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日本の夜明けを待ち望む 暗号資産業界における国民総オンボーディングの課題とは? Crypto Journey特別編

2024/08/26ナガトモヒロキ
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日本の夜明けを待ち望む 暗号資産業界における国民総オンボーディングの課題とは? Crypto Journey特別編

スタートアップ企業の血の滲む努力を無駄にしないために国民を動かす規制は絶対条件

ドバイの夏は40度を超える。灼熱を避けるかのごとく、夏になると多くの人が母国や避暑地へ旅立つ。ゆえに空港の7月は普段より混雑する。そんな私も涼を求めて久々に帰国をしたひとり。帰国早々に感じた印象。日本も十分暑いではないか。体感はあまり変わらない。

最高気温をみると+5度ほどは違うのだろうが、サウナも5度くらいの温度幅では変わらないように、おそらく人間の体は気温に対してある一定のレベルを超えると一色単に感じるのだろう。

先日予約注文をしてまで買った書籍があった。「美食の教養─世界一の美食家が知っていること─」浜田岳文さんという方が書いた本だ。浜田さんの経歴は興味深く、南極から北朝鮮まで、世界127ヵ国と地域を踏破された方で世界のベストレストラン50や世界中のミシュラン店を毎年巡っているクレイジーな方だ。

フーディーと名乗っていいかはわからないが、そんな私もまぎれもなく食の為に旅をする部類の人間だ。今となっては笑い話だが、大学受験で福岡へ行った際には参考書ではなくグルメ本を持って行きB級グルメやラーメン屋を巡っていた。参考書よりグルメ本の方に付箋が貼ってあったし、そっちを読む方が楽しかった。過去にはお付き合いしていた方と旅先でどうしても行きたいレストランがあり、8時間レストランを待ったことで大喧嘩をした淡い経験もある。

大人になりさまざまなご縁でヨーロッパを中心に食を通じて文化的交流を図ってきた経験がある身としては、浜田さんのこちらの書籍は美食の定義がとてもわかりやすく解剖されており、なおかつおそらく普段多くの食通の方が感じていた言葉にできない感覚を見事に言語化してくれた、まさに食の哲学書ともいえる本だと思う。

今年を振り返るとすでに10ヵ国訪れている。7月に至ってはアジア各国を毎週巡っていた。絶賛円高中の今となっては懐かしく感じるが、つい1ヵ月前までは円安で特にヨーロッパを訪れた際は大変だった。こんな円安渦中にこれだけ海外に出向いている一般人は大変珍しいと思う。

先日訪れた香港ではランチもディナーもミシュラン店での会食だったのだが、両方のコース料理で得意ではないナマコが1本丸ごと出てきて大変だった。1日2匹ものナマコをまる1本食べたと思うとゾッとする。

そのほかにも食べ方がわからない鳥の足が出てきたり、よくわからない貝や謎の果物など、訪問先での歓迎を食を通じて受けることは1番わかりやすいコミュニケーションでもあるが、時に胃やお腹を崩すこともある。食の文化的交流は意外とハードで知的好奇心がないと耐えれないだろう。そして胃も限られた資産であることを痛感させられる。

世界で感じる日本人であることの誇り

私自身、海外経験は長いが最近強く思うことがある。日本人であることの誇りだ。日本のなかで暮らしているとあまり感じないが、一歩外に出るとさまざまな場面で日本人であることで心を揺さぶられる瞬間がある。

旅行先で日本人というだけで親しみを持たれた経験を多くの方がしているように、日本人であるということは一言では語り尽くせない何かがゲノムレベルであるのではないかと感じる。

過去の偉人達もそうだが大谷翔平選手や久保建英選手のようにまさに今、世界で活躍する日本人がスポーツ界を筆頭に多く存在する。203ヵ国もの国の代表が競い合ったパリオリンピック。金メダルランキングという視点で切り取ると日本は米国、中国に次ぐ3位という結果だった。フィジカル的にも優位とはいえないたった1億2,000万人の小さい国がなぜこれほどまでに世界で戦えるのか。日本人はグローバルで戦える民族であることを我々はもっと自覚しなければならないと思う。

冒頭のグルメの話に戻るが、食に関しても日本はすごい。日本に帰ってきて和食を中心に巡っていると料理人の繊細な表現に感服するシーンが多い。今では当たり前に寿司が世界中で食べられているが、一説によると日本の商社がノルウェーでサーモンの養殖技術を伝授したことが寿司のマスアダプションを大きく加速させたらしい。

