── 総務省が地方自治体向けに生成AIの利用手引きを作成し、活用推進や管理を担う最高AI責任者(CAIO)の設置を求めました。しかし、役所は日本で最もIT化が遅れた組織であり、IT人材不足を補うエリアマネージャー制度などの方針だけでは根本的な解決にならないように感じます。公務員の「デジタル忌避」のような意識を変革していくことはできるのでしょうか?
佐々木俊尚(以下・佐々木):まず日本の現状をみてみると、総務省が定期的に実施している情報通信白書の国際比較調査では、日本はDXやAIといった分野で導入率が他国に比べて極めて低く、意識面でも消極的な傾向が顕著だという結果が出ています。
1990年代後半のデフレ期以降、人々の意識が後ろ向きになり、あたらしい技術に対して「面白そうだから使ってみよう」ではなく「不安だから避けたい」という価値観が強まりました。また、日本人はテクノロジーを「手作業を助ける文房具」の延長線上に位置付けてしまう傾向があります。つまり、Excelは大好きで「エクセル職人」と呼ばれる人まで出てきますが、本来のデータを共有・構造化するためのツールとしては十分に使いこなせていないわけです。このような理由から、日本ではDXやAIの導入が進みにくいのではと考えています。
自治体にとっては、コスト削減や財源確保の観点からAI活用への期待は大きいわけですが、特に市町村レベルになるとDXを担える人材が圧倒的に不足していると以前から指摘されてきました。AIに関していえば、導入や活用の難易度は格段に高くなっていると考えています。
2000年代の「IT化」は、FAXでやりとりしていた文書をメールにしたり、紙で保存していた資料をWordファイルに置き換えたりと、業務プロセスは変えずに「ツールだけをデジタルに置き換える」というものでした。2010年代に進んだ「DX」では、単なる置き換えではなく、業務プロセスそのものをテクノロジーに載せ替えることが重視されました。