——今年3月以降、米国で銀行の破綻が相次いでいる。この影響を大きく受けているのが、ITを始めとするスタートアップだ。
2023年以降、米金融機関の経営破綻が相次いでいる。3月にはITスタートアップを取引先とするシリコンバレーバンク(SVB)、暗号資産関連企業が主要取引先のシルバーゲート銀行、シグネチャー銀行、5月にはカリフォルニア州が拠点のファースト・リパブリック・バンク(FRC)といった具合だ。
なお、こういった金融不安は欧州にも広がり、3月にはスイスのクレディ・スイス(CS)にも飛び火。同国中央銀行はCSに500億フランの資金注入を発表し、同国トップのUBS銀行がCSを買収することで、事態は沈静化を迎えた。
SVBとシグネチャー銀行は破綻規模が大きく、FRCに至っては、SVBを上回り米銀行破綻として史上2番目の規模。その後、米金融当局は金融システム全体への影響を抑えるため、SVBの預金を全額保護すると発表。FRCに関しては、預金と資産を大手JPモルガン・チェースが買収するとも明らかに。全米8州計84店舗は、同行の店舗として営業を再開している。
一連の破綻劇の引き金は、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度)による、度重なる政策金利の引き上げだ。同国ではコロナ禍以降に大胆な金融緩和を実施したことで、2021年12月以降およそ1年間にわたり、消費者物価指数が7%超を記録するインフレが勃発。国民生活に大きな影響を与えた。
行き過ぎた投資や消費を抑え込むため、22年3月から今年5月にかけて計9回の金利引き上げを実施したが、これにより国債の金利上昇、さらに顧客の資金引き出しを招くことに。一気に資金繰りが悪化し経営破綻に陥った。3月に破綻した3行はITスタートアップや暗号資産関連企業が主要顧客だったことも関係している。
コロナ禍以降、金融緩和によりだぶついた資金は、これら成長セクターに流れ込んだが、金利の引き上げでITスタートアップは借り入れのハードルが上がるばかりか、有利子負債の返済リスクは高まった。
株価も低迷したため、IPO(新規上場)による市場からの資金調達も容易でなくなり、その例としてSVBは貸し倒れや、資金繰りが悪化した取引先企業の預金引き出しに耐え切れなくなった。
暗号資産に関しても、利上げに伴い米国債の金利が上昇すれば、多くの投資家がより安全な方に資金を向けるのは明白なこと。暗号資産を売却する人が増えたことで取引所を運営する企業の業績は悪化し、その融資先の2行にも影響が及んだのだ。
とりわけ、今の状況はスタートアップにとって大きな逆風だ。これまでは低金利を追い風に融資を受け成長を維持してきたが、高金利下では脆弱な資金基盤が保ちそうにない。
一方、スタートアップに出資してきたVCにとっ ても現状はネガティブだ。彼らも投資資金を金融機関からの融資に頼ってきたので、高金利や金融不安は投資意欲をそいでしまう。
米国といえば、GAFAMを輩出するなどITで世界経済を牽引してきたが、これからはどうなるのか。これら企業もレイオフを発表するなど、先行きは怪しい。米国発の金融危機が、これ以上世界に広がらないことを切に願う。