今では廃校のプールでヒラメを養殖する陸上養殖も主流になってきており、旬を問わず美味しい魚を食べれるようになった。日本列島の周りには5つほどの大きな海流があることも、魚介類が豊富で美味しい魚が取れる大きな理由でもある。

多くのミシュラン星付きのシェフに引退後どこに住みたいかという問いをしたとある動画をみたが、最も回答の多かった場所は東京だった。それだけ日本は食という面でも世界的に優れている。

もっといえば量子コンピューティングの分野や人工知能(AI)、バイオや宇宙関連でも日本の技術力は世界をリードしているのだが、私が従事するこのクリプト業界でさえ同じことがいえる。

BTCの生みの親であるといわれるサトシ・ナカモトは2008年にBTCの概念を提唱した。彼はなぜ日本名なのか。日本名である必要があったのか。その正体は依然として謎に包まれているが、間違いないのは、すべては彼のひとつの論文から始まったということだ。

サトシ・ナカモトが姿を消した2010年以降、日本はBTCの取引で世界最大の市場を形成していた時代があった。その主役だった企業があのMt.GOX。2014年には世界最大のBTCの取引所となった。当時BTC取引量の約70%を占めていたといわれている。のちにハッキング事件が起こったことをきっかけに日本政府は暗号資産に対する規制を強化し2017年に世界初となる暗号資産取引所へのライセンス制度を導入した経緯がある。

日本経済の栄光を振り返ってみよう。バブル期と呼ばれる1980年代後半から1990年初頭、日本の株式市場は急成長し日経平均株価が史上最高値を記録するなど、東京証券取引所は世界最大の株式市場となっていた。1989年には世界上位50社のうち32社が日本の企業で占められていた時代もあったのだ。

今ではどうだろう。現在、世界全体ではAppleが時価総額3兆2,000億ドルを超えて首位に立ち、MicrosoftやNvidiaが後に続いている。日本企業で最上位のトヨタでさえ20位圏外である。

では、世界中の企業や暗号資産、金融資産の総合的な時価総額である「Global Market Capitalization(グローバル市場時価総額)」でBTCの数字をみてみよう。なんと8月執筆時点で1.2兆ドルとなっておりFacebookのMeta社に続き10位にランクインしている。わかりやすい例でいうとイーロンマスクのTesla(約6,000億ドル)を上回っているのである。

数年前までは投機と認識されていたデジタル資産がほんの数年で現物ETF(上場投資信託)として扱われ、世界最大級の機関投資家であるBlackRockが投資家に商品として提供するほどの資産性を持ったことは今後のグローバル経済において暗号資産が今以上に無視できない存在になったことを示している。2024年現在、暗号資産の現物ETFは世界中で増加しており、暗号資産関連のETFは合計58種類ほど存在する。

このようにグローバルでは大きく前進している暗号資産業界も日本に目を向けると残念ならが大きく遅れをとっている。

香港政府は国際的な金融ハブとして金融都市の地盤固めをしているところに本気度の高さを感じる

先月コロナ後初めて5年ぶりに香港へ行ったのだが、尖沙咀(チムサーチョイ)の繁華街ど真ん中の両替屋でUSDTとHKDの両替が行われている様子にとても驚いた。ドバイでさえ専門の両替屋でひっそり受け付けているのにここでは法定通貨を両替する同じ窓口でUSDTとHKDの両替を行なっていたのだ。レートを確認する為に店員さんに声をかけて驚いたのだが1%ほどの手数料だった。当たり前だが空港でJPY→HKDを両替するより利率が良い。

前号のクリプトジャーニーで韓国企業(AM Management)をインタビューしたコラムで記したが、現在韓国では個人の暗号資産に対する課税はない。先日の政府の発表でさらに2年延期になった。同様にシンガポールも香港でも個人の暗号資産の利益に対する課税はない。

香港においてはコロナ禍で多くのテクノロジー関連企業やクリプト関連企業などがシンガポールなどへ移動した事情もあり、彼らを呼び戻すべく一時期禁止していた暗号資産も昨年から解禁した。

現在香港には多くの企業や人材が戻ってきており個人的にはシンガポールより勢いを感じる。政府としても香港が国際的な金融ハブとして、暗号資産やブロックチェーン関連ビジネスを誘致するための一環と堂々と発表しており金融都市の地盤固めとしてさまざまな規制も整えている所をみると香港の本気を感じる。

