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Web3.0と農業をかけあわせた「Metagri」が “次世代農業”で起こす変革|Metagri・甲斐 雄一郎 インタビュー

Shogo Kurobe
2023/09/28

NFTとFTを活用したあらたな農業金融経済のカタチ

農作物を購入した後に価格付けする“値段を決めてイーサ”プロジェクトなど、先進的な取り組みを行う仕掛け人が「Web3.0×農業」の可能性を語る。

——事業を進めていく上で感じた千葉だから こその強みや現状についてお聞かせください。

甲斐雄一郎(以下、甲斐):千葉の強みは都市圏に近くアクセスが良いこと、人口が多い点があげられますね。一方、Web3.0やNFTはチャレンジングな取り組みということもあり、まだ県や市としての取り組みが進んでいないと感じています。「千葉 NFT」などで調べてもほとんど事例が出てこないのが実態です。まだチャレンジングなことをするためのモチベーションがそれほど高まっていないのだと思います。

手が付けられていない領域で活動を行うことでイニシアチブを取りやすくなりますので、逆にそれが私にとってメリットに映っています。デジタル分野ではSEO対策が重要となりますが、地域における競合が少ない状況ですので、積極的に行うことで独自のポジショニングを確立できると考えています。

——まだ“更地”のような環境であることから優位性を取りやすいということですね。

甲斐:そういうことです。実際、こうした取り組みが実を結びつつあります。公益財団法人の千葉県産業振興センターから「Web3.0におけるビジネスプランを考えてもらえないか」という依頼がありました。通常であれば私たちの方からプランを提案したりするものですが、逆にお声をかけていただいた形ですね。

こうした動向からも、千葉県としてWeb3.0ビジネスに前向きな姿勢がみえつつあります。大きなビジネスチャンスであると認識し、現在は依頼に沿ったプランを準備しています。この分野でのリーダーとしての役割を担うことで、千葉のDXを牽引する存在になりたいですね。


Web3.0を活用することで、今までにないDXの形を作れるのではないか

——千葉でのDX戦略について教えてください。

甲斐:Web3.0やNFTはインフラですので、どの業界にも当てはめることができます。その事業領域との親和性を考えた時に、農業というのは外せないと思いました。

千葉は梨と落花生が名産で、梨については12年の歳月をかけて2017年に新種「秋満月(あきみつき)」が開発されました。私も新種の「秋満月(あきみつき)」を食べて美味しいなと感じたのですが、それがほかの事業者になかなか伝わっていないのが現状です。事業者に伝わっていないということは当然、消費者にも伝わっていません。

こうした状況を、Web3.0やNFTといった技術を活用すればPRできるのではないかと考えています。またNFTを取得した人の履歴はトレーサビリティとして残るので効果的なマーケティングも実現できます。Web3.0を活用することで、今までにないDXの形を作れるのではないかと思います。

——農情人では「Metagri研究所」というコミュニティを手がけていますが、どのような目的から立ち上げられ、具体的にはどういった交流が行われているのか教えてください。

甲斐:そもそも最初はコミュニティを立ち上げることを考えていませんでした。私はもともと文章を書くことが好きだったこともあり、電子書籍を出す機会が度々ありました。

ちょうど2021年末に次の題材を選ぶ過程でNFTと農業の組み合わせを調べた時、ほとんど情報がなかったんですね。競合がいないという視点から、「Web3.0×農業」の本を書こうと決めました。

その際、何かあたらしい造語を作れないかなと思い「メタ農業」、「メタファーム」など、いくつか考えました。最終的には「メタ(超越)」と「アグリ(農業)」を英語にした際、「A」の部分が重なるなと気付いて「Metagri」に落ち着いた形です。

その後、本を出した後に複数の問い合わせが来たんですね。なかには「一緒に何かやりませんか?」と声をかけてくださる方もおり、そういった方々とZoomで会議をする機会が増えていきました。Web3.0と農業を調べ、私の本をみつけて問い合わせをしてくださるというのはかなり私に近い考えを持っている方々で、非常に貴重な存在でした。

