
識者談「今、この人のハナシを聞きたい」——藤野周作 前編
国内最大規模のIEOを仕掛ける暗号資産取引所coinbook。その要ともいえる司令塔のバックボーン、そしてNippon Idol Token(NIDT)とはどのようなトークンなのか迫る——
昨今、日本においてIEO(Initial Exchange Offering)事例が徐々に見受けられるようになっている。これは日本が暗号資産フレンドリーな国家になっていく上で極めて重要なムーブメントだ。
この春には暗号資産取引所coinbookおよびDMM Bitcoinにおいて、オーバースが発行する「Nippon Idol Token(NIDT)」のIEOが控えている。
これまでの国内IEO事例において最大規模の調達額を予定しており、プロジェクトのプロデューサーにはAKB48グループや坂道グループ等を手がけてきた秋元康氏が就任したことから、今注目を集めている。
そんな巨大IEO案件で、coinbookの司令塔として活躍するのが藤野周作氏だ。今回のインタビューでは、藤野氏がどのような経緯でWeb3.0領域に足を踏み入れたのか。そして、NIDTやcoinbookの今後の展望等について話をうかがった。
——藤野さんがこの業界に足を踏み入れるきっかけについて教えてください。
藤野:もともと、私の出身はファミリーマートの法務部門です。2009年の消費者庁設置後、第一号となる行政処分を受けたのがファミリーマートだったのですが、この担当者となったことがきっかけかもしれません。
おにぎりの包装紙に「国産鶏肉」と記載していながら、実際にはブラジル産鶏肉を使用していたのが問題となりました。ファミリーマートが国産鶏肉を使用する予定だったところ、ベンダーがブラジル産に切り替えていたのを確認できず、商品販売してしまったという事件です。
これは消費者庁やマスメディアにも説明したのですが、ファミリーマートは国産鶏肉を使用することを社内書面、ベンダー向け書面などに明記しておりました。
ところが、ベンダーはブラジル産の鶏肉を仕入れておにぎりを製造していたのです。でもね、実は一概にベンダーが悪いとも言い切れないのです。原材料が商品として加工されて店に並ぶまでには非常に多くのプレイヤーがいますので。
この件で、原材料管理の改善について消費者庁に報告をする必要がありました。
難しいのは、ファミリーマートの傘下企業だけであればファミリーマートのトレーサビリティ(履歴情報管理)システムに対応するように指示を出すだけで済むのですが、それ以外に国内外の業者さんもいますから簡単にはいきません。
その延長で、翌年2010年にブロックチェーンという言葉を聞きました。知ったとはいえ、触ったこともないし、よくわからない。でも、実現は難しいかもしれないが、トレーサビリティ関連を管理する手法として書面化して記録したことははっきりと覚えています。
その頃からブロックチェーンを活用した商流・物流のパラダイムシフトを起こすことができないか、という考えは、頭のなかにずっと引っかかっておりました。
その後、私は電子マネーやクレジットなど、いわゆるリアルマネーじゃない決済事業を手がけることになりました。電子マネー、中央集権的なサーバー型でやっていきましょうという形で、最初にいろいろなビジネスを立ち上げましたね。
そのなかでもブロックチェーンには好意的印象がありましたから、私がいたフィンテックの会社は結果的にbitFlyerさんと契約して、電子マネーで暗号資産が買えるというサービスを始めました。
決済手段の次は海外への資金移動のサービスをやろうと思いました。
その際、全銀システムを介して送金しなければいけないので、どうしてもコストが高くなる上に時間もかかるという課題に直面しました。正直、「これって既存金融機関と同じだな」と思いましたね。というのは、金融機関のシステムを全部使わないとやろうとしたサービスが成立しないのです。
取引というのは数字がきちんと移転さえすれば簡単に成立する話です。私が1万円を封筒に入れて海外に行き手渡しするといったことではなく、単に情報を移転するだけのはずなんですよ。これこそがブロックチェーンの使い道じゃないかと思いました。
そこで、大手海外暗号資産取引所オーケー・コインの日本法人の立ち上げに参画することにしました。暗号資産交換業者としての登録を完了させて、取引所や販売所、そしてステーキングサービスなどの立ち上げを行いました。
——coinbookさんは満を持して取引所サービスを開始することとなりましたが、今の心境はいかがですか?
藤野:もっとやれることがあったなぁというのが心境としてあります。ユーザー目線でみた時にこれは本当にわかりやすいのか、使いやすいのかと考えた場合、もっと突き詰めて考える余地はいくらでもあったと思いますね。
しかし、どうしても開発者目線というか、サービスをリリースする側の立場に立って進めなければならない時もありました。それでも、本当はもっと攻めることができたし、我々にはその力があるのにといった気持ちが今でもあります。これを忘れずに、これからの改善につなげていきます。
——取引所サービスの開始と同時期にIEOの受付も開始されます。今回IEOを行うNippon Idol Token(NIDT)とはどのようなトークンで、一連のプロジェクトはどのようなものなのか教えてください。
藤野:日本というのは特殊な環境でしてWeb3.0に関連した事業を営む人たち、Web3.0で遊ぼうと考えている人たちにとっては税制面などであまり良くないといわれています。
だけど、IEOについては、しっかりと枠組みを作って取り組んでいる世界で唯一の国なんです。その環境で我々がIEOをさせていただくのはありがたい話だと思っています。
発行体のオーバースさんを含め、金融だとか暗号資産についてしっかりとした知見を持っている人たちがNIDTというアイドルに関するトークンを発行して、どんな経済圏を作っていくのかというのはとても楽しみなところですね。
アイドル側の立場もしっかりと考え、卒業後の退職金のような仕組みもしっかり作っていこうと話し合ったり、ファンの人たちがどんな形でNIDTを使えるのかという話、そしてウォレットの代わりとなる仕組みやNFTをコミュニティの会員証明にできないかなど、さまざまな話をして開発を進めています。
私たちも意見を出させてもらっている立場ですが、NIDTはなかなか面白い経済圏を作ってくれるのではないかと思いますし、その自信はありますね。
NIDTを持つことでいったい何ができるのかといった点ですと、ファンコミュニケーションを活発化させることが可能になるといったところや、何らかの投票の際に毎回CDを買うというのはサステナブルではないため、NIDT と関連させてNFTを使用するなどといったことを実現できると考えています。
これでアイドルがきちんとブランディングされて、その価値が認められれば、経済圏の普及と共にトークンの価値は上がっていくでしょう。
単純にお金儲けができますといったことではなくて、それによってトークンを欲しがったり、トークンによって生まれたアイドルに愛着を持つ人ができるはずです。
そして、立ち上げる際に最初から参加した人たちの支援を認めてあげることができます。トークン保有者たちの支援があったことでこのプロジェクトが立ち上がったと評価される仕組みは面白いのではないでしょうか。
〈後編へ続く〉
識者談「今、この人のハナシを聞きたい」− 藤野周作 後編(4/10掲載)
◉藤野 周作
Profile│ファミリーマートではM&Aの事業戦略、プロジェクトに従事するとともに、商品券やプリペイドカードなどの金券(電子マネーを含む)を用いた決済事業スキームの構築に従事。その後、世界三大暗号資産取引所の1つオーケー・コインの日本法人COOに就任。暗号資産交換業者としての登録〜ブロックチェーンを活用したサービスの開発運用を遂行。2021年、NFTマーケットプレイス開発運営のためORADAを設立。大手〜スタートアップまで幅広い企業へブロックチェーン活用の新規事業開発を支援中。2022年、暗号資産交換業者 株式会社coinbook COOに就任。