Transfer of information
佐々木俊尚氏にテクノロジーと社会の未来を訊ねる連載企画。
今回のテーマはマスメディア、そして新聞やテレビの「未来」
——現代のメディアのあり方についてお聞きできればと思います。まずコミュニケーション学者ウィルバー・シュラムが60年代にマスメディアの役割を「監視」「討論」「教師」の3つの機能としましたが、現在ではSNSや動画プラットフォームの普及によりその意味合いも変化してきたように思えますがいかがでしょうか?
佐々木俊尚(以下・佐々木):メディアの役割というのは色々な考え方がありますが、まずは「情報の伝達」、次に「権力の監視」、もう1つは今何が社会にとって重要なのかという「アジェンダの設定」という3つがあげられます。
そのなかで「情報の伝達」に関していうと、インターネットの出現でメディアの役割は低下してるといえます。 たとえば、新聞でいうと災害や紛争などが起きた場合に朝刊夕刊よりもSNSの方がもはや情報発信は早いわけです。
テレビもインターネットと同じぐらい早いですが、情報源となっているのがインターネットとなっているものが多いですよね。テレビや新聞の世論とインターネットの世論は乖離している部分があります。
たとえば、政権支持率に関しても世論調査の支持率とインターネット上の支持率が近いということもあり、自民党政権はインターネット上の支持率を重要視して、新聞やテレビを経由せずに有権者に向けてインターネット上で情報発信しています。
このように「情報の伝達」という部分においては、もはやマスメディアがなくてもインターネット上で完結するということが起こっているといえると思います。
——「アジェンダの設定」に関してはいかがでしょうか?
佐々木:「アジェンダの設定」ということに関してはインターネットは弱いかなと思います。インターネットは情報が集約されないまま拡散するという特性があり、WebサイトやSNSアカウントが無限に作られる世界です。
つまり、枠の有限性がないので、何が重要なのかという共通認識が生まれにくいんです。実際に、SNS上の一部だけで盛り上げるということが起こるのはこのためです。
その一方で新聞とテレビは限られた枠内で情報を発信し、その枠内のトップがニュースの重要性の担保になっている、もしくは掲載されるだけで重要にみえるんです。
——「権力の監視」に関してはいかがでしょうか?
佐々木:権力の監視もインターネットでは難しいのではないでしょうか。今のインターネットの重要な問題というのは儲からないということなんです。権力の監視、調査報道というのは取材にものすごくお金がかかるんです。1本の取材で何十万円や、取材によっては100万円以上かかるものもあります。
インターネットのない時代は媒体の数が限られ、需要に対して供給が少ないため、テレビCMや新聞の広告費が高額でした。そのため、かつてのテレビや新聞は高額な調査費用を補うだけの余裕がありました。
一方でインターネットはいくらでも情報量が増やせるので需要過多になります。そのため、Webメディアを立ち上げたとしても、いきなり何百万人に読まれるということは難しいと思います。確かに1つの記事が偶然バズって何百万人に読まれるということはあるかと思いますが、その記者が書いた記事が継続して読まれるということはまずないと思います。
つまり、かつてのテレビや新聞ほどの広告費は入らないので、調査報道をインターネットでやろうと思っても不可能です。ただし、新聞も部数がどんどん減って衰退局面に入って、仮に新聞がなくなった後に調査報道や権力監視をどうするかというのが悩ましい問題になってきていると思います。