そのなかの1人が、「コミュニティを作ってみたらどうですか?」と提案してくださったんですね。それで昨年3月にDiscordでコミュニティを作りました。

——コミュニティは5人からスタートして現在では700人まで増えましたね。

甲斐:700人のうち1割ほどが農業に携わる方で、残りの9割は農業とは関係のない仕事をされている方々です。医療系の方とか教育関連の方ですとか、本当に異業種の方が多い有志のコミュニティになっています。

まず農業を超越するということが前提としてあるので、そこに対して皆、課題感ですとか農業を進化させるという気概を持っています。そこを共通項として、うまくまとまっています。

——「Metagri」はDAO感が強いコミュニティだと思いますが、何か工夫していることはありますか?

甲斐:これまでは「NFTやトークンを配ったらやる気が出るよね」というのがWeb3.0を活用する1つの形だったと思いますが、私達は逆なんです。皆ボランティア的な感じで、皆さんが持つ異業種での知見やノウハウを農業にあてはめたらどうなるのか議論をして、プロジェクトを立ち上げています。

現状、Metagriでは農産物を皆さんに配るくらいのインセンティブしか設けておりません。皆さんそれぞれがプロジェクトをやっていることが楽しいとか、可能性があるということをモチベーションにしているので、結局NFTを配るなどのWeb3.0的なインセンティブは後付けでしかないと考えています。

ちなみに、これまでにMetagriでもNFTを販売したことがあります。初期の頃は20点販売しましたが、全部が売れたわけではありません。「トマトNFT」というものも50点ほど販売して3、40点ほどしか売れませんでした。ですので、プロジェクトの収支だけでみれば良くてトントンといったところです。

こうした観点から、私含めコミュニティでは「NFTってそもそも儲けるための手段ではないよね」ということを再認識しましたね。

現在、NFT市場は冷え込んでいるといわれていますが、我々のコミュニティは正反対で、非常に盛り上がりをみせています。お金を稼ぐことが目的ではないからこそ、市場に関係なく安定しているのだと思います。

コミュニティの盛り上がりがプロジェクトの成果にもつながり、その効果もあって地方自治体からもお話をいただいておりますので、我々としては「むしろ春が来ているな」という状況です。


9割の“非農家”にとって農業変革が大きなモチベーション

——Metagriでは”値段を決めてイーサ”プロジェクトを立ち上げられましたが、どういった経緯・背景で始めたのですか?

甲斐:今年3月にテレビ業界で働く方から、知り合いのマンゴー農家さんと一緒にプロジェクトができないかという話をいただきました。でも当時はNFTの価格が全体的に大きく落ちていたので、マンゴーが美味しくてもNFTをセットにしたところで売れないのではないかと思いました。

そこでコミュニティの方に声をかけ、まず10人限定で販売することにしたのです。2ヵ月かけて生産者から直接的に情報を提供いただき、実際に食べてもらい、NFTをフリーミントした方に命名権を提供するなどした結果、「いくらの値付けをしますか?」と問いかけました。

それが始まりです。NFTを使う意味や目的など悩むこともありましたが、結果的にうまくいって良かったなと感じています。

——取り組みを通じて農家の方からWeb3.0への関心を感じたりしましたか?

甲斐:正直、9割ぐらいの方は消極的だと思います。その一方、Metagriの名前を知っているということはWeb3.0について関心がある方とみていいのではないでしょうか。その時点でWeb3.0に興味があるなしの問題はクリアされています。そのため、そういった方とはZoomなどですぐディスカッションに入れます。


分散型金融を組み合わせた「FarmFi」で支援の輪を広げる

——Metagriを通じて農業のイメージが変わり、一種の“農業変革”が起きそうな予感がしてきますね。

甲斐:私は農業を変えるのはMetagriに参加しているようなコア層の“プロ農家”だと考えています。まだまだ一部ではありますが、そういうプロ農家を主体として各地方の農家のあり方を変革していけたら良いと思います。それがミッションでもあります。

その結果、農家の進化や全体の活性化につながると思っています。ですので、今はそういった先進的なプロ農家に結果を出していただくことにコミットしています。その上で、現在は「FarmFi」について考えています。

