楽天ウォレット株式会社でシニアアナリストを務める松田康生です。今回も暗号資産市場の振り返りや今後の動向を解説していきますのでよろしくお願いいたします。
8月の振り返り
8月のBTC相場はドル建てでみるとわかりやすいです。7月末に70,000ドルを付けると8月初旬にかけて50,000ドル割れに急落。その後、反発し60,000ドルを挟んでのもみ合い推移が続いています。
BTCUSDでみた相場急落の3つの要因
この20,000ドルを超える下落要因は主に3つのフェーズにわかれます。まず第1フェーズの70,000ドルから65,000ドルまでの下落は米大統領選におけるハリス氏の追い上げが大きいと考えています。7月27日のビットコインカンファレンスでトランプ氏は暗号資産に敵対的なゲンスラー委員長の解任と米国政府が準備資産としてビットコインを保有することを提唱、ビットコインが70,000ドルにワンタッチしました。
しかし、劣勢だったバイデン大統領からバトンを受け継いだハリス氏がトランプ氏との差をどんどん追い上げると「ほぼトラ」で積みあがったポジションの巻き戻しもありビットコインはずるずると値を下げていったのです。
第2フェーズの65,000ドルから61,000ドルへの下落は、米国の景気悪化懸念が主因です。ISM製造業景況感指数や雇用統計が悪化。これまで景気後退を示す指標には利下げが近くなるとリスクオンで反応していた市場ですが、景気悪化懸念からリスクオフとなりビットコインも売られていきました。
第3フェーズの61,000ドルから49,000ドルに至る急落は円高と日本株の暴落によるものです。7月末に日銀は利上げを実施、植田総裁はさらなる利上げを示唆しました。すると円キャリー取引のアンワインドが殺到し、企業収益の悪化懸念から日本株は急落しました。8月5日にはドル円が1日で5円下落。日経平均はブラックマンデーに次ぐ史上2番目の下落率を記録しました。
驚いた当局が財務省・日銀・金融庁の3者会談を開催。内田日銀副総裁が、市場が混乱している間は利上げを行わないとすると、ドル円は反発、日本株も値を戻しました。ビットコインも62,000ドル台に反発、第3フェーズの下落は全戻ししました。また、米景気悪化懸念も後退しています。ISM非製造業景況感指数や小売売上高などが好転、この第2フェーズの戻しは現在進行中のイメージです。
ただ、ハリス氏の勢いは止まらず、足元の世論調査ではトランプ氏を追い抜いています。トランプ氏が当選すればイーロン・マスク氏やロバート・ケネディJr氏の政権入りなど暗号資産業界にとってドリームチーム結成が囁かれているのに対し、ハリス氏当選の暁にはゲンスラーSEC委員長の財務長官登用が報じられています。ハリス氏は暗号資産に対する政策を明らかにしていませんが、ハリス優勢ならビットコインは売りとの見方が広まりつつあります。
10月見通し
このように、円高・日本株安懸念は後退、過度な米景気悪化懸念は後退しており、相場は底堅さをみせ始めていますが、大統領選挙の行方が不透明で相場の重しとなっています。決戦の11月が近付くに連れ、「トランプなら買い、ハリスなら売り」という構図で大統領選挙の行方がビットコイン市場の焦点となりそうです。
9月の第1回TV討論会を経ても両者の支持率に大きな差はついていない模様です。もし10月に第2回TV討論会が開催され、そこでトランプ氏が差をつけられれば、「ほぼトラ」トレードで70,000ドル、さらには史上最高値更新もあり得そうです。
Profile
◉松田康生(Yasuo Matsuda)
楽天ウォレット株式会社シニアアナリスト
東京大学経済学部で国際通貨体制を専攻。三菱UFJ銀行・ドイツ銀行グループで為替・債券のセールス・トレーディング業務に従事。2018年より暗号資産交換業者で暗号資産市場の分析・予想に従事、2021年のピーク800万円、年末500万円と予想、ほぼ的中させる。2022年1月より現職。
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