Web3.0

佐々木俊尚の考える「独特な世界観が広がるSNSと現実社会との調和について」 Tech and Future Vol.10

2024/10/01佐々木 俊尚
SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
佐々木俊尚の考える「独特な世界観が広がるSNSと現実社会との調和について」 Tech and Future Vol.10

インターネットは「みるところによって、みえるものが異なる」

インターネットはプライベートとパブリックの境界線が曖昧になっている

——人々の生活の一部となっているSNSと現実世界との調和についてどのような見解をお持ちでしょうか?

佐々木俊尚(以下・佐々木):そもそもWindows95の発売をきっかけとして、2000年代にホームページを作る文化や「2ちゃんねる」などが生まれたわけですが、それまではインターネットと現実世界というものは何もリンクしてこなかったわけです。その頃、デジタルネイティブ第1世代である氷河期世代を中心として、インターネットは自由な大地であり何をやっても構わないし社会から批判されることもないという風潮が広まりました。いわば「閉ざされた楽園」という認識でインターネットは使われてきたのです。

そんなインターネットが社会的に脚光を浴びるきっかけとなったのが、自民党の故加藤紘一さんによる「加藤の乱※1」だったわけです。加藤さんはインターネット初期の頃からサイトを開設するなど精力的に活動していて、「加藤の乱」と呼ばれる倒閣運動の際にはネット上で支持を集めました。

しかし、実際に「加藤の乱」を起こすと現実世界では支持を集めることはできず、結果的に加藤さんの政治人生が閉ざされる出来事になったわけです。その時に「ネット上の言論なんて大した影響を与えない」という風潮が生まれました。

これを変えるきっかけとなったのが、2003年頃からブームとなったブログです。IT企業がブログサービスなどを一般に提供し始めたことで、弁護士やジャーナリストなど、専門的知見のある人たちが自由に意見を書き込むようになってきたんです。そうした状況から「ネット上の書き込みも馬鹿にできない」という流れが生まれました。

その典型的な例が「ライブドア事件※2」です。ライブドア事件を巡っては、新聞やテレビなどがいろいろなことを報じたわけですが、その時に弁護士などが専門的知見を踏まえてさまざまな報道を否定する論調が強まりました。これが社会に対して非常に強力なインパクトを与えた最初の出来事だったのではないかと思います。

そこからブログブームが去り、2010年代に差し掛かるとmixiや現在のX、Facebookが爆発的に普及して、専門家の知見などが広範囲にシェアされるようになりました。ここからさらにメディアとインターネットの対立軸というのは鮮明になってきたと思います。

—そういう意味でいうと、やはりインターネットが現実世界を飲み込みつつあるということでしょうか?

佐々木:そうでしょうね。あともう1ついえるのは、当初のインターネットはオタク文化の中心地であって、いわば遊び場だったわけです。しかし、SNSが爆発的に普及したことで、オタクではない一般人が入り込んできました。これによって当初遊び場であったインターネットの形が変わってきたのです。

オタク文化に関連していうと、アニメやマンガも今では一般化してきましたよね。昔ではなかなか考えられませんでしたが、今では国際的、国民的な文化として、もはや「オタクのもの」という見方ではなくなってきたと思います。これと同時に、ネット文化そのものも一般化してきたといえます。

しかし、その一般化したインターネットがそのまま現実社会とイコールでつながるかというとそれは違います。そこには現実社会とインターネット社会での構造の違いがあるからです。

——構造の違いとは具体的にどのようなところでしょうか?。

佐々木:たとえば数年前に「バカッター事件」というのがありましたよね?非常識として捉えられる行動を撮影してSNSにアップする行為です。あれも背景をみると面白い現象だと僕は思っていて、バカッターと呼ばれる投稿をしていたユーザーの多くはそんなにフォロワーが多いわけではなく、自らの投稿を見るのも主に友人が対象であったのです。しかし、Xというのはカギをかけない限りオープンな状態で情報が発信されますので、友人以外の誰かがたまたまその投稿をみつけて拡散してしまえば、全世界に悪質な行動が広まるわけです。

これが何を示すかというと、本来であればプライベートな空間とパブリックな空間が区分されているはずなのに、インターネットではその狭間が曖昧になって認識しにくくなっているということです。

これはあらゆる局面でも同じことがいえて、たとえば自分と似たような価値観や考え方の情報が集まる「エコーチェンバー現象」がありますが、仲間内で繰り広げられる同じような情報ばかりみていることで、全世界でも同じような考え方であると錯覚してしまいます。それゆえに、徐々に発言も過激になっていくことが多々見受けられると思います。