——「FarmFi構想」について教えてください。

甲斐:FarmFiは農業と分散型金融を組み合わせる構想で、これが次世代農業の形になるのではないかと考えています。

まずDAOというコミュニティがあって、ここで活動する方もいます。たとえばWebサイトを作ったり、SNSで発信したりする方など、コミュニティに貢献してくれる方にはトークンを配布します。

そして、プロジェクトに共感して購入してくれるなど支援してくださる人にはNFTの配布を考えています。一種のクラウドファンディングのような形で農家への支援金を貯めていくことを想定していますね。

また、将来的に規模が大きくなればエンジェル投資家のように、このプロジェクトには未来があるから投資したいという方も出てくるかもしれません。そういう方には投資していただいた担保としてNFTやトークンをお渡しするなどといった仕組みも考える余地があります。

DAOではトレジャリーウォレットというコミュニティの意志決定でしか引き出すことのできない仕組みがあるので、そこにお金をプールしていって使い道について議論を進めていきます。

たとえば、台風などの天災によりビニールハウスが破損したり機械が破損してしまったりということが往々にしてよく起きます。水不足に陥りナスなど野菜の出来が悪くなってしまうこともあるでしょう。

そういった方々が再び農業を再開するにはやはりキャッシュが必要となります。その際、支援が必要な方の過去の経歴や実績から与信判断を行い、お金を貸します。つまり銀行ではなく、コミュニティが担保価値を評価してお金を貸し出す仕組みを作ろうということです。

仮に1,000万円を貸し付けたとして、5年後に体勢を立て直してもらったらその時にお金に加えて、農産物とか何か別の形でプラスアルファを上乗せして返してもらうことなどを考えています。

コミュニティ内での相互扶助の仕組みができたら農家さんもそうなんですけれども、消費者にとってもプラス効果が出てくるのではないかと思います。

現在、水不足などさまざまな理由で野菜の値段が高くなっていて、これからさらに農産物を購入することが難しい時代になっていくことも想定されています。

今は輸入に頼ることができていますが、将来的にそれがいつまで続くのかも不透明です。食の安全保障の問題で、お金を持っていても農産物が買えなくなるかもしれない。そういった時に、コミュニティが「保険」のような形で機能することが理想ですし、それを表現していけたらと思います。

——社会貢献とDAOは相性が良いといわれていますね。

甲斐:もとをたどると、DAOというのは目的ではなくて、ビジョンを実現するためのパーツとして使えるものを取り入れていければ良いと思っています。DAOのコミュニティは「オンラインの村」のようなものです。そこには村社会を形成する何らかのプラスアルファや情的なものが必要です。それを両取りするのがFarmFi構想です。

——今後の展開や目標について教えてください

甲斐:目先ではコミュニティに関わる人に持続性を持たせることです。今はボランティア的な形で成り立っていますので、本業が忙しくなったりしたらフェードアウトする人もいます。これは大きな課題と捉えています。

そのため、将来的には副業的な形で収益を得られるようにMetagriでもマネタイズができる仕組みを作っていきたいです。その先では、ライスワークとライフワークに隔たりを設けず、1つのことを通じてその両方を実現できるような社会を形成していきたいですね。



Profile


甲斐 雄一郎(Yuichiro Kai)
イギリスのマンチェスター大学院で農村開発学修士号取得後、カンボジアのNGOで現地インターン。インターン卒業後、専門商社に入社し「植物工場事業」の新規立ち上げに従事。そこで、「農業×IT」の必要性を強く感じ、外資系ITコンサル企業に入社し、ITコンサルタントチームに所属。「農業×IT」で儲かる農業を海外で実現すべく農業ベンチャーに入社し、タイでイチゴ生産事業の立ち上げを担当。コロナ禍をきっかけに国内回帰し、2021年8月より「株式会社農情人」の代表取締役に就任。農業の常識を超越する「Metagri(Meta(超越)+Agri(農業))」 を合言葉に持続可能な方法で長期にわたって美味しい農作物を生産できる仕組みの実現を目指している。



Metagri研究所
【HP】
https://metagri-labo.com/
【Discord】
https://discord.com/invite/hyw3AkKa8e



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