暗号資産Web3.0

世界No.1取引所を目指すBybitの成長戦略とは —— ベン・チョウ共同創設者兼CEOインタビュー

2024/11/28ナガトモヒロキ
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世界No.1取引所を目指すBybitの成長戦略とは —— ベン・チョウ共同創設者兼CEOインタビュー

カンファレンスで現在地を再確認し未来に照準を定める

クリプトジャーニーの連載を初めて約3年、これまで大小さまざまなカンファレンスに参加してきたが、私のなかでやはりTOKEN2049 in Singaporeだけは特別なイベントである。毎年9月中旬の1週間はシンガポールに滞在するルーティーンになっている業界人も多いのではないだろうか。

私の場合、面白いことに毎年違った学びや収穫や出会いがあり、自身の現在地を確認しつつ未来をロックオンする非常によい機会となっている。そもそもこのイベント自体、年々成長しているので数多くのリソースが世界中から集まる流れができているのは間違いない。

今年は昨年より出店ブースの数が明らかに激増していた。マリーナベイサンズのコンベンションセンターのワンフロア分、エリアを拡張していた様子をみても察しがつくだろう。このようなイベントへの出展企業が多いということは、それだけ業界が元気な証拠でもある。

今年の日本勢のトークセッションの登壇者は、以前私も本誌で対談をさせていただいたCega Financeの豊崎亜里紗氏。DeFiレンディングで業界をリードする彼女らのプロジェクトは更にTVLを増加させていた。

タイミングよくカフェをする機会もあったので近況を聞かせていただいたがとても学びの多い刺激的な時間だった。彼女以外にもAstarでお馴染みStake Technologies の渡辺創太氏も昨年に引き続き登壇していた。

このようなイベントは何も業界人だけが参加できるわけではない。チケットさえ買えば誰でも参加可能だ。クリプトの未来を信じるクリプトラバーの方々は是非訪れて欲しい。

期間中はサイドイベントも各地で開催されるので刺激的なクリプトツーリズム体験ができるだろう。もしかしたらあなたも会場でイーサリアムのファウンダーであるヴィタリック氏に会えるかもしれない。あなたが思っているより彼は身長がとても高い。

さて、今回対談させていただいた相手は世界Top2の取引所として名高いBybitのFounderであるBen氏。ついにクリプトジャーニーも業界のビッグネームにまで辿り着いたのかと感慨深い気持ちになる。

有象無象の暗号資産業界で2018年に創業した彼らが、この短期間でいかにして世界トップクラスの暗号資産取引所の地位を確立したのか。そしてどのような未来をみているのか。楽しんでもらえたらと思う。

世界トップクラスの取引所Bybitが急成長を遂げた理由

ナガトモ:どのようなことがきっかけでBybitを創業することになったのですか?

ベン:私はとてもラッキーでした。Bybitを創業する前に、XMという外国為替の取引所にいました。今では有名な企業ですが私が参加した2010年当時は創業期で有名でもなく、私は7番目か8番目のスタッフとして入社し、中国のジェネラルマネージャーとして6~7年働きました。

2017年にICOバブルなどの影響で暗号資産について知ることとなったのですが、将来この業界は今よりもっと大きなものになる確信がありました。その後、Bybitを創業することになった大きなきっかけは、自分自身が暗号資産のトレーダーとして活動していた時の経験です。

当時、取引所はいくつかあったものの、選択の幅も少なく、使い勝手のよいシステムを提供している取引所はありませんでした。市場が動いたり、BTCが大きく動くたびにシステムが停止することもよくありました。

私がBybitを創業したのは単に顧客(ユーザー)にもっとよい取引経験を提供したかったからです。当時、外国為替取引で当たり前にできることが暗号資産取引ではできませんでした。

ナガトモ:世界Topの取引所を経営しているベンさんは世界中を飛び回っており多忙を極めていると思いますが、休みの日はどのようにすごしていますか?

