暗号資産Web3.0

暗号資産決済サービス「Slash(スラッシュ)」とは? —— 佐藤伸介インタビュー

2023/07/29ナガトモヒロキ
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暗号資産決済サービス「Slash(スラッシュ)」とは? —— 佐藤伸介インタビュー

決済ソリューションのゲームチェンジャーとなり得るか

2023年に入りWeb3.0に内包されるさまざまな分野で動きが活発化してきている。特に暗号資産領域では、企業に対する税制を始め、個人取引における課税の在り方などについても議論が加速するなど、徐々に変化があらわれつつある。

Web3.0のマスアダプションを進めていく上では、日常生活のなかでの体験が大きなカギを握る。そして日常の流れで体験できるものの1つとしては、「決済」が挙げられるだろう。現代社会において日々生活をしていく上では、モノ・サービスに対して必然的に通貨を対価として支払っている。

海外では暗号資産決済に対応するサービスも増えてきており、ある意味では本来の利活用がなされているといえる。しかし、日本に目を向ければ暗号資産決済が浸透しつつある状況とは言い難い。そもそも、日本国民のほとんどが銀行口座を持っており、それでいてキャッシュレス決済やクレジットカード決済なども当たり前になっていることから、暗号資産を決済で利用する必要性が薄いというのが現状だ。1度の暗号資産決済時でも課税対象になってしまうという日本の税制も要因の1つであるといえる。

国内だけではなく、グローバルで決済ソリューション「Slash(スラッシュ)」を提供する佐藤伸介氏は現状の大きな問題点をどのように捉えているのだろうか。その真鍮や今後の計画について赤裸々に語ってもらった。


What kind of service is Slash?

「Slash(スラッシュ)」創業のきっかけ

ナガトモヒロキ(以下、ナガトモ):佐藤さんの経歴とクリプトに触れるようになったきっかけを教えてください。

佐藤伸介(以下、佐藤):私のバックグラウンドとしては、もともと日本で10年ぐらいクリエイティブデザインやシステム開発・マーケティングなど、Web領域でオールラウンドな業務を行える会社を経営していました。日本でこれまでやってきたことを踏まえて環境を変えたいなと思い3年前にシンガポールに移住しましたが、そのタイミングでコロナ禍となってしまいフィジカルな仕事ができなくなりました。

もともとビットコイン(BTC)など暗号資産は多少持っていましたが、コロナ禍で時間ができたこともあり、クリプトについて深く学ぶ時間が増えたことや、シンガポールのCEXと仕事をしたことで業界との接点がすごく増えました。その延長でDeFiを触るようになり「こんなに面白いものがあるんだ」とのめり込んだのがきっかけになります。

ナガトモ:どのようなきっかけがあってSlashを創業したのですか?

佐藤:まずCEXの決済周りのシステムを作る機会が大きなきっかけです。その上で、自分がDeFi領域の事業を立ち上げる際にリサーチをしていくなかで、常に投資が入り続けなければ成り立たないサービスではなく、しっかり現実社会に根付いたプロダクトを作りたいと思うようになりました。総合的に考え、自分にとって身近な事業である決済という領域を選びました。

ナガトモ:どの部分で一番苦労しましたか?

佐藤:Slashは自前で流動性を持たず、さまざまなDEXをアグリゲートして決済システムのFX部分を補っています。日本国内では謎に「DEX=悪」みたいな風潮があり、有益なソリューションを理解する前に話も聞かず一蹴するような人も多くいました。とにかく浅い知識でDEXだから危ないと頭ごなしに拒否をする人が多かったので、そのネガティブ要素を取り払う意味では特に苦労しました。

Slashでシームレスな価値移転を実現する

ナガトモ:もともとグローバルをみていたとのお話がありましたが、日本でサービス展開するに至ったきっかけは何ですか?

佐藤:Slashをローンチするタイミングで、日本でWeb3.0という言葉が流行り始め、波を感じたので初期に活動するマーケットを日本に決めました。もちろんSlashですといっても誰も知らないので、その時に「新型のおあいそ」というコメディ動画を制作して、まず知ってもらうきっかけを作りました。Web3.0が流行り始めてきたタイミングで、暗号資産ってなんかすごいぞという波があり、ライト層に届くというか、こういう未来が実際に今できるんだということをアピールする意図がありました。

Slash flow image

ナガトモ:Slashの経済圏、導入店舗はどのように増やしていったのですか?

佐藤:Slashの経済圏を広げるという以前に、そもそも暗号資産決済という認知を広げることの方が必要で、最初の1年間に関してはそれに徹していました。先ほど話した動画はSlashがどういうものなのかを事業者に理解してもらうのにかなり活躍しました。

「新型のおあいそ」の動画を見ると飲食店とかリアル店舗の方が多いように思うかもしれませんが、実際はそんなことはなくて、オンラインサービスの方が需要も多く、決済金額という面でもボリュームが多いです。

ナガトモ:決済という文脈では暗号資産決済でなくても、日本ではキャッシュレス決済も普及しております。キャッシュレス決済との違いや共存の可否についてはどうお考えですか?

佐藤:2023年現在はブロックチェーンで現物を移動する決済体験より、PayPayやSuicaなどキャッシュレス決済の方が確実にUX的にも良いと思います。データベースとフロントエンドの整合性が完全に取れているのでユーザーにとってもストレスがない状態で決済ができます。

対して暗号資産決済は現物を動かさなければならないので、どうしてもブロックチェーン上でのトランザクションをフロントエンドである我々のデータベースが追わなければなりません。データベースとブロックチェーンが分離されていると決済までの時間もかかります。時間軸でユーザビリティを考えると暗号資産決済は不利になります。

ですので、これだけ便利なものがあるにも関わらず我々がそれに置き換わるものをわざわざ作る必要があるのか?という問いは常にありました。その結果、2023年現在はキャッシュレス決済を置き換えるのではなく、「価値の移動」にフォーカスすることがSlashの大きなテーマになっています。

たとえばSlashを通じてイーサリアム(ETH)の価値を〇〇Payにチャージするなど。そこに存在する価値をシームレスに移動することの実現を現在のテーマにしています。

ナガトモ:Slashがマスアダプションするための次なる戦略はどのように描いておりますか?

佐藤:ギフトカード市場に大きな可能性があると思っています。結局のところユーザーが望むことは暗号資産の価値をモノに変えたり、暗号資産の価値で何かサービスを受けたいということです。ですから暗号資産の価値をモノやサービスに移動する最短ルートが、Slashを通じて暗号資産をギフトカードに変えることだと思っています。

ナガトモ:最後にSlashが目指す未来について教えてください。

佐藤:決済を通じて滑らかな価値の移動を実現していくことです。たとえばギフトカード市場以外にもオンライン旅行の業界にも我々は注目しております。どんなモノでもどんな価値でもシームレスに移動していく未来を我々は実現していこうと考えています。


Profile

佐藤 伸介(Shinsuke Sato)
Slash Vision Labs CEO

2011年、クリエイティブ制作をメイン事業とするHolydayを設立。2020年よりシンガポールを拠点に決済システム開発事業を展開し、Web3分野のプロジェクトマネジメント支援や開発パートナーとして活動。2021年からシンガポールで自身初のWeb3プロジェクトとしてSlashプロトコルの開発を始め、2022年5月にバージン諸島にSlash Fintechを設立。


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