一方、我が国日本に目を向けるとどうだろうか。失われた30年を取り戻すがごとくWeb3.0に注力はしているが、政府の足元の政策もシナジーを産んでるとは到底いえないだろう。

日本国内のサプライヤーがサービスの枝葉を増やすために政府には急務がある

先日JBA(日本ブロックチェーン協会)が2025年度暗号資産に関わる税制改正要望を政府へ提出した。

内容としては「1.申告分離課税・損失繰越控除の導入」、「2.暗号資産同士の交換時における課税の撤廃」、「3.暗号資産を寄付した際の税制の整備」、「4.特定譲渡制限付暗号資産の今後の見直しの継続検討」の主に4つである。もちろん世の中の関心は1.申告分離課税の部分だ。

JBAによると暗号資産の口座数は2024年4月には1,000万口座を突破したとのこと。だが実数はどうだろうか。現在暗号資産を利用しているほとんどの方が複数の取引所の口座を持っているのではないだろうか。それを加味すると個人的には600~700万人くらい、日本の人口の5%ほどがリアルなユーザーともいえるだろう。

対して証券口座はどうだろうか。新NISAの勢いは凄まじいものがあった。楽天証券の発表によると2024年4月時点で総合証券口座数が単体で1,100万口座を突破したと発表した。設立以来最速の4ヵ月で100万口座を達成したところをみると、新NISA制度のインパクトは非常に大きい。

ネット証券含めた日本国内の証券口座数は約4,550万口座といわれている。なかには証券口座を複数保有する人もいると思うがほとんどの方は1つにとどまるだろう。

この数字のインパクトをみてわかるが国民を動かすには規制の改革が絶対条件である。税制も変わらない規制も変わらない環境が変わらないままイノベーションを起こそうとしても無風で終わる。スタートアップ企業がいくら血の滲む努力をしたところで徒労に終わる。

楽天証券の事例でいえば彼らは楽天カードでの定期積立枠を5万円から10万円に増額したり、ポイントの付与などカードでのサービスを強化したこともユーザー数増加につながっているだろう。日本人の思考ではどうせ買うならポイントなどのメリットがあったほうがうれしいからだ。

暗号資産業界ではどうだろうか。まだまだ業界の提言に留まる。政府としても600万人の為にすぐに税制を変えるとも思えない。協会としても前々から言い続けてきた項目だがまだ検討の段階にすら入ってないのではないだろうか。

クリプトというグローバルな領域なのに一歩外に出ればアジア諸国と比較しても提供しているサービスが大きく異なることはグローバルに大きく遅れをとっている証拠でもある。

先ほど取り上げた暗号資産と法定通貨の両替だけでなく、暗号資産を担保に法定通貨を貸し付ける担保ローンサービス、クリプトをデポジットして使うデビットカードのサービスなどもそう。規制が変わらなければ日本国内のサプライヤーもサービスの枝葉を増やせない。一方で時代はApple Vison Proに代表するようにかつてのSF映画の世界へと指数関数的にテクノロジーが加速している。

ゼロイチを生み出す能力に長けている日本人の活躍の場を奪っていることをどれだけ政府が感じているのか。既存の市場で競争を行うでもいいが、競争のないあたらしい市場で独自の製品を創り出すことを視野に入れてほしいと切に願う。強いことが無敵ではない。敵がいないことが無敵なのである。

国民総オンボーディングの夜明けを待ち望む。


Profile

ナガトモヒロキ Hiroki Nagatomo

コラムニスト

JADE VENTURES Founder

J-CAM MIDDLE EAST COO

1988年生まれ。横浜市立大学在学時に起業。大手通信キャリアのセールスプロモーションを主軸に人材派遣会社や飲食店など事業を複数展開。2018年事業譲渡後、ヨーロッパを中心に30カ国以上を渡航。グルメ、ライフスタイル、社交など文化的交流を重ねるなかで海外富裕層が暗号資産に注目していることを知る。後にJ-CAM代表である新津氏との出会いがきっかけで2022年web3.0時代の資産形成プラットフォーム「Bit Lending」を立ち上げる。常識を覆す革新的なアイデアでクリプトレンディングの業界水準を上げ多くのユーザーから支持を得ている。現在はドバイに在住し、独自のネットワークとフットワークを武器にグローバル企業のBizDev領域で多くのビジネスに貢献しながら、コラムニストとしても業界の著名人へ取材活動を行っている。

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