわけではありませんが、友人の話などを聞くと、特に日本から出ていくほどのプロダクトがあるかどうかはわからないという印象です。私も日本でコパを売りに行こうと思っていたのですが、そもそも日本には機関投資家がいないので、売りに行ってもしょうがないと考えています。そのため、我々は日本のマーケットはみていないです。

日本のカストディの需要を考えると、日本ではロングオンリーでクリプトを保有するお客様しかいないと思うので、それ以上のプロダクトを成長させるのは難しいのではないかと思います。

ナガトモ:日本に機関投資家がいない原因は何だと思いますか?

柴山:1つは税金が高いということですね。2つ目はアセットマネージャー(資産運用管理会社)がクリプトに参入するハードルが高いのではないかと思います。この部分はマーケットによりけりですね。アジア、欧米諸国でも性質は大きく異なりますので、日本の状況はまた特異な部分があると思います。

ナガトモ:今回コパがアブダビに証券業ライセンスを取得した新会社を設立したこということは、今後中東での展開に力を入れていくのでしょうか?

柴山:そうですね。なぜCopper Securityをアブダビでやり始めたかというと、クリプトだけでやっていくのは今後の広がりが見込めないからです。あたらしいヘッジファンドやトレーディングファームが加速度的に設立されている状況でしたら話は変わってきますが、プレイヤーはそんなに多くはありません。

もっといろいろなプレイヤー、伝統金融などを巻き込んでクリプトのなかに入れようということで、我々はCopper Securityを始めました。そういう動きをしていかないと流動性も増えないですし、時価総額も大きくなっていかないのでそのための布石が必要だと考えました。

日々利用するプロダクトの裏側で支える役割を担う未来の金融エコシステムに必要なインフラとして業界をリードしていく

ナガトモ:中東の伝統金融や規制当局について柴山さんはどのような印象をお持ちですか?

柴山:アブダビやドバイの銀行などは結構興味があるみたいですね。彼らが直接投資をするわけではないのですが、我々のプロダクトに間接的に関わって行きたいという声もいただいています。

ナガトモ:私が関わるBitLendingもコパのクリアループを利用しています。リテール向けレンディングプラットホームとしては世界初となるのですが、我々のお客様からもとても好評いただいております。業界の成熟にセキュリティ部分でのイノベーションは必須だと感じています。

柴山:弊社のカストディサービスはリテール向けではないので、読者様のなかにはピンと来ない方もいるかもしれませんが、まずは皆様が日々使っているプロダクトの裏側ではこのようなシステムが機能していること、資産を安全に守る会社が存在するということを知ってもらえればうれしいです。

先ほどお話ししたように、今後我々としては伝統金融の大きなプレイヤーをクリプトにいかに巻き込んでいくかが課題となります。その為にはいろいろな形で運用ができるように幅を広げること、そして時代の変化にあわせてあたらしい取引手法も模索していくことが重要だと考えています。未来の金融のエコシステムに必要不可欠なインフラとして業界をリードできればうれしいですね。

▶クリアループは複数の取引所を1つの取引ループに接続し、リアルタイム決済を可能にする機関投 資家サービス。取引の直前までコパのなかで資産が保全されているため、安全性も担保されている。


Profile

柴山貴俊 Takatoshi Shibayama

Head of Revenue, APAC Copper.co

暗号資産のプライム及びカストディサービスであるCopper.coのAPAC収益責任者。JPモルガンやゴールドマンサックスなどの投資銀行でキャリアをスタートし、その後、米国のヘッジファンドであるDavidson Kempner Capital Managementに入社。その後、運用資産約10億米ドルの3D Investment Partnersをシンガポールで共同設立。


コラムニスト

ナガトモヒロキ Hiroki Nagatomo

JADE VENTURES Founder,J-CAM MIDDLE EAST COO

1988年生まれ。横浜市立大学在学時に起業。大手通信キャリアのセールスプロモーションを主軸に人材派遣会社や飲食店など事業を複数展開。2018年事業譲渡後、ヨーロッパを中心に30カ国以上を渡航。

グルメ、ライフスタイル、社交など文化的交流を重ねるなかで海外富裕層が暗号資産に注目していることを知る。後にJ-CAM代表である新津氏との出会いがきっかけで2022年web3.0時代の資産形成プラットフォーム「Bit Lending」を立ち上げる。常識を覆す革新的なアイデアでクリプトレンディングの業界水準を上げ多くのユーザーから支持を得ている。

現在はドバイに在住し、独自のネットワークとフットワークを武器にグローバル企業のBizDev領域で多くのビジネスに貢献しながら、コラムニストとしても業界の著名人へ取材活動を行っている。


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