サマリ
1. 暗号資産はなぜ「雑所得」なのか──国税庁の基本見解
国税庁は、暗号資産は支払手段性が中心で「資産の価値上昇益」とは性質が異なるため、原則として譲渡所得ではなく雑所得と扱う立場を示している。支払手段に類するという法的位置づけを理由に、値上がり益が資産価値の増加益とは別概念であると説明している。
2. 近年の変化──“複合的な性質”を持つ暗号資産の存在を政府が示唆
令和4年の政府答弁では、支払手段性と資産価値の増加益を“複合的に有する暗号資産”が存在しうることを認め、「譲渡所得に該当するかは個別の資産の性質で判断する」と説明。これは、従来の一律な雑所得扱いに一定の揺らぎが生じている点として注目される。
3. ただし現状は“譲渡所得に該当する暗号資産は存在しない”との整理
政府は同時に「モナコインを含む暗号資産は、価値増加の性質が取引対象となる独立価値を持つとは一般に認められない」と述べ、現時点では譲渡所得の対象となる暗号資産は事実上存在しないとの判断を維持している。また、仮に譲渡所得に該当しても、営利目的で継続取引する場合は雑所得・事業所得に区分される点に注意が必要。
前号では、暗号資産の譲渡益がなぜ譲渡所得ではなく雑所得になるのかについて紹介しました。今回は、このような見解に対する反論を紹介します。
国税庁の上記見解に対してはいくつかの反論が考えられます。たとえば「暗号資産は一律に本源的な価値がないと言い切れるのか」「暗号資産が有する複数の性質のうち支払手段性だけに着目するのは妥当か。
少なくとも投資の対象となる資産としての性質を有しているのではないか」「暗号資産は『資産』であるが『譲渡所得の基因となる資産』に該当しないというのであれば、法律にそのことまたは後者の判断基準を明記すべきではないか」「そのような規定がないにもかかわらず、解釈で譲渡所得の範囲を狭めることは妥当なのか」などがあげられます。