さまざまなクライアント企業やパートナー企業と共にweb3プロジェクトを推進したり、グローバルハッカソンを開催したりする博報堂キースリーのCEO重松氏にweb3領域の動向や今後の同社の展望を伺った。
チームビルディングや開発までさまざまな課題を解決
——博報堂キースリーの事業内容について教えて下さい。
重松俊範氏(以下、重松):弊社は独立した子会社でもありつつ、博報堂のweb3専門部隊のような立場でもあります。アスターネットワークの渡辺創太氏もボードメンバーであり、博報堂と彼が共同で設立したジョイントベンチャーです。
博報堂は元々、社会や企業の課題を解決することをビジネスの起点にしています。
生活者を深く洞察するフィロソフィーである「生活者発想」や、クリエイビリティにも強みがあるので、それらを上手く活用しながら、今までWeb2.0で解決できなかったことを、web3のあたらしいテクノロジーを使って解決しよう、という会社です。
企業の新規事業の立ち上げにweb3技術を使ってみるとか、web3でもっとファンとブランドのエンゲージメントを高められないか、というようなことに取り組んでいます。また、グローバルハッカソンを通じて、企業としてこれまで解決が難しかった課題を解決するチャレンジもお手伝いしています。
昨年にはトヨタ様、マツダ様、三菱地所様などと協力し数回開催させていただきました。
——元々は読売広告社の上海支社長であったご経歴をお持ちだと思うのですが、博報堂キースリーのCEOに就任した経緯を教えてください。

重松:新卒で読売広告社に入社し、4年間は不動産広告の担当でした。私は最初がこの領域でとてもラッキーだったと思っています。というのも、不動産広告って関われる範囲がとても広いんです。
たとえば折込チラシの制作や配布はもちろん、ホームページ制作やパンフレットや図面集も手掛けます。TVCM、販売センターの模型やシアター内で流す動画なども広告会社が制作します。小さなことから大きなことまで一気に全て関われたので、広告マンとして良いスタートを切れたと感謝しています。
なかでも印象的なのは、今から23年前の2001年にベイエリアの新築マンションを先輩と担当していた時に、販売センターの中で壁と床に強化ガラスを貼ってテレビを敷き詰めて、人が上に立つとスーッと海上を飛んで物件に到着する、というようなコンテンツを作って、今思えばあれってVRだったな、と思います。
2005年頃、中国市場の重要性が高まり、読売広告社でも中国進出の話がでました。立ち上げメンバーの枠はたったひとりだったのですが、どういうわけか入社5年目の私が選んでもらい、上海に駐在することになりました。
行く前は3年くらいで帰って来ようと思っていましたが、中国語を覚えて、それを使って現地で仕事をする感覚が面白くて、気がついたら12年もいてしまいました。
印象的だったのは2013年に担当した日系スポーツ飲料の仕事で、当時1つのサウナに80何カ国の人が入ったというギネス記録があったことに注目して、それを越えようと99カ国の人を1つのサウナにギュウギュウに押し込んで(笑)、皆がサウナから出てきたところで美味しそうにそのスポーツ飲料を飲むという映像を撮影してPRプロモーションとして使用しました。
ギネスにも無事認定されて、それが中国のニュース番組でも流れました。また、生産工場にプロジェクションマッピングやキネクトを使ったインタラクティブコンテンツをたくさん設置し、近隣小学校の工場見学ルートに認定してもらいました。
この工場見学ツアーにはこれまで何万人も参加していて、とてもやりがいのあるお仕事でした。ちなみにサウナのギネスは、2019年にフィンランドで103カ国の参加により記録を塗り替えられてしまいました(笑)。
中国におけるゲリラ戦を戦っているような感覚はとても魅力的でしたが、一方で自分は今後、日本でちゃんと大企業との仕事もできるのかという小さな不安が募っていました。
以前よりあたらしいテクノロジーが好きだったこともあり、帰国後に、とある大企業のメタバース関連の子会社に取締役として入社しました。ちょうどコロナ禍だったこともあり、ビジネスの展示会が全く開催できない時期があり、これをメタバース空間で開催しようとしました。
自宅からビジネス展示会に出展や参加が出来て、来場者がどの商品のどのPDFを見ているか、というデータを取ることができる。当時はコロナ禍でも新規営業のための名刺獲得ができる、と凄く話題になりましたね。
同時期に、たまたまブロックチェーンに触れる機会がありました。2017年に初めて暗号資産を買ってみたことはあったのですけど、本当に関わり始めたのは2021年頃だと思います。勉強して自分なりに腹落ちしたのが、「メタバースの成立条件はweb3である」という考えでした。
メタバースのなかで私が私であるという証明ができるとか、自分のアバターに着せる服が自分のものであることを証明したりとか、仕事をして対価を貰ってそれを法定通貨にまで転換出来る、といったようにメタバース内で証明や経済活動ができるようになって初めて本当の意味でのメタバースライフは成立すると思ったのです。
そんなことをSNSで呟いていた頃に、博報堂がブロックチェーンの新会社を作るという話があって自分に声を掛けていただきました。私のなかでは、2005年に大きな流れを感じて当時中国に渡ったのと同じように、2023年にこれから間違いなくweb3が来ると感じてこの業界に飛び込んだ感じです。