今号より連載をさせていただくこととなった楽天ウォレット株式会社でシニアアナリストを務める松田康生です。今後、暗号資産市場の動向を解説していきますのでよろしくお願いいたします。
6月の振り返り
6月のBTC相場は上値トライに失敗すると、月末にかけてはレンジの下限をトライする展開となりました。ファンダメンタルズは比較的追い風で、月初の雇用統計は強めに出ましたが、注目のCPIは予想を下回りました。そうしたなか、FOMCメンバーの予想に反して、先物市場での年内の利下げの織り込みは1回から2回に上昇、BTCには追い風となりました。
またBTC現物ETFへの資金フローが相場を押し上げました。5月13日から4週間で40億ドルの流入となり、6月7日にはBTCは5月に付けた円建て史上最高値1,124万円に肉薄しています。
しかし、翌週からETFフローがマイナスに転じると相場は一変、月末にはMt.GOXが7月初めから90億ドル分のBTCを債権者に弁済するとしたことが嫌気され、一時930万円台まで急落しました。
テクニカル的にみると、2月から3月にかけて急上昇した後、概ね900~1,100万円のレンジ取引を続けています。5月始めにはレンジ下抜けをトライ、880万円まで値を下げたがダマしに終わり、6月は1,124万円まで付けるもダブルトップをつけレンジ上抜けに失敗、再びレンジの下限を探る展開となっています。
今後の見通し
この先2ヵ月のBTC相場はレンジ内での取引が続きそうです。6月末にかけての急落の背景には、未知数で潜在的な売り圧力であるMt.GOX関連の売り圧力の影響もありましたが、かつて大口保有者として知られていた同社が今回弁済する14万BTCは、ブラックロックのBTC現物ETF(IBIT)の半分以下です。こうした状況を踏まえ、今回の急落の背景にはマイナーによる売り圧力があると考えています。
半減期を巡るBTCの4年サイクルでは、まず半減期に向けて期待先行で上昇すると、半減期後は利食い売りや採算が悪化したマイナーの投げ売りで半年から1年程度低迷します。その後、半減期による供給減の累積効果がじわじわ効き始め、半年から1年かけてピークに向かいますが、今回も従来のパターン通り、半減期後の低迷期に入った印象です。
とはいえ、この低迷は「暗号資産の冬」ではなく、季節にたとえると「梅雨入り」した格好で、その後に暗号資産の暑い夏が待っていると考えています。そうした期待感があるため、多少の売り圧力では相場は底割れしないと思います。今回でいえば、まだ7月は早いが、市場は9月ないし11月の利下げをみているし、保険や年金などの伝統的機関投資家の参入によりETFフローの第2波の到来が予想されています。
また、米国中心だった機関投資家のBTC市場参入の動きがほかの地域にも広がっていくことが期待されています。野村ホールディングの調査によれば日本でも機関投資家547社のうち54%が3年以内に暗号資産を購入する意向を示しており、例外ではありません。
こうしたなか、BTCはしばらく底堅く推移しそうだが、残念ながら市場が閑散となる(本物の)夏場は供給が一定のBTCにとって苦手な季節で、上値も重い展開が続きそうです。
◉松田康生(Yasuo Matsuda)
楽天ウォレット株式会社シニアアナリスト
東京大学経済学部で国際通貨体制を専攻。三菱UFJ銀行・ドイツ銀行グループで為替・債券のセールス・トレーディング業務に従事。2018年より暗号資産交換業者で暗号資産市場の分析・予想に従事、2021年のピーク800万円、年末500万円と予想、ほぼ的中させる。2022年1月より現職。
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