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佐々木俊尚の考える「UIの進化とDX推進を阻む日本のUI問題」Tech and Future Vol.9

2024/08/26佐々木 俊尚
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佐々木俊尚の考える「UIの進化とDX推進を阻む日本のUI問題」Tech and Future Vol.9

DX推進の妨げになっているUIの使いづらさは企業側の体質の問題

本気でDXを推進するならUIを完璧にやらないとダメではないか?

——UIの進化と日本のDX推進を阻むUI問題についてご見解をお持ちでしょうか。

佐々木俊尚(以下・佐々木):まずDXが推進するなかでUIが進化してインターネットが使いやすくなるというのが間違いなくあるわけです。

今から20年以上前、90年代にパソコンがようやく日本社会に普及して、インターネットが使われるようになった時代を振り返ってみると、あの頃書店に行くとパソコンの使い方入門みたいな本がたくさん売ってたんですが、スマホ時代になって、PCも含めて入門書を読んでいる人というのは少ないと思います。それはそれだけUIが進化して使いやすくなったということなんですが、 Android OSにしろiOSにしろ、直感的に使えるようになっているので、まったく予備知識なしに使い始めてもそこそこ使いこなせるくらいにはなってきています。それも年々使いやすくなってきている。

UIの進化というのはMS-DOS時代のCUIから、80年代後半から90年代にかけてMacやWindowsのGUIとなり、2000年代半ばぐらいのスマートフォンの登場でディスプレイをタッチ操作するようになるんですが、マウスで操作するか指で操作するかの違いで、基本的にはパソコンのGUIと同じ操作系だったので、過去数十年のパソコンなどのUIの進化は実質1回しか行われてないともいえるんです。

——今後はUIが劇的に変わる可能性がありますか?

佐々木:そうですね。生成AIが登場してから今後はOSがUIの中心になるといわれるようになったなかで、今後のUIの進化を考えると、ひとつは音声で入力するのが当たり前になるということです。また、Apple のVision ProのUIがジェスチャーの動きだけということから、もうひとつの方向性として、Appleが次に考えているようなジェスチャーUIですね。

そのジェスチャーUIと生成AIが音声対応するという方向性がリンクする可能性もあって、最終的な着地点というのは音声とボディーランゲージでコンピュータと会話するという方向なんじゃないかと思います。

——デバイスと会話するのが当たり前の時代になる?

佐々木:そう、まさに我々人間が人間同士で喋る時と同じ感じですよね。メニュー画面とか全部なくなって、我々が人と喋るのと同じようにコンピューターとも喋り、ボディーランゲージで話すという方向に最終的に行き着くんじゃないかと。

さらには音声とボディーランゲージだったら、今のスマートフォンの形態は必要なくなるので、デバイスの形態が超小型化して、我々が日常的に目にすることはないという可能性があるわけです。

——もはやデバイスとも呼べない形態になる?

佐々木:一時的にはそうですね。でも、やはり人間というのは何か目の前にいないとコマンドが出しにくいんですよ。それは音声とボディーランゲージだからこそ、それに対する反応が自然言語プラス自然な身体表現みたいなところが必要なわけで、そうなるとデバイスの最終着地点というのはロボットなんじゃないかと思います。

だから、何十年後か先にきっと小型のロボットを連れて歩いたりとか、小さなロボットを肩に乗せてしゃべり続けているという世界がやってくるかもしれない。そうなると基本的にはUIの使いづらさというのは完全消滅するんじゃないかなと思います。

UIのわかりづらさがDX推進の妨げになっている

——DXを推進する過程でUIが重要なファクターとなるということですか?

佐々木:そうですね。そこが日本におけるDX推進の妨げになっているのではと思うことがあります。たとえば、今やキャッシュレス決済が定着して、スーパーなどでもさまざまなキャッシュレス決済が使えるようになっているんですが、その一方で、高齢者がまだ現金で支払いをしている光景も目にします。

なんで高齢者が現金を使っているかというと、もちろん、さまざまな理由で意図的に現金の方がいいという主義の人もいますが、結局、キャッシュレス決済にするための最大のハードルになってるのは最初のアカウント設定なんですよね。

慣れていない人にとってはこのハードルが異常に高いんじゃないかと思うんです。あとよく聞くのがiPhoneを使っているけど、Apple IDがわからないとか。Apple IDですらわからない人たちにとって、Face IDに銀行口座を登録できますといったって、もはやそのFace IDが何なのかさえわからないわけですよ。

マイナカードにしても日本企業のサービスにありがちな、なぜかID、パスワードの2つ3つ設定させるとか、Gooleなどが乗っ取り防止のために2段階認

証になっているとか、そういった最初のハードルが現状高すぎるというのと、使い慣れている状態だと何も問題もないんだけど、いざ何かトラブルが起きたときにアカウント取り直すとか、パスワード設定し直すにしても、非常に使いづらいのが今のDXの問題なんじゃないかなという気はするんですよね。

——たしかに高齢者は理解しづらいと思います。

佐々木:そのほかにもSUICAにオートチャージするためのクレジットカードへの紐付けや、これはもう改善されているのですが、JR西日本のe5489ネットでは過去にJR西日本発行のクレジットカードしか使えないとかあったんです。

こういうUIそのものが使いづらいというのもDX化を邪魔している要因のひとつだと思います。─企業側のセキュリティを万全にするという理念が逆に足を引っ張っている印象ですね。

佐々木:そうですね。日本はちょっとでも漏洩事故が起きた途端に大騒ぎして企業の経営者などが記者会見するので、現場の担当者からすると絶対に漏洩させてはいけないとガチガチにしてしまうんでしょうけど、Webを扱う以上はある程度セキュリティのリスクがあるわけですから、許容せざるを得ない場合もあるという認識が必要だと思うんです。

でも、それがとにかく日本の企業における非常に使いづらいWebにつながっていると思いますね。だから、本気で日本がDXを推進するなら、このUIの話をもうちょっと完璧にやらないと、多分ダメじゃないかなと思いますね。

あと、いわゆるITゼネコンと呼ばれる企業のWebサービスというのがとにかく使いづらいんですよ。それよりは日本でもスタートアップ企業などの方が使いやすいサービスが多いんですが、企業ユーザーはITゼネコンのサービスを使うことを強いられているというのも問題かと。

——企業ユーザー側からすると大企業のサービスだから安心という感じでしょうか?

佐々木:そういうのもあると思いますが、私の知り合いにDXのコンサルみたいなことをやっている方がいるんですが、その方曰く、中小企業の社長さんたちに多いのは流行りだからDXを導入したいという社長さんたちだと。

経営のあり方そのものを変えるのがDXなのに対して、過去のIT化のように何かのツールを導入すればDX化すると思っているようなDXそのものに対する理解不足の方々が多いと聞きました。このような方々が理解不足のままDX化を進めるとITゼネコンにいわれるがまま使いづらいサービスを導入するなんてことも起こるんだと思います。

そういった経営者がいるというのもDX化を阻んでいる要因かもしれません。


Book Review

『この国を蝕む「神話」解体 市民目線・テクノロジー否定・テロリストの物語化・反権力』

「権力は常に悪」「庶民感覚は常に正しい」「弱者は守られるべき存在」「人工的なものは危険」「自然由来が最良」…日本の社会に居座り続けている古くさい価値観。先端テクノロジーの進化と逆行している“神話”を解体し、未来を思考する道標としての最新論考。

佐々木俊尚 (著) 徳間書店 (2023/9/28)


Profile

◉ 佐々木 俊尚(Toshinao Sasaki)


1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。


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