でも、これは現実社会ではありえない現象だと思うんです。現実では「ここまでは話してもいいけどここから先は止めた方がいい」という自制が働きますが、インターネットの世界に入るとその感覚が鈍くなり日常生活ではいわないようなことまでいってしまう。これがまさにプライベートとパブリックの境界線が曖昧になってしまう問題のあらわれだと思いますね。

人類は長い目でインターネットやとの共存を図る必要がある

——情報に偏りが生まれてしまうのはほかにも理由がありそうですね。

佐々木:SNSのもう1つの課題であり、現実世界と違う点としては、「みるところによって、みえるものが異なる」ということです。僕は昔からインターネットを1つの街として捉えているのですが、当然そこには美しい公園や立派な建物もあれば、一方でゴミ捨て場や薄暗い場所なんかもあるわけです。

たとえば旅行に行ってその街を散歩するとなった時、わざわざゴミ捨て場をみて汚いと憤慨するようなことはないですよね。ただ、ネットの世界にはそういったところばかりをみて怒る人が一定数います。それは街のなかの荒廃した部分しか目に映っていないからです。

インターネットとメディアの性質も異なっていて、具体的には「分散化」と「集約化」で違いがあると考えています。新聞やテレビなんかだと掲載可能な枠が決まっていますよね。決められた枠のなかに情報を集めるしかありません。

またメディアには「アジェンダ設定機能」があるといわれていて、たとえばNHKがトップニュースとして報じれば、そのニュースが重要なニュースであると示す力を持っています。一方、インターネットは分散するだけで、その情報が届いていなければ認識の共有も行えない。だからこそ、みるところによってみえる景色が異なっていくんです。

——SNSに関する問題だと、心身に与える影響も年々大きくなってきていると思います。

佐々木:とはいえ、もはやインターネットやSNSなしで生活していくのは難しいと思うので、共存して使いこなしていくしかないと思いますね。

たとえば、19世紀の終わり頃から軍事技術が発展しましたが、人類は軍事兵器を使いこなすことができず、その結果2度にわたる世界大戦が勃発しました。これを受け20世紀後半には軍縮したり兵器の使用を制限する条約を整えたりなど、一生懸命制御してきました。

実はインターネットもこれに近いくらい凶暴なもので、人類はまだ使いこなせていません。しかし、インターネットの登場からまだ20〜30年、SNSの普及に至っては20年も経っていない。これだけ短い期間で使いこなすことは難しいので、長い目で見守っていく必要があると思いますね。

※1:2000年11月に与党・自由民主党内で起こった内紛。自民党の若手リーダー候補だった加藤紘一・山崎拓らが森内閣の倒閣を働きかけたが失敗した。

※2:2006年、ホリエモンこと堀江貴文氏が代表取締役を務めた株式会社ライブドアが2004年の有価証券報告書に虚偽の内容を掲載したとして起訴された事件。


Book Review

『この国を蝕む「神話」解体 市民目線・テクノロジー否定・テロリストの物語化・反権力』

「権力は常に悪」「庶民感覚は常に正しい」「弱者は守られるべき存在」「人工的なものは危険」「自然由来が最良」…日本の社会に居座り続けている古くさい価値観。先端テクノロジーの進化と逆行している“神話”を解体し、未来を思考する道標としての最新論考。

佐々木俊尚(著)徳間書店(2023/9/28)


Profile

◉佐々木 俊尚(Toshinao Sasaki)


1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。


関連記事

佐々木俊尚の考える「UIの進化とDX推進を阻む日本のUI問題」Tech and Future Vol.9

佐々木俊尚の考える「医療DXにみるマクロとミクロの視点の重要性」Tech and Future Vol.8

SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
Side Banner
MAGAZINE
Iolite(アイオライト)Vol.10

Iolite(アイオライト)Vol.10

2024年11月号2024年09月29日発売

Interview Iolite FACE vol.10 デービッド・シュワルツ、平田路依 PHOTO & INTERVIEW「ゆうこす」 特集「日本国内の暗号資産業界動向」「トランプvsハリス 暗号資産業界はどうなる? 」「評価経済社会は予言書だったのか」 Interview :株式会社メタプラネット サイモン・ゲロヴィッチ、CALIVERSE キム・ドンギュ 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等

MAGAZINE

Iolite(アイオライト)Vol.10

2024年11月号2024年09月29日発売
Interview Iolite FACE vol.10 デービッド・シュワルツ、平田路依 PHOTO & INTERVIEW「ゆうこす」 特集「日本国内の暗号資産業界動向」「トランプvsハリス 暗号資産業界はどうなる? 」「評価経済社会は予言書だったのか」 Interview :株式会社メタプラネット サイモン・ゲロヴィッチ、CALIVERSE キム・ドンギュ 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等