ベン:スポーツをしたりジムで体を鍛えたりしています。テニスもしますし、冬は家族を連れてスキーやスノーボードをしにニセコに行きます。週末は取引先が訪ねてくるので会食や飲みに行くことも多いです。

ナガトモ:ベンさんの趣味や最近個人的にハマっていることがあれば教えてください。

ベン:ここ数年はウエイクボードにハマってます。シンガポールは川がないので基本的には海で楽しみます。マレーシアとの境目によいポイントがあるので週末に船を出して仲間と楽しむことも多いです。

ナガトモ:Bybitがここまで大きく成長した最も大きなターニングポイントを教えてください。

ベン:2021年の年末がターニングポイントだったと思います。我々は2018年から2021年まではデリバティブに特化した取引所を運営していました。パーペチュアル契約やインバース契約などです。

日本人もレバレッジ取引が好きですよね。2021年末にWeb3.0というあたらしい言葉、概念が登場したことで我々は暗号資産が単なるデジタル通貨ではないとうことに気付きました。どうすればもっとBybitを大きく成長できるのか、チームと毎日考えました。

たとえば暗号資産取引所に新規で入ってくるユーザーが100名いるとしたら、トレーダーはそのうちの5名ほどでしょう。大多数の人たちは現物取引やそのほかのものを好みます。我々が取引所として拡大し続けるにはトレーダー以外のユーザーによい体験を提供できるサービスの構築が必要でした。

現在提供しているSpot、Fiat、Earn、Bybitカード、などは2021年の年末に決断した追加サービスでした。これはとても大きな決断であり難しい決断でした。しかしその決断が今のBybitの成長につながっていると思います。

ナガトモ:世界Topの取引所としての地位を確立する為に特に重視している戦略や差別化ポイントがあれば教えてください。

ベン:実行力と効率性です。我々は決断してから実行するまでとても早い組織です。あたらしくほかの取引所からBybitに来たシニアマネージャーからのフィードバックを聞いてもBybitの実行スピードには驚いています。今日決めたことが明日にはスタートするようなスピード感です。

あたらしいプロダクトについてもチームでの議論を行いオンラインに公開するまで通常2-3週間で完結します。暗号資産業界は現在も急成長しており、あたらしいことが次々に起こります。つい最近はミームコインが流行りました。その前はNFTが流行りました。

我々は世界Topの取引所として業界で最も話題になっているものは何なのかを常に最初にキャッチアップすることが求められます。このように、我々がスピード感を持ってさまざまなアイデアを実行するからこそユーザーが集まってくると考えています。

戦略の部分でいえばKOLマーケティングもその一環です。Red Bull Racing(F1)のスポンサードやそのほかの取り組みを行っていますが、結論、何より重要なものはチームの迅速な動きです。

▶出典:Digital PR Platform

ナガトモ:次は規制についてのお話しです。今Bybitはリトアニア、キプロス、オーストラリア、ニュージーランド、カザフスタン、UAE、オランダ、モーリシャス、ケイマン諸島でライセンスを取得されておりますが、今後展開を狙っている国はどちらですか?

ベン:今後はヨーロッパ、インド、南アフリカ、マレーシア、ナイジェリア、インドネシア、香港、台湾でのライセンス取得を実行していきます。

ナガトモ:これらの地域で特に注目している場所はどこですか?

ベン:今1番注力しているのはヨーロッパです。ヨーロッパは世界のどの取引所にとっても非常に大きなマーケットです。ですので現在ヨーロッパの暗号資産規制をしているMiCAやMiFIDなどのライセンスの取得を進めています。

ナガトモ:欧州内のいくつかの国ですでにライセンスを取得しているにもかかわらず、ほかの欧州の国でもライセンスを取得するのはなぜですか?

ベン:我々はスピード感を持ってMiCAライセンスを取得したいので、規制当局を選ぶ際にはチームやインフラが整っていることが最低条件になります。早くライセンスを取得できるということはそれだけライバルとの差別化ができることになります。そのため、私たちはさまざまな国の規制当局(MiCA チーム)と議論を重ねました

ナガトモ:ヨーロッパでは暗号資産の市場規則であるMiCAが段階的に始まりますが、この規制の動きは業界にどのような影響をもたらすと考えていますか?

