IT・デジタル技術における米中からの依存脱却 日本が直面する「デジタル赤字脱却」へのジレンマ 佐々木俊尚 Tech and Future Vol.18

2026/01/30 10:00
佐々木 俊尚
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IT・デジタル技術における米中からの依存脱却 日本が直面する「デジタル赤字脱却」へのジレンマ 佐々木俊尚 Tech and Future Vol.18

「デジタル赤字脱却」へのジレンマ

サマリ

1.「デジタル赤字脱却」は必要だが、米中依存からの全面的な離脱は現実的ではない

日本が直面するデジタル赤字の背景には、GoogleやAWSなど米国発サービスへの構造的依存がある。一方で、中国・ロシアを軸とした地政学リスクの高まりを受け、西側諸国では経済安全保障の観点からブロック経済化が進んでいる。しかし、米国のデジタルサービスは生活や産業に深く組み込まれており、日本独自サービスへの全面的な置き換えは国民的合意を得にくい。脱・中国依存以上に、「対米依存との距離感」が難題となっている。

2.日本がAI・デジタル分野で出遅れた要因は規制と投資規模、勝ち筋は「基盤以外」にある

日本は個人情報保護への過度な慎重姿勢により、機械学習・AIの発展で米中に大きく後れを取った。国産AI開発への大型投資は始まっているものの、OpenAIなどの投資規模と比べると世界最先端に追いつくのは困難だ。そこで重要なのは、プラットフォームそのものを国産化する発想から転換し、オープンソースAIを活用したアプリ・サービス・産業応用に注力する戦略である。

3.日本の勝機は「フィジカルAI」と素材・部材によるインフラ支配にある

今後のAIの本命は、ロボットや自動運転など物理空間を制御する「フィジカルAI」だと佐々木氏は指摘する。この分野では新素材や精密部品が不可欠であり、世界トップクラスの素材メーカーを擁する日本に強みがある。最終消費財で勝つ必要はなく、ITインフラや製品の「根幹」を支える部材供給国として価値を発揮し、サービス利用料と部材輸出の黒字で全体収支を改善する——これが日本にとって現実的かつ持続可能なデジタル戦略だと結論づけている。


──我々は、海外のインターネットサービスに毎月かなりの費用を支払っています。もし海外企業への資金流出が日本経済の足かせとなるのなら、看過できない問題です。また、2025年11月、独仏首脳が「IT・デジタル技術分野での米中依存からの脱却」を訴えました。日本も歩調をあわせるべきなのでしょうか?

佐々木俊尚(以下、佐々木):「経済安全保障」という言葉はここ最近すごくいわれるようになりました。実際に中国への依存が強すぎると、何か問題が起きた時に経済の足を引っ張られるという懸念が高まっています。

ウクライナ紛争をきっかけにロシアと欧州が対立し、さらにはロシアと中国が接近したことで、欧州は非常に困難な状況に陥った。たとえばドイツのように、高級車を中国に輸出して大きな利益をあげてきた国ほど、その影響は深刻です。

中国やロシア、北朝鮮、イランといった独裁政権の国々が連携を深めるなか、西側諸国はそういう国々と距離を置き、「独自の経済圏を築くべきだ」というブロック経済の流れが、この5年ほどで顕著になっているわけです。

「脱・中国依存」以上に難しいのが米国との距離感です。GoogleやX(旧Twitter)など、生活や仕事に深く根付いたサービスの多くは米国企業のものです。今さらそれらをすべてやめて、日本独自のサービスに切り替えようといっても、なかなか国民の理解は得られないでしょう。

日本政府としてはデジタル赤字を何とかしたいという問題意識があって、その流れで「国産AI開発」という話が出てきています。直近ではソフトバンクなどが出資する新会社が、官民連携で1兆パラメータ規模の国産AIを開発する構想が動き始めていて、総事業費は3兆円規模にのぼるといいます。そのうち1兆円を国が出すというのは、政府としてもかなり思い切ったと思うんですよ。

ただ世界と比較すると、OpenAIがこれまでに締結してきたコンピューティング関連の契約総額はおよそ150兆円ともいわれており、日本の投資規模で世界最先端に追いつくのは極めて難しいです。

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