暗号資産Web3.0

法務という分野でWeb3.0事業者らを支える弁護士 —— 森和孝独占インタビュー

2023/07/29ナガトモヒロキ
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法務という分野でWeb3.0事業者らを支える弁護士 —— 森和孝独占インタビュー

急速な発展と日本独自の進化

事業体が抱える課題に目を向ければ、Web3.0領域の法整備にまだ未熟な点があることで、企業が関連サービスを提供するハードルが高いことも問題だ。

日本の法整備は世界基準で見てもトップクラスであることは間違いないが、サービスを提供する側としてはどこまで踏み込んでも良いのかという線引きが判断しにくく、加えて会計処理の煩雑さや事業設計のビジョン構築が難解であることもあり、企業がWeb3.0領域へと足を踏み入れにくい状況にある。

国内だけではなく、グローバルで弁護士として活躍する森和孝氏は現状の大きな問題点をどのように捉えているのだろうか。その真鍮や今後の計画について赤裸々に語ってもらった。


弁護士としてプロジェクトとどのように関わるのか

ナガトモヒロキ(以下、ナガトモ):森さんはどのような背景から暗号資産の業界に踏み込んだのでしょうか?

森和孝(以下、森):もともとは大阪で一般的な弁護士業務を行なっていましたが、新しい分野やワクワクする案件をやってみたいと思い、2016年にシンガポールに移住しました。当時シンガポールはICOバブルで盛り上がっていましたが、日本人弁護士で暗号資産を取り扱っている人はほとんどいませんでした。

大きなきっかけとしては、仲の良かったプライベートバンカーからICOのシステムを作る会社を紹介され、コンサルティングやマーケットメイキングの案件に携わったことです。彼らからレクチャーを受けながら業界の知識を深めていきました。その後も多くの案件をいただき、現場で経験しながら詳しくなっていった感じですね。

ナガトモ:弁護士としてプロジェクト側とどのように関わり仕事をしていますか?

森:ありがたいことに、お問い合わせはずっと多い状態です。ただ、案件の依頼が多くなりすぎると対応しきれずご迷惑をかけてしまう可能性もあるので、現在は顧問契約を中心にお受けしております。この分野は変化が早いので、表面的な知識は使い物になりません。顧問先や業界のサービスを自分自身で利用することで知識を深めております。

ナガトモ:弁護士という特殊な立ち位置から業界を見て、最近の業界の面白い動きはありますか?

森:日本の暗号資産業界は独自の進化を始めている感じがします。海外では流行りのレイヤー2開発などもそうですが、テクノロジーの進化など「競争」という面が強いように感じます。今ある技術を活用して世の中を良くしていこうというより、今より良いものを作ろうという感じですね。

一方、日本ではWeb3.0領域に関わる方々の「世の中をもっと良くできるのではないか」という優しい雰囲気が感じられます。大企業もSDGsやESGという文脈でWeb3.0の要素を取り入れたいよねという感じで、海外勢がこの業界のデファクトスタンダードを競っているのと対照的なイメージです。これは、良い悪いではなく、それぞれがマスアダプションに向けた重要なファクターになってくると思います。

目立つ大企業のWeb3.0参入

Kazutaka Mori interview image

ナガトモ:ここ数年でも大きな変化があったのでしょうか?

森:たとえば、2017年頃は正直まともじゃないなと思う案件も多く、それを見極めて断るのが大切という有象無象の時代でした。その後、2018年、2019年は多くの日本のスタートアップがシンガポールに進出してきました。今業界でも有名なDEAやAstar Network、Oasysなどが代表的ですね。2020年、2021年は大きなゲーム会社、ソーシャルゲームの会社、IT企業等がシンガポールへ進出してきます。そして2022年の後半から今にかけてはゲームやITとも関係のないインフラやエネルギーなど、生活基盤に関するビジネスを手がける大企業がWeb3.0を取り入れようとする動きが活発になってきていますね。

ナガトモ:その動きはシンガポールですか?それともドバイですか?