ベン:これは非常に大きな影響を与えると思います。なぜなら、これまではヨーロッパの各国それぞれの国の規制にあわせたWebサイトを作り、ルールに則って運営を行わなければならない状況だったのでとても大変でした。

ですが、MiCAライセンスですべてがひとつにまとまれば、どの国でもルールが統一されるので運営がとてもやりやすくなります。さらに、MiCAライセンスを取得した場合には銀行との接続も可能になる為、より多くのユーザーが国を跨いで流入することになるでしょう。我々の場合、「Bybit.eu」ですべてが一元管理できることは大きなメリットです。

このように、よい面もあれば悪い面もありますが、間違いなくいえるのは多くのユーザーがオンボーディングできるようになるということです。

今年の相場は需要と資金が機関投資家からきている証拠

ナガトモ:Bybitの進出予定国のリストに日本はありませんでしたが、ベンさんは日本のマーケットについてどのようにみていますか?

ベン:日本は非常に興味深い市場です。現在のデータからもわかる通り、日本はデリバティブが中心の市場です。Bybitのデリバティブ商品は常に世界2位であり、最近提供された商品ポートフォリオにより、すべてのトレーダーに愛されています。

もちろん、日本のエージェントとも協力し、ライセンス取得について議論をしていますが、どのような結果になるかはまだ途中段階です。

ナガトモ:現在、日本の暗号資産のユーザーは人口の5%未満といわれていますが、これはとても少ない数字だと思います。

ベン:日本は外国為替取引が非常に盛んなので、その意味では日本は強力な市場だと思います。

ナガトモ:最近ではブラックロックなどの伝統金融が暗号資産市場に参入してきており、既存のプレイヤーも伝統金融を暗号資産市場に巻き込もうと必死です。その意味ではBybitは今後、伝統金融の会社と事業提携を行う可能性はあるのでしょうか?

ベン:我々はすでに機関投資家と提携してビジネスを進めております。彼らはBybitで直接BTCやETHのオーダーを入れて買っています。Bybitが成長している理由の1つは、多くの機関投資家を抱えている点にあるでしょう。そのおかげもあって豊富な流動性を維持できています。

今年の1月から現在まで、強気相場が続いていますが、これは機関投資家が牽引していることがわかります。2021年当時の強気相場はアルトコインが先に上昇し、ビットコインが後に続く展開でしたが、今年はビットコインが先に上昇し、アルトコインが後に続く展開となっています。これは需要と資金が機関投資家から来ている証拠になります。

我々は世界中の非常に大きな機関投資家を直接オンボーディングしていますが、同時にブラックロックのような機関投資家の注文を受け、取引所に分配するブローカーも存在します。

以前に比べて市場の動きや資金の流れがみえやすくなりましたが、この流れは非常によい傾向だと思います。なぜなら、だれでもETFを購入して簡単に暗号資産市場に投資をすることができるからです。

Web3.0へのゲートウェイであることが暗号資産業界での取引所の立ち位置

ナガトモ:BinanceのCEFUやCoinbaseのコインベース・カストディ・トラストカンパニーなど世界Topの取引所は自社でカストディサービスを展開しております。Bybitが自社でカストディサービスを行わない理由を教えてください。

ベン:たとえば我々がカストディアンを始めた場合、Bybitを信頼していないユーザーは安心するでしょうか?Binanceは業界でNo.1ですし、彼らと取引をしたいのなら彼らのカストディアンを使わざるを得ません。

これは信用の問題ではなく規模と事業開始時期の問題です。Coinbaseに関しても同じです。彼らは投資家にカストディを提供していることを安心材料にしているのです。しかし、カストディアンはサードパーティでないと意味を成さないと私は思います。

将来的にはサードパーティのカストディが主流になると思います。Bybitの場合はCopperやFireblocksなどサードパーティのカストディアンを活用しております。

ナガトモ:ベンさんが思う世界No1の取引所の定義とは何ですか?たとえばユーザー数、流動性、銘柄の数など。

ベン:ユーザー数が最も重要だと思います。Web3.0領域、暗号資産業界での取引所の立ち位置は、Web3.0へのゲートウェイです。私が常にチームに伝えているのはどれだけ多くの人をWeb3.0にオンボードしているのか、暗号資産を保有し始めるお手伝いをしているのか、ということです。

ナガトモ:世界No.1の取引所になるためにどのようなアイデアや戦略をお持ちですか?

