デジタル化されつつある旅行と課題
──先日、リクルートの『じゃらん』が休刊を発表しました。現代の旅行計画では、紙よりもデジタルでの情報収集が圧倒的に便利ですが、「旅とデジタル」の関係性はどのように変わっていくとお考えですか?
佐々木俊尚(以下・佐々木):何を入口にするかによって変わってきますよね。たとえば、私は月2回ほど山登りをするのですが、登山は普通の旅行と違って時間が読めないのです。天候に左右されますし、一緒に山登りをする仲間の体力がなかったりすると、余計に時間がかかってしまいます。
最近はインバウンド観光客がすごく増えていて、電車がすごく混んでいるので、前もって特急列車や新幹線を予約しておきますが、帰る時間がわからないため、山を降りている途中にスマートフォンで予約変更しています。紙のチケットと違って、機動的に使えることがデジタルの1番の利便性だと思いますね。
ただ、「デジタル化された旅行」の膨大なノウハウは蓄積されてきているのに、意外とうまく活用されていないと感じています。私は福井県の敦賀に家を借りており、今年3月に北陸新幹線が開通したことで東京から敦賀まで1本で行けるようになったのです。
でも、東京から金沢までは「えきねっと」で新幹線予約ができるのに、東京から敦賀までになるとできない。それでいて、なぜか「WESTERポータル」では予約ができるのです。
付け加えると、先日JR東日本のシステムがダウンした時に、「JR西日本のJRおでかけネットを使えばチケットが買える」というのがX(旧Twitter)上で話題になっていました。JR東日本とJR西日本、そしてJR東海の「スマートEX」と、全部で3つのアカウントを作っておけば、仮にどれかが使えなくなっても替えが効くわけです。小田急や東武、西武鉄道といった私鉄の特急列車も、すべてチケットレス対応しています。こうした豆知識が大事だと思います。
新幹線で移動中も「どこで電波がつながるか」を事前に知っておくといいでしょう。トンネルでネットがつながりにくい時は本を読む、電波がつながっている時にPC作業をするなど、細かなライフハックを蓄積していくと、デジタル化によって旅行はすごく快適になっています。
その一方で、Suicaはガラパゴス化しており、日本でしか普及していないのが最大の問題です。インバウンド需要がさらに高まることを考えると、今後はクレジットカードのタッチ決済とPayPay、交通系ICカードの3つに集約されていくと予想しています。
──佐々木さんは過去に「TABI LABO」の共同編集長を務めていました。当時と今では旅に対する考え方がどのように変化しているのでしょうか?
佐々木:旅行スタイルのアップデートは2015年くらいからいわれ始めています。国土交通省も2019年に「ウォーカブルシティ」を掲げていますね。観光名所に行くのではなく、滞在しながら、普通の町を観光する旅行スタイルが注目されつつあります。コロナ前からオーバーリズムが叫ばれ、各地の有名な観光地はどこも人だらけという状態が定常化しています。
加えて昨今は、円安の影響でホテルの宿泊代が高騰しています。そのため、今はホテルに泊まるよりも、Airbnbでキッチン付きの物件を借りて自炊するスタイルの方が断然いい。地元のスーパーで食材を購入し、それを調理してご飯を食べるなど、“その町の住人になりきる”ことが肝です。
デンマークはアンダーツーリズムを提唱しています。何もないとされる町でも美味しいご飯や気持ちのいい景色、ふらっと立ち寄れるカフェがたくさんある。あらたな魅力や見どころを、発見することに関心が集まっています。
今の時代、観光名所や絶景スポットはSNSにたくさん写真がアップされているので、行く前からある程度何があるかわかってしまうのですよ。要するに、“再確認”でしかないわけです。有名観光地を避ける傾向はInstagramでも5年くらい前からあらわれており、「キラキラブームの終焉」なんていわれたりしていますよね。ビリー・アイリッシュが台頭してきて、自身の悩みや辛さをあらわした楽曲が流行り出したのもオーバーラップしていると思いますね。キラキラじゃなくて、自分の内面にある感情や実生活のリアルが求められているのでしょう。