──2025年は国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)という超高齢化社会が到来し、さらには企業でも1990年代後期から2000年代初頭にかけて整備したITのレガシーシステムが、次々と寿命を迎えてくる「2025年の崖」問題が始まります、前からこうした話は出ていたわけですが、なぜ対応がこれほど遅れてしまったのでしょうか。
佐々木俊尚(以下・佐々木):2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」で示された「2025年の崖」と、団塊世代のボリュームゾーンが一気に後期高齢者になっていくという2つの問題が、偶然にも2025年に重なっているんですよね。しかも、1925年が昭和元年ですから、ちょうど「昭和100年」を迎えるという3つのポイントがあると思っています。
1つ目の「2025年の崖」ですが、当初は未だに大企業が使っているSAP ERP16.0以前のバージョンの保守サポートが2025年に切れることの話でした。実際のところ、SAPのサポート期間は2027年末まで延命したことで、少しばかり猶予が伸びました。その一方で、2025年にはCOBOLを扱えるエンジニアの高齢化や人材不足を招くともいわれています。
1ついえるのは、銀行などの金融系基幹システムを切り替えるのはそう簡単ではないということです。1990年代には金融機関の破綻が相次ぎました。この時、日本長期信用銀行が新生銀行へと行名を変え再起を図った。インド人CTOを起用してレガシーシステムをすべてWindowsベースのシステムに切り替えたんですが破綻するくらいのハードランディングじゃないと、新システムへの移行は難しい。
システムにテクノロジーを入れる場合は「後からやった方が楽」という考え方があります。インフラでいうと、韓国は1990年代にADSLが一気に普及して、「ブロードバンド先進国」といわれていました。
一方で、ADSLで遅れをとった日本では2000年代に入ると光ファイバーが普及し始める。この時、韓国では、光ファイバーは普及しなかったんです。
今、光ファイバーが普及しすぎた日本では、5Gや6GなどのワイヤレスLANの普及が世界と比べると遅れています。こうした現象には「カエル飛び現象(leapfrog)」という名前もついている。日本が古いシステムにひきずられてしまっているのはしょうがない部分もあるわけですよ。
デジタル化の歴史は1970年〜1980年代にFAXやコピー機が普及した「OA化」、2000年代の情報伝達手段をFAXからメールやメッセンジャーに変える「IT化」、そして2010年代に注目を浴びるようになった「DX化」とたどることができます。
IT化とDX化の違いや必要性を考える上で、わかりやすい例がタクシー業界です。タクシー業界では、優秀なタクシー運転手は仕事の仲間同士でLINEグループを作り、「今日はあのエリアでイベントがある」といった情報交換(IT化)を行いながら、アイドルタイムをなくす工夫をしていたそうです。
ここに、タクシー配車アプリが浸透してきました。Uberでは、走行中の空車のタクシー以外にも自分のいる場所付近でお客さんを降ろす予定のタクシーも検索候補に入れてくれるんです。
こうすることで、ドライバーはLINEのやり取り時間すら必要なく空車時間を削減できる。事業のやり方や発想そのものをデジタル化してしまった、まさにDXの最たる例でしょう。
話を「2025年の崖」に戻すと、1990年代〜2000年代にSAP ERPのシステムを入れている企業のなかで、DXがうまくいっているところは意外に少ないといわれています。