ベン:我々の目標は世界最大のユーザー数を持つことです。我々は取引所としての役割を明確に定義しています。たとえるならロンドン、上海、ニューヨーク、東京など各都市へとつながるインフラを整備しそこへ人々を導く役割だと考えております。我々自体がこれらの都市になるのではありません。

ここでいうロンドン、上海などの都市はTONやソラナなどのプロジェクトを意味します。人々が集まるのはエコシステムがあり、コミュニティがあるからです。我々の役割はそこに人々を連れていくこと。ですから我々は常にプロジェクトと密に連携し、コミュニティとも積極的に対話をしています。

ほかの取引所はインフラの提供に加えて都市も作ろうとしていますが、そうするとすべてが取引所に集約されてしまい、何かしらの制約が生まれてしまうリスクも考えられます。それだけWeb3.0はまだ小さい業界なのです。取引所が過度に大きな役割を担う現状はよくありません。

我々は自社でステーブルコインの発行などもしません。たとえばカストディはCopperやFireblocks、決済はMoonpayなど必要なプロバイダーたちと協力しあい取引所としてのBybitはあくまでインフラの整備に注力しています。

将来的にはたとえば東京証券取引所のように取引所自体が目立たなくなるべきだと考えております。上場しているプロジェクトやトークンがエキサイティングであるべきで、取引所自体はユーザーがその存在を意識しないほどのものになればよいと考えています。

ユーザーの獲得という面ではよい製品の提供は必要不可欠になります。我々はAMA(Ask Me Anything)を毎月行い、半年ごとに製品のレビューを実施しています。この活動は創業当初から続けており、製品への信頼がユーザーの支持につながっていると思います。先ほども話したとおり、この製品面でも最終的にはユーザーがBybitを意識しなくても必要なものが得られるようにしたいと考えています。

Bybitは日常の一部となるスーパーアプリを目指す

ナガトモ:Bybitの今後のビジョンについて教えてください。

ベン:我々が目指しているのは暗号資産領域でBybitがユーザーにとって日常の一部となるスーパーアプリになることです。暗号資産は人々の生活をよりよく変える可能性を秘めています。たとえば、Bybitカードでの支払い、資産運用、あたらしいトークンの購入、といったさまざまな用途を通じて人々の生活に溶け込む存在になりたいと考えています。人々が暗号資産に触れる際に最初にBybitを思い浮かべてもらえるようになることが我々のゴールです。

ナガトモ:最後に日本のユーザーにメッセージをお願い致します。

ベン:長年にわたる日本の皆様からのサポートに心から感謝しています。日本は我々にとっても逆勧誘の観点で重要なマーケットです。Bybitは日本市場で直接的にマーケティングを行っておりませんが、ユーザーは逆勧誘ベースでオンボードすることができます。

最近発表したMT5(MetaTrader5)も日本の皆様からのフィードバックが製品に反映されています。今後は製品と教育に関するワークショップの開催、大学や研究機関と連携したハッカソンを開催したり、日本の皆様への貢献をできるような企画をしていきたいと考えております。ぜひ楽しみにしていてください。


Profile

◉ベン・チョウ(Ben Zhou)

Bybit共同創設者兼CEO

2018年Bybit設立以来、取引量トップ3の暗号資産取引所まで著しい成長を遂げた。外国為替取引所のXMで中華圏のジェネラルマネージャーとしての経験を持ち、伝統的な金融市場に対する知見とグローバルな暗号資産市場に対する専門知識を活かし、2018年初頭にBybitを共同で立ち上げ。

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