暗号資産業界が成熟と混乱のはざまで揺れ動くなか、世界的に注目を集めているサイバーセキュリティ企業がある。ウクライナ発のHackenだ。2017年、ICOブームの最中に誕生した同社は、当初は無名の小さなチームに過ぎなかった。しかし、「セキュリティは業界の持続的発展に不可欠である」という確固たる信念のもと、スマートコントラクト監査やバグバウンティ、オンチェーン監視といったサービスを武器に、世界の暗号資産プロジェクトを守り続けてきた。
Hackenの歩みは、単なる企業成長の物語ではない。2017年当時、詐欺まがいのICOが氾濫し、セキュリティ軽視が常態化していた業界において、「透明性」と「責任」を掲げ続けた存在だ。規制当局との協働を通じてあたらしいルール作りを推進し、今やAIや暗号資産関連企業としてのIPOなど、未来の潮流も見据えている。
今回のインタビューでは、創業者のディマ・ブドリン氏のストーリーを出発点に、Hackenのサービスモデル、規制とのかかわり、そして将来のビジョンまでを紐解いていく。暗号資産業界における「影の守護者」は、どのように世界を変えようとしているのだろうか?
ナガトモ:Hacken創業のきっかけを教えてください。
ディマ・ブドリン(以下、ブドリン):まず私の経歴ですが、デロイト(当時デロイト・トウシュ・トーマツ)に8年間勤務し、金融とITの両方に携わっていました。その後は少し政府の仕事もしました。私の役割はサイバーセキュリティセンターを構築することでした。その頃、私たちのチームはすでに暗号資産を取引していて、2016〜2017年にはより理解が深まっていました。
その後、キーウでICOを構想していた会社があり、「バグバウンティのプラットフォームを作って、ハッカーたちが独自トークンで活動できるようにしたらどうか」と考えました。2017年、このアイデアをピッチしてステージ上で33BTCを獲得し、さらに投資家から50万ドルの出資提案を受けました。その条件はICOを行うこと。これが転機となり、私たちは仕事を辞めてHackenを立ち上げました。
ナガトモ:創業当初のエピソードを聞かせてください。
ブドリン:2017年当時、セキュリティに本気で取り組む人はほとんどいませんでした。複雑なスマートコントラクトも少なく、大規模ハッキングもそこまで頻発していなかったことが要因でしょう。具体的な被害というと、多くは秘密鍵の管理ミスやシンプルな詐欺などでした。ICOブームの頃は「ハッキングされました。ごめんなさい、終了です」といってプロジェクトを閉じるケースが頻発しました。これは明らかに詐欺でしたね。
私たちはウクライナの若い無名なチームだったので、スキルや知識を証明して大口クライアントを獲得するのは大変でした。ICOで集めた資金も多くなく、それ以来追加の資金調達もしていません。でも、情熱がありました。好きなことをやっていれば、やがて市場に認められると思いましたし、結果的に業界に認知されるようになっていきました。
ナガトモ:2017年当時、サイバーセキュリティ分野において知識のある人はいたのですか?
ブドリン:2017年当時、すでにしっかりしたコミュニティが存在しており、私たちもその一員でした。多くの人たちが私たちを助けてくれて、若い人材を育てることもできました。やがてウクライナは「世界でも有名なサイバーセキュリティの拠点」として知られるようになり、私たちも世界を代表する企業の1つとみなされるようになりました。
