マネックス証券で暗号資産アナリストを務める松嶋真倫a.k.aまりんです。今回もビットコイン相場の振り返りと今後の相場展望について解説します。
8月の振り返りと今後の相場展望
2024年8月のビットコインは、日経平均株価が歴史的な暴落を記録するなかで世界的なリスクオフが強まり、一時はBTC=700万円台まで大きく下落しました。日銀が利上げを決定したことで、日米金利差の縮小を意識した円高が急進し、それにより円キャリートレードが巻き戻されたこと、米7月雇用統計の悪化を受けて米国の景気後退懸念が意識されたことなど、複合的な要因でリスク資産の売りが強まりました。
その後、日銀が早期の追加利上げの可能性を否定したことで市場の混乱が収まり、株式とともにビットコインも大きく反発しました。一時はBTC=900万円台まで価格を戻しましたが、イラン・イスラエル情勢の悪化や米国政府によるビットコイン売りなど懸念材料もあり、もみ合いの展開が続きました。また、ジャクソンホール会議の内容を注視する動きもあり、市場では様子見ムードが広がりました。
今後のビットコインは、世界情勢が依然として不透明であるものの、価格が徐々に上昇していく可能性はあると考えています。市場の関心は米国の金利動向から景気動向へとシフトしており、9月以降に発表される経済指標や次回のFOMCを受けて米国の景気後退懸念が再燃した場合には、リスク資産全般の売り圧力が強まることが予想されます。
また、イランとイスラエルの間で戦争が勃発した場合も、同様に短期的な下落リスクは否定できません。しかし、リセッションや地政学リスクが強く意識される環境では、ビットコインも金のようなデジタルゴールドとしての性質が注目され、資産防衛のために買いが優勢になる可能性があります。
ビットコインがほかのリスク資産と差別化され、安全資産としての役割をはたし始める兆候がみられれば、現物ETFを通じた買いもあわさって上昇の勢いを一気に取り戻すことも考えられます。
まりんの注目銘柄:アプトス(APT)とスイ(Sui)
今回は、新興のレイヤー1ブロックチェーンとして注目されているアプトス(APT)とスイ(Sui)について紹介します。両者は、Meta社(旧Facebook)が主導した民間デジタル通貨「ディエム(旧リブラ)」の元メンバーが立ちあげたもので、発祥が同じプロジェクトとして知られています。APTとSuiは、ディエムで使用されていた「Move」という独自言語を採用し、並列処理を得意とする高速なブロックチェーンを開発しています。
Suiは、時価総額ではAPTに劣っていますが、分散型金融(DeFi)市場ではAPTより高い収益性を提供することで急成長しています。一方、APTは2024年8月にSuiに先行して主要ステーブルコインUSDTの導入を発表し、ネットワークへの資金流入を増やそうとしています。また日本でも、SuiはGREEやgumiとブロックチェーンゲームの分野でパートナーシップを締結している
一方で、APTはアリババとの提携によって日本を含むアジア圏での活動を強化する方針を示しています。今後はAPTとSuiが互いに競い合いながらソラナのように高速型のブロックチェーンとして成長を続けることができれば、APTとSuiも中長期的に価格を伸ばしていくことが考えられるでしょう。
Profile
◉松嶋 真倫(Masamichi Matsushima)
マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ 暗号資産アナリスト
大阪大学経済学部卒業。都市銀行退職後に暗号資産関連スタートアップの創業メンバーとして業界調査や相場分析に従事。2018年、マネックスグループ入社。マネックスクリプトバンクでは業界調査レポート「中国におけるブロックチェーン動向(2020)」や「Blockchain Data Book 2020」などを執筆し、現在はWeb3ニュースレターや調査レポート「MCB RESEARCH」などを統括。国内メディアへの寄稿も多数。2021年3月より現職。
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