森:今は、プロジェクトによって使い分けられているフェーズですね。日本の話でいうと一時期は規制が厳しかったですが、最近では税制が変わったり、NFTに関しても規制範囲が明示され、監査の問題なども含めて環境が整いつつあります。数年前であれば、海外でしか不可能であったプロジェクトでも、今の段階では日本でもできる可能性があったり、暗号資産だから絶対に海外という状況ではないと思います。

ナガトモ:大企業がWeb3.0に参入することで、マスアダプションを遂げることはできるのでしょうか?

森:一気に広がる可能性を秘めています。どの世代までカバーできるかの問題はありますが、たとえば大企業がトークンやNFTを発行したとして、それを保有していると商品やサービスを優先購入できるなどのユーザーが望む特典があると利用しますよね。すでに自社のエコシステムが完成しているサービスであれば普及スピードも速いです。

大企業の場合、傾向としては、トークン価値を何百倍にも高めたいというよりも、自社のサービスでこれまで実現できなかった機能をWeb3.0で補うことで顧客満足度を上げられないか、というような安定的長期的なビジョンが強い気がします。さらに大企業が取り入れ始めると、周辺の関連企業がより小回りの効いたサービスを展開すると思うので、そうなると国内で、ある意味ではガラパゴス化ですが、独自の発展を遂げそうな気がします。

ナガトモ:ドバイに来て日本やシンガポールと違いを感じた点はありますか?

森:暗号資産が生活に近いことは感じます。たとえば私のドバイの自宅の家賃もテザー(USDT)などで支払うことができますし、カフェやその他店舗でも暗号資産を使えることが多いです。また、一部のモールには両替所があり、現金に換えることも可能です。シンガポールでは、普段の生活レベルでは暗号資産はあまり利用されませんが、今でも多くのWeb3.0企業やファンドが集積しています。

ナガトモ:Web3.0関連のビジネスをしようとした際、直近2、3年後を踏まえると日本に拠点を構えるべきか、それともドバイを始めとした海外に拠点を置くべきかどちらが良いと思いますか?

森:もし最初からグローバルのことを考えるのであれば、当局もWeb3.0にフレンドリーで日本人起業家やそれを支援する体制も整ってきているドバイや、多くの先例がありWeb3.0エコシステムが充実しているシンガポールは良い選択肢になります。

しかし日本向けのサービスを考えているのであれば必ずしも海外である必要はないと思います。日本の規制に準拠した範囲でやるというのも1つの選択肢です。実際、暗号資産税制や当局のスタンスも企業にとって良い方向に変わってきていますしね。ただ、個人に対する申告分離課税が近い将来導入されるかというと未知数で、監査の問題もまだ不透明な部分があるので、日本でのマスアダプションのための障壁は依然残ってはいます。

とはいえ、重要なのは結局どのマーケットでどのようなビジネスをするかです。ビジネスの戦略や将来の展望に合わせて拠点を選択する必要があると思いますので、私自身も、多くの選択肢を提示して有効なサポートができるように自己研鑽を続けたいと思います。


Profile

森 和孝(Kazutaka Mori)
One Global Advisory(ドバイ法人)代表、弁護士

弁護士法人One Asiaパートナー弁護士、One Global Advisory(ドバイ法人)代表、神戸大学客員教授、シンガポール国立大学客員教授、日本ブロックチェーン推進協会アドバイザーなど。シンガポールに移住した2017年から日系企業のWeb3事業のグローバル展開支援をメイン業務としながら、海外で挑戦する多くの日系スタートアップ約20社にエンジェル投資を実施。100名を超えるゲームギルドMGG Verseのオーナーも務める。

2023年からUAEの老舗法律事務所Alsuwaidiと提携し、One AsiaブランドのUAE拠点を立ち上げ、シンガポールとドバイの2拠点生活を開始。


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